冬の北海道には良い思い出しかない。
僕が初めて北海道を訪れたのは高校生のとき。4泊5日の修学旅行で、4日間スキー漬けだったのを覚えている。母校は男子校だったが、当時の男子高校生にとって、トレンドはスキーよりもスノボ。行く前は「なんでスキーやねん」と、たしかに散々文句を言っていたのだが、それでも今振り返れば楽しかった思い出しか浮かばない。
そして何より感動したのが、持たされたお小遣いで食べに行った“回らない寿司”だった。脂の乗ったトロや、引き締まったカンパチはもちろん、最後はあら汁にまで感動していた。
振り返れば、冬の北海道には良い思い出しかない。
この思い出のおかげだろうか、この思い出のせいだろうか、「寒いところは冬に行くべき」「暑いところは夏に行くべき」と、僕はなんとなくそう思っていた。
夏の北海道も良いらしい。
ところが、夏の北海道も良いらしい。大学生になり、長旅やキャンプを楽しむ部活動に所属した僕は、友人からふとそう聞いた。なんでも、冬は積雪量が多く行動範囲が限られてしまうが、夏は過ごしやすく、遊びも盛りだくさんだと言うのだ。なるほど。
「想像してごらんなさい」と。「広い北海道を不自由なく楽しむなら夏の方が良いでしょう」と。「夏しか営業していない観光施設が北海道にはたくさんあるんだよ」と。「ってことは、夏しか楽しめない北海道もたくさんあるんだよ」と。「冬でめちゃくちゃ楽しかった北海道なら夏もめちゃくちゃ楽しいに決まってるでしょ」と。なるほど。
友人の言い方は強引だったが、なぜか説得力があった。僕は大発見をしたかのように、夏の北海道に惹かれていったのだ。
こうして僕は、数名の部員を引き連れ、夏の北海道への長旅を企画することになった。天売、焼尻、利尻、礼文と北海道の島々4島をめぐる10泊11日。どれも、夏だからこそ楽しめる島々だ。
部活動は旅の道程も楽しむ方針だったので、飛行機や新幹線は使用禁止。必然的に、大阪から北海道までフェリーを使用するという選択肢になるのだが、むしろそれが良かった。いつしか憧れになっていた夏の北海道。2時間弱の飛行機でたどり着いてしまっては味気ない。
バス、フェリー、電車、バス、フェリー、フェリー、バス、電車、フェリー、フェリー・・・
大阪駅から高速バスに乗り、京都の舞鶴市内で降りた。舞鶴市内の中心道路である国道27号線を抜け、舞鶴港を目指す。時刻は20時過ぎ。
「出港まであと4時間もありますよ!」
後輩のMちゃんが笑いながら言った。
「でも船に乗ったら、小樽まで20時間乗りっぱなしやで。」
と、僕は返す。
京都と北海道を結ぶフェリー「はまなす」の出港時間は0時30分。それでも、安価で北海道へ行く唯一の手段※だからか、それとも、北海道でもマイカーで動き回るからか、フェリー利用者は多く、待合所はかなり混んでいた。
大阪から舞鶴までバスで2時間。舞鶴港から小樽港までフェリーで20時間。小樽から札幌へ移動し、札幌から高速バスで3時間かけて羽幌港へ。天売島、焼尻島へはもちろん船を利用する。その後さらにバスと電車で稚内まで北上し、稚内港から利尻島、礼文島へ。言わずもがな、ここでも船に乗る。これを10泊11日で行うのだ。ふぅーっ。
いつしか憧れに変わっていた夏の北海道。移動距離も多く、旅の道程まで楽しめるとは思う。いや、ちょっとさすがに行程を詰め込みすぎたか。いやいや、せっかく行くんだから、あれもしたいしこれもしたい。うーん、悩ましいなぁ。みんなは僕の日程に満足してくれるだろうか。そう言えば、天気予報はどうなってたっけ。うーん。
「まぁいいや。とりあえず楽しもう!」
僕は心の中で勝手に決意表明をした。
0時30分。僕らを乗せた船は、夏の北海道へと動き出した。
※ シーズンにより価格変動はあったが、2008年当時は概ね片道1万円前後だった。
舞鶴港
ここから小樽行きのフェリーが発着する。
この記事に関する参考記事はこちら
もっと島々の雰囲気を感じたい方はこちらから
最終更新: