茨城県原子力安全対策委員会の委員構成って?

iRyota25

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あ、書き出しと締めくくりで「記し」が変わっているので、ぜひ終わりの方までお読みいただけたらうれしいな。日本で最初に商業用の原子力発電所が設置された茨城県。東海第一原発(黒鉛炉かつ商業用原子力発電所)は1998年3月31日に営業運転を停止し廃炉になったが、日本原子力発電が運営する東海第二発電所(110万kW)は現在も現役として再稼働を待つ状況にある。

原子力発電の嚆矢となった場所で生き続ける原発。その地元・茨城県の原子力安全対策委員会のメンバーに、原子力関連メーカーや原子力事業者から寄付金などを受けていたことがわかった。3月18日の県議会での大内くみ子氏の質問とそれに対する答弁を受けて、NHKや朝日新聞などのメディアによって19日付で伝えられた。

どんな面々だったのか。いかほどの金額か?

報道等で指摘されたのは、14名の委員のうち3人が、原子力関連メーカーや原子力事業者から寄付金などを受けていたこと。委員への就任にあたり特定の利害関係の有無を確認するための自己申告書に「寄付金や共同研究、委託・請負」などの資金て今日を受けていたと答えた3人とは、いずれも東京大学大学院教授の、

岡本孝司委員長
関村直人委員
田中知(さとる)委員

の3人でそれぞれ、岡本氏は三菱重工業や日本原電から1,343万円を超える研究費、関村直人氏は三菱重工業から3,188万円、田中氏は日立GEニュークリア・エナジーから51万円を受け取っていたと指摘された。

名前だけではピンと来ないかもしれない。それぞれの顔写真を見れば、「あ、この人見たことある!」と思われるのではないか。

 岡本孝司 - Google 検索(画像)
www.google.co.jp  
 関村直人 - Google 検索(画像)
www.google.co.jp  
 田中知 - Google 検索(画像)
www.google.co.jp  

三人目の田中さんについては、それほどテレビでの露出がないのでご存じない方も多いかもしれない。田中知さんは現在の原子力学会会長で、総合資源エネルギー調査会総合部会基本問題委員会委員、東京電力株式会社福島第一原子力発電所­事故の技術的知見に関する意見聴取会委員、青森県原子力安全対­策検証委員会委員長などを務めている。

上の二人には直接対面したことはないが、田中知さんには福島県で始めて開催された原子力学会でお目にかかったことがある。名刺交換すらしない短時間ながら立ち話だったが「知りうる情報が限られている私たち一般市民に対して、専門家としてできるかぎりの情報提供をお願いしたい」と伝えたことがある。

資金提供を受けていたことが問題なのか?

自分が感じる限り、メディアが伝える記事の中で論点となっているのは、県の原子力安全に与る人たちの中の3人が、原発や原子力関係企業から資金提供を受けていたこと、のように見える。

しかし、委員に選ばれた人たちは、選任されるに当たって、特定の業界との関わりの有無について自己申告を行っている。

 茨城県ホームページ>生活環境部>原子力安全対策課>いばらきの原子力安全行政
www.pref.ibaraki.jp  

ページの中ほど、「有識者自己申告一覧」のところで「茨城県原子力安全対策委員会の委員を選任する際の要件を定める内規」に該当するかどうかの自己申告へのリンクがあります。

ということは、三人は委員に選任される候補となった時点で「原子力業界と関わりがある」と自己申告した上で、選任されたということで、問題は資金提供を受けていたかどうかではなく、資金提供を受けたと申告している人を選任したことが問題だということになる。

事実、県議の大内くみ子氏が追求しているのはその点だ。選任した知事の責任を問うている訳だ。

その事自体を報道するかどうかはメディアの判断によるところだろうが、そこに微妙なズレがあるように感じる。

14分の3ではなく、5分の3

委員として選出された人たちの専門分野と人数は以下のようになっている。

地震学、2名
放射線障害、2名
原子炉工学、3名
核燃料工学、2名
環境放射線、1名
爆発安全工学、1名
建築構造地震工学、2名
津波工学・海岸工学、1名

専門家というのは、自分の専門の領域を越えたところで意見を述べないものだ。たとえ疑義を呈するようなことがあったとしても、相手の領域の専門性を尊重するだろう。そこでだ、

たとえば、マグニチュード8.5の地震が発生した時に東海第二発電所の安全性がどうかというテーマで話し合いが持たれたとする。

▼地震学の専門家は、考えられる地震の規模や津波の規模について考えられる最大の「数値」を提示するだろう。

▼原子炉工学や核燃料工学の専門家は、それに対して東海第二発電所の安全性を分析、解析した上で、起こりうることを最大最小の「数値」と「確率」によって述べることになるのだろう。

