復興支援リポート•日本原子力学会、福島で初のシンポジウム

Rinoue125R

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2012年5月26日(土曜日)、日本原子力学会によるシンポジウム『東京電力福島第一原子力発電所の今は?今後は?-』が、福島市のコラッセふくしま・多目的ホールで開催された。

原発事故以来、原子力学会によるシンポジウムが福島県で開催されたのは今回がはじめて。シンポジウムは、東京電力の担当者による『報告セッション』と『パネル討論』の2部構成で、来場者からの質問も受け付けた。報告セッションで発表したのは、東京電力原子力品質・安全部長の福田俊彦さん、東京電力福島第一対策担当部長の山下和彦さんの2人。それぞれ原発事故対応の概要、第一原発の現状と中長期対策をテーマに報告が行われた。

会場となったコラッセふくしま前の空間線量は、0.945μSv/h。地元の人いわく「あそこは高い場所だから
会場となったコラッセふくしま前の空間線量は、0.945μSv/h。地元の人いわく「あそこは高い場所だから

原子力学会のシンポジウム資料

(1)報告セッション

 東京電力福島第一原子力発電所事故対応の概要 (東京電力)福田俊彦さん
www.aesj.or.jp  
 東京電力福島第一原子力発電所の現状と中長期対策 (東京電力)山下和彦さん
www.aesj.or.jp  
 東京電力福島第一原子力発電所はどのような状態か?心配なことは何か、安心できるのか? (大阪大学)山口 彰さん
www.aesj.or.jp  

(2)パネル討論

 パネル討論における質問と回答
www.aesj.or.jp  

●日本原子力学会シンポジウム発表資料の一覧

 福島特別プロジェクト情報
www.aesj.or.jp  
 日本原子力学会 - 公開資料(年会・大会・原子力総合シンポジウム・報告書)
www.aesj.or.jp  

東電社員からの報告と大阪大学山口彰教授の講演

当日の報告は、資料を説明する形で進められたもので、これまでマスコミ等で伝えられてきた内容と相違はほとんどない。ただ、東京電力の福田さんが「福島第一原子力発電所は地震そのものではダメージを受けなかった。緊急停止は正常に機能した」といった話をしていたところ、

「うまく行っている話はいい。いままでにもたくさん聞いてきた。うまく行かなかったことについて話してほしい」

という声が会場から上がった。この発言に対して、「そうだ!」との声が上がる一方、「一通り話を聞こう」、「話を全部聞きたい」という会場からの声もあり、最初の発言者は「わかりました。続けてください」と矛を収めた。

福島で初めてのシンポジウムということで、厳しいやり取りも予想されたが、聴衆から声が挙げられたのはこの時だけ。意外なほど静かな進行だった。

東電社員からの報告に続いて、大阪大学大学院教授・山口彰さんが、「心配なことは何か、安心できるのか?」という視点から、事故後の原発が抱える技術的課題を整理。これを受けて、会場から寄せられた質問に応えるパネル討論がスタートした。

会場から寄せられた質問による討論の内容

事前に準備された資料について説明するスタイルの催しにあって、書面での質問とはいえ、専門外の人々からの質問に応えるパネルディスカッションは、今回のシンポジウムのハイライトだった。寄せられた質問と討論の内容について概略をお伝えしよう。

パネラー
田中知さん(日本原子力学会会長/東京大学大学院教授)
澤田隆さん(日本原子力学会副会長、「原子力安全」調査専門委員会主査/三菱重工)
福田俊彦さん(東京電力原子力品質・安全部長)
山下和彦さん(東京電力福島第一対策担当部長)
山口彰さん(大阪大学大学院教授)

循環冷却が不要になるまでにどれくらいの時間が必要なのか?動力を使って冷却しなくてもよくなるまでの時間を知りたい。

山下さん:2015年までには止めたい

山口さん:崩壊熱が出続ける限り冷却は続けなければならない。

冷温停止と言っても、冷却のための水を回し続けなければならない状態では、“想定外”の事態によって冷却ができない状況が発生しないとも限らない。その必要がなくなるまでの時間を問う質問だったが、東電の山下さんは現状の循環冷却システムをより安定性の高いものに更新するまでの期間を答え、それに対して大阪大学の山口さんが質問者の意を汲んで修正するという形での回答だった。しかし、核燃料を放置しても大丈夫な状態になるまでの期間については、明確な回答はなかった。

放射線物資はどんな形をしている?ガスなのか、ダストなのか?

