星座の探し方から神話や歴史、宇宙についての基礎知識までわかりやすくドラマチックにお話しをしてくださるのが渋谷のプラネタリウムでカリスマ解説員として活躍中の永田美絵さん。夏休みは親子で楽しめる企画も多いプラネタリウム。星空の魅力についてたっぷり語っていただきました。
永田 美絵(ながた みえ)
星空解説員。幼いころより星が大好きで、大学卒業後、天文博物館五島プラネタリウム、東急まちだスターホール、五島光学研究所などを経て、現在株式会社東急コミュニティーコスモプラネタリウム渋谷解説員。NHKラジオ第一「子ども科学電話相談」の天文・宇宙関連を担当。東京新聞連載「星の物語」を執筆。近著に「星座の見つけ方と神話がわかる 星空図鑑」(成美堂出版)、「星は友だち!はじめよう星空観察」(NHK出版)、「太陽系のふしぎ109」(偕成社)、「カリスマ解説員の楽しい星空入門」(ちくま新書)など。
星を語る仕事を目指し、まっしぐら。
――永田さんはプラネタリウム解説員の中でも大ベテランですが、後進を育成されながら現在も日々解説をされていらっしゃいます。あの語りは永田さんだったのか!と気づかれる方も多いかもしれません。なぜプラネタリウムの仕事を始められたのですか?
町田の東急百貨店屋上に「スターホール」というプラネタリウムがありまして(現在は閉館)、学生時代にそこでずっとアルバイトをしていました。大学卒業と同時に入社したのが渋谷の五島プラネタリウムです。仕事を始めてしばらくしてから娘を出産し、その後シングルマザーとなってからプラネタリウムだけで8か所勤務していました。渋谷、町田、ベネッセ、サンシャイン…などお手伝いにお声がかかれば行って、そのほかコンビニ店員、塾講師、新聞の原稿執筆や、NHKの子ども電話科学相談やフリー解説員として始めました。その後にイベント事業などもやっていました。百貨店やホテル、イベントホールなどに簡易プラネタリウムを持っていき、そこでお客様に星のお話をする…というものです。
――星を語る仕事はとってもクリエイティブだと思います。
いろんな機械を触らせてもらいました。プラネタリウムの機械は日本製だけでなく、ドイツやアメリカなどいろいろな国のものがあります。どのメーカーのものでも動かせるのはなかなかいないかもしれません。もう、どこに行っても大丈夫という経験があったからこそ。当時の経験が今役立っています。自分にはちょっとハードルが高いと思うことでも、やってみたい!という気持ちが先にあってとりあえずやってきた…という繰り返しでした。
――天文学とか専門分野で勉強をされてきたのですか?
ラッキーなことに、私は小さなころから星が大好きでした。ものごころついた頃から将来は星関係の仕事に…と思っていて、学生時代に川崎のプラネタリウムへ(空と緑の科学館)よく行っていました。解説員はブースに入って何か読んでいるのかな?と思っていましたが、ライブで話されていた。人によって言うことも全然違うし、すごいなぁ!と。どうやったらこの仕事ができるようになるのか?聞いてみたのです。当時は女性解説員もまだ少なかった。まず理科系の大学を卒業してプラネタリウムに声を掛けてごらんとアドバイスされて、天文関係に近い学部を見つけて進学。そして大学時代にアルバイトをした町田のスターホールにたまたま私が通っていた大学の卒業生がお勤めされていたご縁がありました。
――リケジョのはしりですね。将来の仕事を見据えて大学へ進むのも珍しいと思います。
プラネタリウムは神話が好きな方も多いのですが、私はどちらかといえば宇宙論的な観点が好きで。五島プラネタリウムが閉館してしまってからイベント事業の仕事を興して、プラネタリウムの機械をつくる会社へ転職。そこで渋谷に新しくオープンするコスモプラネタリウムにきてほしいというお話をいただきました。今は渋谷のプラネタリウムに常勤していますが、日本全国にあるプラネタリウムが所属するJPAという団体で新人研修をしたり、「星のソムリエ」という一般の方対象にした星空案内人育成プログラムで年数回は講師を務めています。
本好き少女が数学塾で目覚めた宇宙論。
――これまでの経緯を伺って、永田さんが相当星の勉強をされてきたことがわかります。幼少期はどんなお子さんでしたか?
