福井県が原子力災害時の避難シミュレーション

iRyota25

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7月29日、福井県が県内の原子力発電所で災害が発生した時の避難シミュレーションを公開した。先に発表された静岡県の浜岡原発でのシミュレーションと同様に、福井県でも2段階避難を推奨している。(現実味に乏しいと思うのだが…)

「予防」という言葉に惑わされてはならないPAZ

まずはお馴染みの難解用語、PAZとUPZから。

PAZ:予防的措置範囲 UPZ:緊急時防護措置準備区域
PAZ:予防的措置範囲 UPZ:緊急時防護措置準備区域

確認しようと検索すると「PAZ」で調べて出てくるのはパチンコ屋とかフットサルクラブ、飲み屋のホームページ。こんなに分かりにくい用語なのだから、みんなが調べていて検索順位も高いだろうと思っていたから驚いた。小難しすぎて調べる気にもならないのかもしれない。(ダメじゃん…)

「予防的措置範囲」と「緊急時防護措置準備区域」と日本語で並べると、緊急時とつくUPZの方がレベルが高そうな印象があるかもしれないが、PAZの「予防」には恐ろしい意味がある。予防といっても予防接種の予防とは言葉の重さが違うのだ。原子力規制委員会の資料にはこう書かれている。

IAEAの安全要件GS-R-2及び安全指針GS-G-2.1(DS-105)において、確定的影響のリスクを低減するため、施設の状況に基づいて放出前又は直後に、予防的緊急防護措置を実施するための整備がなされていなければならない区域として提案されているところ。

IAEA 文書において示された予防的措置範囲(PAZ)について

東京電力の原発事故以来、多くの人たちが心にとめている放射能の影響、たとえば将来ガンになるリスクといったものは「確率的影響」という。放射線を浴びる量が高ければそれだけ罹患する確率が高まるという種類の危険だ。

これに対してPUZが問題にしている「確定的影響」とは、その量の放射線を浴びるとほぼ確実に症状が起きるという高いレベルの放射線被害のことだ。脱毛、白内障、口腔や消化管からの出血、そして死。極めて重篤な状況を予防するため、放射性物質が放出される「前または直後」に防護措置がとられなければならないエリアということだ。

その範囲は、原子力施設の規模によって異なるが福井県では、

PAZは半径5キロ
UPZは半径30キロ

と設定している。

福井県のシミュレーションは原発単位

福井県が発表した避難シミュレーションは、「敦賀」「美浜」「大飯」「高浜」と県内に4カ所ある原子力発電所ごとに計算されたものだった。

避難時間推計シミュレーションの結果一覧(原子力災害を想定した避難時間推計シミュレーションの結果の概要 | 福井県)
避難時間推計シミュレーションの結果一覧(原子力災害を想定した避難時間推計シミュレーションの結果の概要 | 福井県)
 原子力災害を想定した避難時間推計シミュレーションの結果の概要 | 福井県ホームページ 平成26年7月29日
www.pref.fukui.lg.jp  
 原子力災害に係る福井県の対応について | 福井県ホームページ
www.pref.fukui.lg.jp  

PAZの住民が30キロ圏外まで完全に避難した後に、UPZの住民が避難指示に従って避難するという「2段階避難方式」では、いずれの条件でもPAZの住民が最短で避難できるという結果が出ている。

しかし、PAZ、UPZの双方合わせた30キロ圏の住民全員の30キロ圏外への避難ということで見てみると、最短パターンと一斉避難の時間差はわずかでしかない。しかも避難時間が最長となるのは2段階避難で季節が冬といった条件だった。

実際に原子力発電所で事故が発生した時に、5キロと5.1キロの住民で避難のタイミングが大きく異なるというのは現実的とはいえないのではないか。このシミュレーション結果をもって、「段階的避難の有効性、自主避難の抑制、自家用車数の抑制についての住民の理解促進」という結論を導いているのは、国の方針に迎合しているだけのようにも思えてしまう。

とはいえ、数値は正直で、言葉でのまとめ以上の課題を浮き彫りにしているように見えるので、福井県以外の方にも是非ご覧いただきたい。

最大の問題は、複数の原発が同時に被害を受けた時

福井県の若狭湾沿いは「原発銀座」と呼ばれる。関西電力の原発が3カ所、日本原電の原発が1カ所、さらに高速増殖炉もんじゅまでが並んでいる。立地はいずれも海岸沿いだ。

福井県の避難シミュレーションは、もんじゅを除く4つの原発それぞれからの避難を想定していた。しかし、巨大な自然災害などによって複数の施設に被害が及ぶおそれがないとは言い切れない。

福井県の原子力発電施設をGoogle Map上にプロット。赤い円は施設から半径30キロ
福井県の原子力発電施設をGoogle Map上にプロット。赤い円は施設から半径30キロ

若狭湾沿岸の原子力施設のUPZ(30キロ圏)を地図上に描くと、すべての円が重なり合っていることがわかる。

複数の原発が同時に災害に巻き込まれた場合には、トラブルを起こした原発に挟まれる地域の人たちはシミュレーションよりも長距離を迅速に避難する必要が出てくる。

地図で見ると、原発施設から離れるには南の琵琶湖方面への避難が効率がよさそうに思えるが、福井県から南の滋賀県、京都府、南西の兵庫県へは抜けるには山越えが必要になる。さらに若狭湾から関ヶ原を抜けて東海地方を結ぶ帯状のラインは風の通り道として知られている(冬に東海道新幹線が関ヶ原で雪のため徐行するのもそのせいだ)。事故発生時の風向きにもよるが、放射性物質の通り道になっている危険性も十分に考慮する必要がある。

放射性物質が同心円状に広がっていくものではないことを、私達は東京電力の原発事故から学んだ。今回のシミュレーションは福井県によるものだが、いったん事故が発生した際には一県だけで処理できる問題ではない。地形や避難経路、木小乗条件まで考慮して、隣府県との協働によるより現実味のある避難計画を立ててほしい。

福井県の原発から直線距離で20数キロのところに、兵庫県や京都府のいくつかの小学校・中学校がある。同じく滋賀県側には鉄道の駅もある。原発事故を立地県、立地自治体だけの問題として片付けることなど不可能なのだ。

文●井上良太

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