突然やってきた「外来種」。彼らにとっても小笠原は楽園だった。【旅レポ】

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可愛いトカゲやカエルも、定義に従えば「外来種」

小笠原を歩いていると目にする動物たち。と言っても、それほど大それた動物がいるわけではない。南国というイメージが強い小笠原だが、イグアナやハブのように姿カタチがいかつい動物はまず見かけないだろう。どれも可愛らしいミニサイズのものが多いのだ。

たとえば日常的に過ごしていて、もっともよく目にするものは、おそらくトカゲではないだろうか。遊歩道を歩いていると、ぴゅっと前を横切っていく。もしくは木登りをしあがら、あちらこちらを向いている。内地ではあまり見ない光景だろうか。見かけると、改めて「小笠原に来たんだなぁ」と感じる。

また、島内の車道を見ていると、時折ぺちゃんこになったカエルを見かける。これも、当然内地ではありえない光景だ。蒸した日の夜、街灯を飛び回る虫を狙ってか、ヒキガエルがぴょこぴょこ出てくるのだ。翌日、お察しのとおり、島内を走り抜ける車やバイクによって、実写版・ぴょん吉が地面に出来上がる。

いやはや、さすが小笠原。大自然に恵まれた島は、日常の風景からすでにひと味違う。

ところが、そんな島を象徴するような光景に、いちいち感動しているだけではダメなようだ。自然が貴重とされる小笠原では、事あるごとに「固有種」というキーワードを聞く。文字通り、独自の進化を遂げた小笠原でしか見られない、貴重な動植物たちが小笠原を彩っているのである。

そして、そんな「固有種」たちの天敵として存在するのが「外来種」だ。小笠原の自然が今ほど有名ではなかった頃、当時の移民、島民に連れられて彼らはやってきた。可愛いトカゲやカエルも、定義に従えば「外来種」である。そして、小笠原には豊富な固有種と同じくらい外来種の宝庫でもあるのだ。

雨の日や湿度の高い日になると道路に現れるオオヒキガエル(父島)
雨の日や湿度の高い日になると道路に現れるオオヒキガエル(父島)

絶海の孤島は誰にとっても楽園だった。

絶海の孤島、小笠原諸島は古第三紀(6550万年前から2303万年前までの時代)、火山の噴火と共に誕生した。日本本土からも約1000km離れたその島には当然何もなかったはずだ。それでも何千万年という年月のなかで、奇跡のひとつやふたつ起こったとしても不思議ではなく、流木に種子が付着していたのか、渡り鳥の糞の中に種子が混ざっていたのか、そのきっかけはともかくとして、小笠原はいつしか独自の生態系を持つ島へと進化を遂げた。こうして現在に至る。

人が住むようになったのは、小笠原の歴史を考えればごく最近のことだ。1830年ハワイからの移民30人が住み、定住の歴史が始まった。その後日本の領土となり、戦後はアメリカの領土にもなった。今となってはミクロネシア文化に欧米文化、加えて日本の文化が融合された独自の文化を持つ島である。

これだけ人の出入りの激しい島で、動物に限って「外来種」が入りこまないはずがない。上で紹介したトカゲ=グリーンアノールはアメリカ大陸からペットとして、カエル=オオヒキガエルは害虫駆除を目的として、小笠原の敷居をまたいだ。そのほか、島の丘陵地で草を食むヤギ、畑で見かけるアフリカマイマイは食肉用として小笠原へ。彼らは島にとって便利だと考えられ、人為的にやってきたのだ。

ところが、歓迎されたのは最初だけ。そのすべてが野性化し、それまでマイペースに育ってきた「固有種」を食べ始めたのだ。今まで自分を食べる奴なんて1匹もいなかった「オガサワラ○○」にとっては、驚くべき事件だっただろう。人間にとっても楽園なら、外来種にとっても楽園。小笠原の弱い固有種たちをエサに、彼らは爆発的に数を増やしていった。

島に滞在していると、木に設置されている箱型の装置をみかけるはずだ。その時、詳しい人がきっと教えてくれるだろう。これはトカゲ駆除装置、通称「アノールホイホイ」である。もしくは定期船が島を離れて観光客が少ないころ、島では一定期間立ち入り禁止区域が設けられる。「ノヤギ駆除タイム」だ。

世界自然遺産登録前後、「固有種」が豊富な島の自然を守ろうと、こうした取り組みが活発化している。昔の人間が良かれと思って持ちこんだものだが、回収活動はまさに急ピッチ。楽園の整備が進められている。

島の至る所から顔を出すグリーンアノール
島の至る所から顔を出すグリーンアノール

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