1泊800円、3段ベッド、タトゥー少女、ゲイ・・・沖縄、不思議なドミトリー【旅レポ】

tanoshimasan

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1泊800円

 4月の沖縄本島。その週は悪天候が続き、目的の船の欠航が続いていた。欠航となってしまっては移動もできず、どうしようもないのだが、それほどお金に余裕がなかった僕は、「どうせ動けないならとにかく安いドミトリーに泊まろう。」と決めた。重たいザックを背負い、詳しくないなりに携帯で情報を集め、行きついた先は美栄橋駅近くのドミトリーだった。オープン価格だかなんだか、1泊なんと800円也。 ドミトリーとは宿舎、寮といった意味を持つが、ここでは共同寝室と言えば良いだろうか。要は、ホテルなどと違い、ほとんどの設備が他の宿泊客と共用になる。そのぶん、安価で泊まれるというのが魅力なのだ。

 しかし、いくら沖縄の物価が安いとは言え、1泊800円は安すぎる。沖縄だとそれでも大丈夫なのだろうか。

3段ベッド

 僕は部屋に案内された。部屋と言っても、当然相部屋だが、その造りが凄かった。縦2m、横は10mくらいあろうかという大き目サイズの3段ベッド、その一番上は仕切りの無い長方形のスペースになっており、仕切りの代わりに線が引かれていた。その線で区画されたスペースが寝床である。うろ覚えだが、縦2m、横10mほどの長方形の中で、6~8人くらいが雑魚寝をするような感じだった。 宿泊施設として決して快適な環境とは言えなかったが、貧乏旅行がむしろ楽しいとすら感じていた僕にとって、なんともおもしろい状態である。ちなみに3段ベッドの1~2段目は一応仕切りが付いており、最低限自分の空間が保てるようになっていた。値段はもう少し高かったように思う。

 中にはツワモノがいて、3段ベッドのごくごく限られたスペースと壁を活用して、最大限インテリアを楽しんでいる人がいた。壁にはバンダナや観光土産のペナント(?)が貼られ、貝などの小物をこれでもかと置かれてあったのだ。いやいや、生活感が溢れすぎでしょうよと。しかし、1泊800円である。1か月滞在したところで2万5000円にも届かないのだ。ここの人はいつからここで “暮らし” ているんだろう。

タトゥー少女

 チェックインした時点で夕方17時を回っていた。僕は近所のスーパーで買った食材でソーミンチャンプルと、ナーベラー(ヘチマ)のおひたしを作った。 ドミトリーゆえに食事提供は無く、かわりに共用のキッチンがある。僕が使い始めた当初は誰もいなかったのだが、すぐにぞろぞろとほかの宿泊客がやってきた。

 「ねーねー何つくってるのー?」 一瞬誰のことだかわからなかったが、呼ばれていたのは僕だ。その子はどう見ても僕より幼く、しかもアニメ声とでも言えそうな可愛らしい声だった。が、首、肩からひじにかけてザックリとタトゥーが入っていて、僕はそのギャップに戸惑った。それでいて初対面と言うのにえらくフレンドリーである。

 20年そこそこの人生の中で、身近にタトゥーを彫った友達もいなかったので、しげしげと見てしまったが、とりあえず 「チャンプルとナーベラーのおひたしッス。」

 と、答えた。 「できたらちょーだいね!」

 彼女はそう言ってどこかへ行ってしまったが、その後彼女とは会わなかった。何だったんだろう。

ゲイ

 僕は食事を済ませて男子部屋に戻ると、部屋の両隣の人も戻っていた。一人はアフロヘアーにタンクトップ、あごひげを十分に蓄えたレゲエ調の兄ちゃんだった。そしてやはり、鍛え上げられた右腕に、タトゥー。

 「こんにちはーよろしくおねがいしマス。」 そう言って彼は破顔したが、僕の目線はキョーレツなタトゥーに眼がいった。僕の友達にいないタイプの兄ちゃんだ。人を見ためで判断する気はなかったが、万が一ケンカをしたならば5秒くらいでKOされそうだ。

 ところが、内心震え上がっていた僕の不安をよそに、レゲエ調の兄ちゃんはとにかく気さくだった。地元はどこか、沖縄のどこが良かったか、明日は何しに行くかなど、話したのは本当に他愛のない内容である。僕はつい気になったので、タトゥーについて触れてみた。 「あ、これ興味あります?カッコイイっしょ?実はね、これ彼にやってもらったんスよ。」

 彼?レゲエ調の兄ちゃんが指さした先は、僕の反対側にいる兄ちゃん。思わずぎょっとした。レゲエ調の兄ちゃんが言うには、「彼は彫り師で、タトゥーを彫りながら沖縄を旅してまわる流浪人」らしい。世の中色んな人がいるもんだ。 「いや、でもちょっと悩みがありましてね。最近彼とケンカしたんスよ・・・。」

 レゲエ調の兄ちゃんが相談口調になった。マジッスか。見た目も風貌もいかつい2人だ。さぞや激しいケンカだったのだろう・・・。って言うか、こんなこと僕に話されても手に負えるわけがない。しかし、次から次へと反省の弁が出てきた。 「いや、俺が悪いんす。彼の気持ちわかってなかったんで。」

 「ほんと、彼なりに良くしてくれたんすよ。それなのに・・・。」 「マジ、彼のそういうとこが本当は好きなんですけど。」

 彼彼彼・・・って、ちょっと待って! 「あれ?最初に言いませんでした?俺ゲイなんすよ。」

 ・・・・・! 僕はその晩、ケンカしている2人のゲイに挟まれて寝た。次の日、寝不足でふらふらだったのは言うまでもない。

 

 

 
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