▼環境放射線や放射線障害の専門家は、原子力関係の専門家が提示した「数値」や「確率」に基づいて提示することになる。

実際に事故が発生した時に、住民(発電所から30キロ圏内に100万人がいるという)に直接的に影響してくるのは、環境放射線や放射線障害の専門家が示す想定である。しかし、その想定は原子力関係の専門家が示した前提の上に立っている。

そして重要なのは、それぞれの専門分野や極めて専門性が高いことだ。とくに原子炉工学や核燃料工学はブラックボックスに等しい。原子炉の中でどんな配管がどのように張り巡らされているかなど、専門家か事業者でない限り知り得ない。

仮に原子力関係の専門家が、「考えられる最大の地震や津波に対しても、大丈夫です」ということを数値と確率をもって提示すれば、人々や環境への影響は、その前提の上でしか構築できない。

そう考えると、原子力関係の専門家がこの委員会の急所をおさえているということが分かる。14人の委員のうち3人が資金提供を受けていたということが問題なのではなく、14人の委員の中で原子炉工学と核燃料工学を専門とする5人が、委員会の議論の核心部分を掌握し、しかもそれが完全なブラックボックスであり、その他の委員は「専門性」の垣根を越えて踏み込むことができない。

委員が14人いても、5人の言動でコントロールされうる委員会であるということが問題なのではないか。

原子力に関する専門家を選ぼうとしたら、業界からの資金提供を受けた人たちしかいなかった。

端的に言って「ひも付き」は排除した方がいい。しかし、本義である原子力安全対策を考える上では、原子力関連の専門家の知見は不可欠だ。なければできない話であるから(なにしろブラックボックスなのだから)その方面の専門家を選任しようとする。選任しようとしても、大御所とされるような人たちで関連業界と何らかのつながりを持たない人は希有だ。

原子力の核心深いところまでの知見を有しつつ、原発業界に対して潔癖な姿勢をとり続けている人たちといえば、たとえば「熊取六人衆」。京都大学原子炉実験所原子力安全研究グループの6人(海老沢徹さん、小林圭二さん、瀬尾健さん、川野真治さん、小出裕章さん、今中哲二さん:うち瀬尾さんは逝去)くらいしか一般には知られていない。

そんな少人数の人たちにすべてを任せてしまっては、彼らが早死にしてしまう。

しかし、この事自体はさほど悲観することではないのではないか。
ここでは敢えて名前をあげることはしないが、たとえば東京電力の中にも「科学者、あるいは技術者としての良心のもとに発言している人」は複数人いる。

大学教授ではなくても、現場に入って、事故の状況をつぶさに焼き付けた技術者はたくさんいる。彼らに語ってもらうこと。何百人もの技術者の声をもとに、原発事故の事実を再構築すること。それは可能だ。

たぶん希望はある。

話はごろっと変わるが、昨年の3月11日にクランクアップした映画「朝日のあたる家」の太田隆文監督がいつも言っている。

いや、映画を作ろう。僕にできるのはそれしかない。原発事故の悲惨さを、福島の人たちの悲しみを痛感できる映画を作ろう。映画会社、ビデオメーカー、テレビ局、いくつもの企業に企画を持ち込むが、「原発の映画には出資できない」と断られる。業界の先輩たちからは、「そんな映画を撮ったら、二度と商業映画は撮れなくなるぞ」と注意された。原発というと多くの人が避けて通ろうとする。だが、ここで諦めたら商業映画が監督できなくなる以前に、「親子に伝える大切なこと」を伝える映画を撮る資格がなくなる。途方にくれていたとき、三上市長の存在を思い出し、相談。「市民からの寄付で作れるのではないか?」と提案を受ける。それに賛同してくれた湖西市民の方々の応援でスタート。1年半後、映画は完成。ロスアンゼルスの映画祭で上映。大好評を得た。いよいよ日本での公開がスタート。

映画 朝日のあたる家 公式ホームページ

「朝日のあたる家」は原発事故の実情を描き上げた名作だ。
その作り手が、先輩の映画監督から「そんな映画を撮ったら、二度と商業映画は撮れなくなるぞ」と忠告を受けたにも関わらず、いつも自分が今作っている映画こそが遺作との決意から、太田さんは、立った。

「あいつは業界から金貰ってるからダメだ」と指弾するのではなく(それも大切だろうが)、一歩を前に向かって踏み出すこと。

原発事故で途方に暮れている科学者や技術者は何百人もいる。
彼らの中から「前へ」と踏み込んでくれる人たちが出現することを期待します。

そうすれば、マスコミが取り上げたようなちょっとズレた問題なんか、自然消滅する。
福島の大熊町では現実に事故が起こっている。その収束のため、廃炉のため働いている人たちがたくさんいる。たとえ1Fの構内に入らなくてもできること。たくさんある。自分にしかできないことがいっぱいある。

原子力安全対策委員会の委員に業界から金貰ってた人がいたとかいないとか、そんなこと打ち消すくらいの明日をみんなでなんとかして作りたい。

井上良太●記す

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