大曲浜の獅子舞 ~東松島市コミュニティーセンターにて~

sKenji

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「カッ!」っと獅子が口を開いた。

思わず「ゾクッ」とくる。

2013年8月29日。宮城県・東松島市コミュニティーセンター。

日が沈み、あたりが暗くなってきたころ、大曲浜の獅子は息を吹き込まれ、躍動し始めた。

今年7月、大曲浜獅子舞保存会(※)の伊藤会長と保存会の方々にお会いした。その時に聞いた話がずっと心に残っていた。

震災の被害が大きかった地元、大曲浜で獅子舞活動の再開を決断し、初練習を行った際、練習を見にきた地元住民の方々が、獅子が舞う姿を見て、涙したという。

地元の方が涙を流した獅子舞を自分の目で見てみたかった。

そこで、大曲浜獅子舞保存会の方々が、東松島市コミュニティーセンターで獅子舞を演舞するというので訪れた。

開演は19:00。会場の照明が消され、館内が暗くなると、壇上に獅子舞保存会の方々が現れた。

演舞の前に、保存会の方がお囃子について、笛と太鼓を実演しながら説明をしてくれた。

「これはスコロバヤシです。・・・」

「次にケンバヤシです。・・・」

獅子舞の場面ごとにそれぞれのお囃子が決まっているとのことだった。

説明が終わると、いよいよ獅子舞が始まった。

「ピョーヒョロヒョロ」

笛の音が鳴り始めると、太鼓の迫力ある音が後を追うかのように、

「ドン、ドン、ドン、ドン」と、館内を揺らし始めた。

お囃子にあわせて、獅子が壇の下に現れた。

獅子は左右に頭をゆっくり振りながら、一歩一歩踏みしめるように歩き、ステージに上がった。

壇上に上った獅子は変わらない動きでステージ中央まで進んだ。しかし、中央に来たところで、急に囃子のテンポがあがると、それに呼応するかのように獅子の動きも激しくなり、

「カッ!」っと獅子が口を大きく開けたのだった。

獅子の動きは、その後も迫力を増していった。

ところが、中盤に差し掛かったころ、獅子が一升瓶に入ったお酒を飲んでしまう。すると、まるで酔っぱらったかのように頭を上下左右に大きく振り、動き回る。激しい動作は、しばらく続くのだが、しまいに寝込んでしまった。

獅子が寝込むと、かっこ隊と呼ばれる華麗な踊り衣装を着た小中学生の女の子たちが踊りだす。場の空気が一気に華やかになった。

彼女たちが舞台から去ると、今度は手拭いを頭に巻き、ひょうきんな動きをする男性が、扇子と白い紙の束のついた細い棒を持ち、現れた。男性が、持っていた棒で獅子の頭を二度叩くと、獅子がむくっと起きて、再び舞い始める。

眠りから覚めた獅子は以前と同様に躍動した。頭、尻尾を振り、足を大きく跳ね上げて動き回る。

激しさはピークを迎える。

そして、全ての力を振り絞り切ると、獅子舞は終わった。

今回の演舞は、時間にして10分強。

獅子舞の世界に引き込まれて、あっという間の時間だった。迫力あるものだった。

獅子の動きは激しく、踊り手は約30秒ごとに入れ替わって演じられていた。一番の見せ場は、獅子がお酒を飲んでしまい、酔っぱらっている時だった。不意に3、4名程の踊り手が加わると、なんと獅子頭を持っていた踊り手を、肩車して担ぎ上げたのだ。獅子頭は倍の高さになる。圧巻だった。時にはこの肩車、3段になることもあるという。

だが、獅子舞の魅力の源は、迫力ある獅子の動きだけではなかった。激しく見える舞の中にも、獅子の頭や尾の動き、足さばき、耳の動きなどに繊細さを感じる瞬間があり、その繊細な動きと迫力あるダイナミックな動きに、人を惹きつける力が潜んでいるように自分は感じた。

また、お囃子の果たす役割も大きいものだった。

お囃子は2つの大小の太鼓と笛から成っていた。太鼓の迫力は想像以上で、その音は会場の空気を振動させ、揺れが体全体にビリビリと伝わってきた。

聴覚だけでなく、振動感覚でも迫力を感じる。軽やかな笛の音は、どこか懐かしさを想起させると同時に、お祭りの時に感じるような昂揚感を生んだ。

迫力ある太鼓と軽やかな笛の音。この2つの絶妙な組み合わせが、獅子舞をより魅力のあるものにしているように思えた。

「みなさんが元気になれるように・・・。しっかり、祈祷させていただきました。」

最後、伊藤会長はそう言って舞台を降りた。前回お会いした時、会長は、

「自分達が元気に獅子舞を舞うことにより、見てる人に元気になってもらいたい。」と言っていた。

被災された地元の方々は、震災後の獅子舞初練習の時、この大曲浜の獅子舞をどのような思いで見ていたのだろう。今日の私のように、元気をもらったのだろうか。当時、その場にいた方に話を聞いてみたくなった。

獅子舞が終わった後、復興支援活動をされてきたギタリストの野口亮さんの他、キーボードの大楠雄蔵さん、歌手のMIKAさんの演奏や歌があり、公演は終わった。

公演後、余韻に浸りながら会場を出た。そして、思った。

激しさと繊細さを持ったあの獅子にまた会いたい。会場の空気を振動させた迫力ある太鼓と懐かしさを感じさせる笛の音を今一度聞いてみたいと。

私の記憶に焼き付けられた獅子が、今にも息を吹き返しそうだった。

<終わり>

20130829 大曲浜獅子舞1

YouTube

撮影日:2013年8月29日
撮影場所:宮城県・東松島市コミュニティーセンター

20130829 大曲浜獅子舞2

YouTube

撮影日:2013年8月29日
撮影場所:宮城県・東松島市コミュニティーセンター

(※)大曲浜獅子舞保存会は、宮城県東松島市大曲浜地域に江戸時代から伝承されてきた獅子舞が、未来永劫残されるよう活動しています。
東日本大震災では、前会長を始め4名の会員の方が亡くなり、神社に奉納してあった獅子頭や太鼓、法被などの道具類の全てを失いました。しかし、保存会会員の方が集まり今後について相談した結果、全員一致で継続を決め、現在も活動を続けています。

 東松島市大曲浜獅子舞保存会
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東松島市コミュニティーセンター

Text & Photo:sKenji

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