日本原子力学会が、JR福島駅すぐ近くのコラッセふくしまで、2012年5月26日(土曜日)に開催した『東京電力福島第一原子力発電所の今は?今後は?-』は、原子力利用を推進してきた専門家たちの当学会による、福島県で初めてのシンポジウムだった。
東京電力社員による事故と今後についての報告や、会場からの質問票に応える形で進められたパネルディスカッションを通して見えてきた疑問や課題についてまとめる。(該当する資料については、日本原子力学会のホームページをご参照ください)
(1)報告セッション
(2)パネル討論
●日本原子力学会シンポジウム発表資料の一覧
福田俊彦さん(東京電力原子力品質・安全部長)の報告に関して
◇本地震は、「地震調査研究推進本部の見解に基づく地震」でも、「佐竹氏により提案された貞観地震」でもない、より広範囲を震源域とする巨大な地震。(発表資料12ページ)
地震研究所の佐竹健治教授が2008年に指摘した貞観地震の津波被害について、今回の震災は貞観地震よりもはるかに巨大だったため想定を超えていたと主張した。津波の波源モデルでも異なると説明したが、示された資料では波源の中心エリアはほぼ一致、さらに比較する2枚の地図の縮尺が異なり、説得力を欠くものだった。
◇原子炉への注水に消防車を利用した件について、「中越沖地震対策で配備した消防車(応用動作)」と解説。(発表資料29ページ)
・注水口を捜索するが、なかなか発見できず・淡水現場の放射線量が高くなってきたため、一旦中断して、全面マスク着用で注水を再開
・原子炉建屋が爆発、ホースが損傷と当時の状況について説明した。
大阪大学大学院教授の山口彰さんは、消防車の「応用動作」(想定された用途以外での緊急時対応)を評価するも、あらかじめ策定した手順を墨守する組織文化に問題があると指摘した。
◇厳しい環境下での現場対応(格納容器ベント)(発表資料33ページ)について、「高齢の作業員を中心にチームを組んで行った」と口頭で説明。
“危険な作業だから高齢者”という考え方を全面的に支持しうるものなのか疑問。
◇津波の影響により想定した事故対応の前提を大きく外れる事態となり、これまでの安全への取り組みだけでは事故の拡大を防止することができませんでした。(発表資料36ページ)
大きな災厄をもたらした原発事故だが、想定を外れる事態だったから対処できなかったとの説明に、「もっとしっかり想定するから今後は大丈夫」と断言できるのか。安全を担保できるのか。重い疑義を感じる。
山下和彦さん(東京電力福島第一対策担当部長)の報告に関して
◇各号機原子炉建屋の現状の耐震評価を実施し、補強を行わなくても耐震安全性を確保できることを確認。(発表資料16ページ)
確認したにも関わらず、4号機燃料プール底部に鋼製支柱を設置し、さらにコンクリートまで打設している理由が「安全余裕向上のため」というだけでは希薄。かえって確保したとする耐震安全性に疑念を感じる。
◇今後の中長期計画(中長期ロードマップ/研究開発)との章立て(発表資料21ページ)山下さんの発表に関して一番引っ掛かった、というか原発対応全般について最大の問題と認識したのが、この期に及んで“研究開発”が重要と位置付けられている点だ。資料の22ページには「廃炉作業と平行して多くの技術開発を進めていく必要がある」とし、その研究開発のテーマが18にも及ぶと説明。
想定外はあり得ないとの前提が、これまでシビアアクシデントを対象とした真の研究を妨げてきたために、重大な被害を引き起こした事故が発生した後になって“研究開発”が急務という話になっている。
大量の放射性物質を環境に放出した今回の事故から学ばなければならない、重たいテーマだ。
山口彰さん(大阪大学大学院教授)の報告に関して
◇地震や津波がきても大丈夫か?確率論的リスク評価(発表資料16ページ)について
発生頻度と炉心損傷頻度の確率を示しているが、その根拠について分かりやすく説明してほしかった。たとえば注水ラインの機能喪失の発生頻度が1年当たり6.6%となっているがなぜ?また、きわめて低い頻度でも発生すれば致命的という事象をどう評価するのかが示されなかった。
◇安全の根本となる枠組み――深層防護(発表資料22ページ)について
「深層防護とは不確かさに対する備え」「想定の向こう側への備え」と指摘。あらかじめ考えうるものを超えた側への備えをどう考えるのか。深層防護における失敗のリスクをどう見積もるのか。深層防護という言葉が示されたことで、原発が「人類の英知を注ぎこまなければならない」存在であることが明らかになったと感じた。
取材・文:井上良太
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