一人旅の小学生【旅レポ】

tanoshimasan

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夏真っ盛りの小笠原。父島の宿で働いていた僕は、島のサマーフェスティバル目当てのお客さんを乗せた船を出迎えに向かった。船は満席らしい。900人近いお客さんを乗せた船は「難民船」と呼ばれるほどで、出てくる人出てくる人、すでに疲れた様子なのが印象的だった。港が大いに混雑する中、甚平を着た少年「大将」くんは一人でやってきた。

小学生の一人旅、あだ名は「大将」

重たそうなリュックと手提げかばん、坊主頭、甚平、サンダル、ポッチャリ気味。貫録はあるものの、どう見ても幼い見た目。少年は小学校5年生。なんと、都心から1,000km離れたこの小笠原まで、一人でやってきたらしい。僕はそれまでいくつかの宿で働いたが、小学生の一人旅なんてのはこの少年が初めてだった。

小学生の一人旅という珍しさからか、彼はすぐ、宿での話題の中心になった。ガキ大将みたいな見た目だったので、付いたあだ名は「大将」。でも、悪ガキなのは見た目だけで、小学生にして敬語を使いこなす“出来た子”だった。ちょっとからかえば

「やめてくださいよ~」

と困り顔をするのが面白く、何度も大人たちに可愛がられていた。



聞けば、両親からお金だけ渡され、「夏休みは好きなとこへ行きなさい」と言われたらしい。その両親もなかなかスゴイけれど、それで「わかった」と返事をして小笠原に来てしまうこの小学生もまたスゴイ!

僕なんかは、どうしても見たいお笑いライブに行くため、親の許可を得て初めて一人で東京に出かけたのが18歳のとき。それでも東京みたいな都会に出ることは冒険だと思ったが、この大将くんは、埼玉の自宅からその東京を経由して小笠原まで一人で来たという。それでいて、このまま9泊もすると言うのだから、ただただ感心してしまった。

どうしても「大丈夫?」なんて心配したくもなるのだけれど、当の本人は飄々としていた。むしろ、大人が心配しすぎることで、大将くんの不安を煽らない方が良いという空気になり、僕らは普通に接するようにしていた。朝はご飯を食べて一人でどこかへ出かけ、昼は日陰でおにぎりを食べる。お昼にはまたどこかへ出かけ、夕方には日に焼けて戻ってくる。

大将くんは甚平を着て出かけては虫ばかり探していたらしい。埼玉出身だと聞いていたのに、海に入らないなんて・・・と、大人の僕らは余計なおせっかいを焼きたくなるのだが、彼は

「泳げないから良いです」

と言うのだ。

それならばと、僕らは、食後にお菓子を買ってきては一緒に食べた。お菓子は喜んでくれたようで、大人たちはお酒、大将くんはコーラを飲みながら、「今日はどこへ行った」「明日はどこへ行こう」なんて語り明かす。貫録満点の大将くんだけど、実は宿題がまだ済んでいなかったり、帰ったあとは塾の夏季講習があったりと、小学生なりの忙しい日々が待ち構えているらしい。

自由研究のために、小笠原へやってきた

大将くんが島へやってきて8日目、宿の談話室で彼はおもむろに地図を広げて眺めていた。地図は父島の地図で、デジカメを見てはマジックで印を付けているのだ。一体何をやっているのかと僕は声を掛けてみた。

「島で見た生き物を写真で撮って、地図に印をつけているんです」

と、彼は答える。何でも、理科の自由研究で「小笠原の生き物」として発表したいのだそうだ。彼の友達は公園でカブトムシを研究したり、蝶を研究したりするらしく、そんな友達と差別化を図るべく、小笠原にやってきたのだと言う。

このしっかりした小学生を前に驚いた僕は、「へぇー・・・」以上の言葉が続かなかった。悩んだ末に大学を1年休み、将来について思案しながら島の宿で働いていた僕にとって、小学生にして明確な目的を持ってやってきたこの大将くんが素直にスゴイと思ってしまったのだ。次にどう声を掛けたら良いか分からなくなった僕は、思わず「何か手伝おうか?」と聞いてみたけど、彼はもちろん「いや、大丈夫です」と答えるのだった。ただ、そのかわりにと、ジュースを注いであげると、彼はお礼を言って飲んでくれた。



大将くんが帰る前日となった9日目、宿では翌日に帰るお客さんを見送るパーティが開かれた。短い日々ながら、同じ屋根の下で過ごした旅人同士ということもあり、最後は思い出話に花が咲く。僕らは、大将くんが自由研究用に撮ったという、島の生き物たちの画像を見せてもらうことにしたのだが、そこである異変に気が付いた。9日前、島に来た当初の大将くんに比べ、今日の彼は眼で見てもわかるほどに太ってしまっていたのだ!大将くん本人もそれに気付いていたそうで、本人によると、この9日で3kgも太ってしまったらしい。

大将くんは、島の海で一切泳ぐことなく、毎日山へ出かけては自由研究を完成させてしまった。これが一人旅だと思えば花丸の上出来だろうと思う。海の遊びが人気のこの島だけれど、彼にはきっと違う景色が魅力的に映っていたはずだ。3kg増えたのは、彼がたくましくなったからなのか、単純に太っただけなのか。それはわからないが、自分の意思で行動できる彼に、大人がおせっかいを焼く必要なんて無かったのかもしれない。

「おせっかいを焼く前に自分がしっかりしないと・・・」



20代後半を迎えた今でも、気分を引き締める時に大将くんの顔が浮かんだりする。

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