東北に獅子がいた。
2013年7月16日。大曲浜獅子舞保存会の伊藤泰廣さんを訪れる。
お会いしてすぐに、まさに獅子のような人だと思った。獅子舞と同様に、湧き出るような力強さと会った瞬間に人を引き寄せるような力を持った人だった。
大曲浜獅子舞保存会は、宮城県東松島市大曲浜に、江戸時代から伝わる獅子舞を後世にも伝えようとして活動している団体だ。伊藤さんは、その獅子舞保存会の会長をされている。
大曲浜は、東日本大震災の津波で大きな被害を受けた。
住民の方の多くが被災し、伊藤さんも例外ではなかった。ご自宅や経営されていた介護施設の事務所も津波の被害を受け、さらに、従業員や伊藤さんの親族を含め9名の方を津波で亡くした。
伊藤さんだけでなく、獅子舞保存会の他の方も家族、親戚を亡くされているとのことだった。代々受け継がれて来た大曲浜獅子舞保存会の獅子頭や太鼓、笛など獅子舞に欠かせない道具も、津波で流されてしまっていた。
当然、獅子舞保存会の継続は困難であり、伊藤さんも保存会を休止せざるを得ないと思ったこともあったそうだ。
しかし、大曲浜獅子舞保存会は舞うことをあきらめなかった。若手の方を中心に動き出し、獅子舞保存会を継続することにしたのだった。
当初、獅子舞に必要な道具は不足していた。しかし、支援もあり、獅子頭と太鼓二つをなんとか準備することができ、2011年10月6日、再び震災後の初練習を行うことができた。この時、広報もしていないのに、地元住民の方が約50人も集まってきたとのことだった。そして、集まった方々の中には、獅子の舞う姿に涙した人もいたという。
伊藤さんは、この地元の方々の姿を見て、震災後、獅子舞が地元にとって、なくてはならないものとなっていたことを痛感したと言っていた。
獅子舞とは
伊藤さんに、獅子舞の魅力を聞いてみた。すると、
「んーー」
と少し考えた後、
「好きなんだろうね。」
と言った後に、続けて、
「今現在、感じている魅力は仲間との結束感。そして、獅子舞を通して多くの方達とつながっていること。地元の皆さんが獅子舞を愛してる。生きがいとしている。獅子をやることで地元の人が元気になってくれることが魅力。」
と答えてくれた。
今、獅子舞を舞っているのは全国皆様への御礼の意味合いが強いと伊藤さんは言う。東松島市に多くのボランティアの方に来てもらった。そのお礼として、お金やモノ、市長がお礼を言うだけではなく、自分達が元気に獅子舞を舞うことにより、見てる人に元気になってもらいたい。そう笑顔で言っていた。
取材を終えた後、私は伊藤さんにお願いをした。
「次、来たときは、獅子舞を教えて下さい。」
伊藤さんは、笑顔で快諾してくれた。
ただ、伊藤会長の指導は厳しそうだ。この場を借りて、お願いしておこう。「お手柔らかに指導してください。」と。
伊藤さんのある言葉が印象に残っている。
「人のつながりによって人生観が変わる。自分達が良ければいいって気持ちがなくなるんじゃないのかな。それが一番大事なんじゃないかな。」
昔は野心もあり、人のためにという意識は今より少なかったかもしれないと話をしていた伊藤さん。しかし、震災で支援を受けたことにより、「人のために」という思いを強く持つようになったと、大曲浜の獅子は言っていた。
大曲浜
Text & Photo:sKenji
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