【東日本大震災】津波で生死を分けたもの

sKenji

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※話に出てくる場所の近くの写真です
※話に出てくる場所の近くの写真です

「まさか、ここまで津波が来るとは思わなかった」

かさ上げ工事が行なわれ、空き地が広がる土地を見ながら女性は言った。場所は宮城県石巻市にある日和山の麓。今月上旬、石巻を訪れた時の話である。

日和山の麓にて

3泊4日の東北旅行中にレンタカーで女川から石巻市内に入ると日和山を目指した。

ただ、山の上に登ろうと思い麓まで来たはいいものの、付近一体は全面的に道路工事が行なわれており、いったいどこに車を止めていいのかわからない。近くに犬と遊んでいる40、50歳代と思われる女性がいたので、

「すいません。日和山に登りたいのですが、どこか車を止めておく場所はないでしょうか」と尋ねてみた。すると

「今日は工事をしていないようだから、邪魔にならないよう道路の脇に停めておいてもいいのではないかしら・・・」

と一度教えてくれた後、少ししてからその言葉を訂正するように、

「でも、工事が始まるかもしれないから、うちの脇にある空きスペースに停めておいたほうがいいかも」と言って、近くの空きスペースを教えてくれた。

教えられた場所に車を停めてお礼を言う。すると女性は

「どちらからいらしたの?」とじゃれついてくる犬の相手をしながら、ほがらかに聞いてきた。

「静岡です」と答えると、「あらまあ、遠いところから」と言って、話が始まった。

最初は移設された「がんばろう石巻」の場所や道路工事についての話だった。しかし、そのうち話題は東日本大震災の話に移る。聞いていいものかためらいがあったものの、震災発生当時のことを知りたいと思い聞いてみたのだ。女性はその気持ちを察してくれたのか、地震が発生した日のことを落ち着いた口調で語ってくれた。

地震発生当時、女性は石巻ではない別の街で働いており、いきなり激しい揺れに襲われたという。幸いなことに勤務場所は海から離れていたために津波影響は少なかったそうである。

揺れが収まった後、女性は自宅に戻るために自家用車で石巻を目指した。しかし、途中で浸水のために前に進むことができなくなる。車を近くの空き地に止めると水の中を歩いた。水位は腰のあたりまであったという。

地震が発生した日、石巻では雪が降っている。3月とはいえ、水はさぞかし冷たかっただろうと思って聞いてみると、「必死だったせいか、冷たさはそれほど感じなかった」と女性は言った。

女性が戻って自宅付近で目にしたのは、壊れた家屋などに埋め尽くされた光景だった。あまりの変わりように呆然としたという。

今はかさ上げされてその差をあまり感じないが、女性が住んでいる日和山のすぐ南側の麓は以前、3、4メートルほどの段差があったそうである。

津波に壊された家屋の残骸は彼女の家のすぐ目の前に流れ着き、その段差にせき止められるようにあったという。

女性の家は、高い方の土地にあったために津波による全壊は免れたものの、大きなガレキが自宅に突き刺さるようにあったそうである。

冒頭の言葉はこの時に女性が発した言葉である。しかし、それは彼女だけの思いではなかった。女性の話は続いた。彼女は目の前のかさ上げされた土地を見ながら、

「そこまでの間で、11人の方が亡くなっています」

と、空き地を横切るようにある2本先の道路付近を示しながら絞りだすように言った。そして、「誰もここまで津波が来るとは思ってもいませんでした」と付け加えた。その言葉は、「もっと早く逃げていれば」と言っているかのようだった。

女性が示した道路を見る。自分が見ているこの場所で11人もの方が犠牲になった。穏やかなその日の景色とはまったく異なる光景が当時、ここにあったのだ。

海までの距離はおよそ1キロ弱。東日本大震災後の今ならばそうは思わないが、当時はまさか津波がここまで来ると思わなかったというのは不思議ではないと思う。

女性の家から2本先の道路まではおよそ100メートルほど。そのわずかな距離の間に生き残った人と命を落とした人がいる。「まさかここまで・・・」という気持ちが生死を分ける。その重みを改めて女性の話で痛感した。

 「【東日本大震災】生死を左右する避難路」 へ続く
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石巻・日和山

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