山口さん:ガスの形のものはすでに出尽くしている。現在は原子力発電所のガレキなどのダストにセシウムが付着しているものがほとんどだと思う。田中さん:セシウムは何らかの化合物になっていると考えられる。水酸化セシウムなどはベタベタしているので、細かなダストに付着しているのだろう。

非常用ディーゼル発電機など、シビアアクシデントに対応すべき機材の設置場所が防水されていなかったのは人災と言えるのではないか。

福田さん:津波被害については、チリ地震による津波を想定していたので、その時点では大丈夫だと考えていた。

作業に当たる人の確保や健康管理・保障は?

山下さん:弊社で作業していただいた方については、下請け・孫請けの事業者も含め、一生健康管理の情報を把握していく。健康管理は充分行っていく。

アクシデントマネジメントで足りなかったものは?

福田さん:電源がやられて計器が動かなくなったこと。万一の場合には隣のプラントから電源を借りて来ることを想定していたが、複数プラントが一度にやられることは想定していなかった。

山口さん:手順を考えるばかりで、万が一の場合にどんなことが起こりうるか、可能性をすべてリストアップしていなかったのではないか。シビアアクシデントでは、想定を超えた事態への対処がきわめて重要になる。緊急冷却のために消防車を使ったというような、本来の手順からは逸脱する対応を行う柔軟性が大切では。

原子力学会として、事故の危険性や事故後の対策について事前に伝えることはできなかったのか?

山口さん:研究は行われていたが、議論を提起するには至っていなかった。個々の学会員は個人として研究している立場なので、社会に発信することが難しかったことはある。最近では法規制そのものを科学するレギュレーション・サイエンスなどの学問も立ち上がっているので、シビアアクシデントへの対応について、研究成果を社会に伝えていく必要がある。

廃炉が完了したらその土地に住めるようになるのか?

山下さん:敷地周辺地域の周辺の除染ができれば、廃炉の途中でも可能性はある。アメリカの事例では、廃炉作業を行う作業員が暮らす町が、現場の近くにできている。参考になるのではないか。

上記の説明の一方、廃炉作業中にはこれまで以上の高線量のガレキが排出されることになるとの指摘もあった。周辺の除染が進んでも、40年に渡って廃炉作業が進む間は、まったく安全とは言えないことになる。質問者はふる郷を追われた住民たちの帰還の可能性について質したと思われるが、廃炉作業員による新たな集落の可能性という、すれ違った議論になってしまった。

森林の除染はどうするのか?

参加していた原子力学会員の方:森林の除染はきわめて重要。一度やれば終わりということではなく、毎年行う必要がある。また焼却の際に揮発するセシウムを回収するためのフィルターをどうするか、放射線量が高い焼却灰をどう処理するかなど、これから解決しなければならない課題が多い。田中さん:避けて通れない重要な問題。一度除染しても、雨が降って泥が流れ込むことで、ふたたび汚染されてしまう場合があるので、措置を講じる必要がある。

福島第一原子力発電所では、これから40年かけて廃炉作業が進められる。建屋が爆発した沸騰水型原子炉の廃炉は、人類が初めて体験する作業になる。しかも、溶けた燃料が溜まっていると考えられる場所は「多数の制御棒駆動機構等が貫通した複雑な形状」(山下さんの発表資料)だ。作業を進めるためには、今後の研究開発が欠かせない。となると、専門的な知見を有する研究者や技術者に対して期待せざるを得ないというのが現実だ。

“想定外”によって福島にもたらされた余りにも大き過ぎる災厄。その元凶を安全に撤去するために、これまで“原子力ムラ”とひと括りにされてきた人たちの力が不可欠なのだとしたら、その人たちがどんな顔をしていて、どんな言葉を話す人なのか、対面して、言葉を交わすことができる場は極めて重要だと考える。

日本原子力学会では、今後も福島県内でのシンポジウムなどの活動に取り組んで行くとしている。

取材・文:井上良太

 【ぽたるページ】復興支援リポート•日本原子力学会のシンポジウムで見えてきたこと - By Rinoue125R - ぽたる
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シンポジウムの質疑を中心にまとめた記事もご覧下さい。

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