本ばかり読んでいました。遺跡好きな父が本好きで、とっても変わっている父でしたが影響を受けています。父から初めてもらった本が「ツタンカーメン王の呪い」という厚みのある本でした。小学校時代は、学校の図書館で一番本を多く借りて読んだ人に選ばれたこともあります。あらゆるジャンルを読破してきて、本を読んでいる合間の世界感が好きで、星の本も大好きでした。
――星を解説される語彙が豊富なのもうなずけます!勉強もよくおできになった?
いえいえ。科目的には算数が得意でしたね。実は今も、大人のための数学塾に通っています。今から試験を受けるわけではないので、ストイックに計算問題を解くというわけではなく、その日に興味のあるテーマを先生とお話するというものです。ものすごく知識のある先生なので、公式ができた背景や歴史、数学的思考を毎回先生からお聞きすると感動します。今の宇宙論は全部数式から成り立っています。数学は言ってみれば、天文の広い宇宙を知るツール。この武器を持っていると宇宙のことがよくわかる…といったような。それを身に着けたいという思いがあって数年前から通い始めました。
――日々研鑽を重ねられて、怠けていないでバージョンアップされてすごい。子どものころはどんな習い事を?
習字、エレクトーン、空手。本当はバレエを習いたかったのですが、母に連れられて行ったのがなぜか空手道場(笑)。本ばかり読んでいて、体もあまり強くなかったので運動系のものをやったほうがいいし、どうせなら護身術を…と。型を一通り身に着けるまで辞めてはいけないと言われ、小学校低学年から通いました。一番長く通ったのは小5から中3まで数学塾へ。その先生がいてくれたから、こんなに数学が好きでいられているのだと思います。
――いわゆる復習塾とか受験対策のための数学ではない塾でしたか?
もとはコンピューターの会社にお勤めされていた女性の先生が主宰されている個人の数学塾で、数字に向き合う姿勢がとてもストイックでした。怖かったですし、ものすごく宿題も出ました。塾のある日に、お友達の誕生会があって…なんて言い訳も通用しませんでした(笑)。私たちが暮らすこの世界は全部数式に置き換えられます。その数的世界がわかってくると美しく見えてくる。この地球上で起こることと、宇宙からロケットが帰ってくるのは、ちゃんと理論がしっかりとあり、ニュートン力学は今でも通用しています。数学なんて使わないから…とおっしゃる方も多いのですが、現実世界の中にどれだけ数学的世界が詰まっているかを知ることができました。
感動できる人が、伝えられる人。
――お話伺っていると星の楽しみ方が変わる気がします。永田さんの解説は1日1回ですか?
プラネタリウムはもともと研究のために作られた機械です。例えばタイタニック号が沈んだ日の夜空とか、坂本龍馬が亡くなった日の星空などが再現できます。一番得意なのが、何年何月何日何時何分の空に行け、という指定。私の解説は1日1回もしくは2回で、解説員が何名か交代であたります。星の解説は、山登りに例えれば頂上で、そこに至るまでにたくさんの経緯があります。例えば渋谷の場合は、番組と呼ばれる企画があって、企画ごとにシナリオ、絵コンテなどをおこし、音楽をどうするかなど業者との打ち合わせなどもあり…小さな映画を作るような。制作する一方で運営もしていますので、年間スケジュールを作ったりイベント事業にも取り組んでいます。
――夏休みはイベントが毎日あるということですが目玉企画はどんな?
「ハチ公とめぐる月りょこう!」です。サイリウムというカラフルな光を使った企画です。夏休みは連日13時の回はキッズタイムとして番組を行います。プラネタリウムは通常明かりをつけないでください…というのがルール。逆転の発想で、あえて明かりをつけたらどうだろう…と。ほかにも「惑星を巡って行くプラネットジャーニー」や「宇宙と少年の物語 宇宙のカケラ」ブラックホール講座、中学受験講座などいろいろな番組を展開しています。暗記する星空ではなく、月の満ち欠けを含めて星のしくみをしっかり理解して感動できれば、生きるための知識につながります。
――全部楽しそうです!永田さんご自身のお子さんにはどのような教育方針でしたか?
好きなことを徹底的に極める、です。25歳になった娘は、星には一切関心はありませんがイベント会社で仕事をしています。小さな頃から、私も仕事が忙しくて帰りを待っていたので、その分たくましくなった気がします。自分の人生を生きるために、自分の意見を言えるように心がけていました。永田家の方針は、喧嘩をしてもその日のうちに仲直りをすること。翌日には引きずらない。それは私自身、家族以外にもそうですがその日のうちにできるだけ解決しておきたい。やりたいこと言いたいことはすぐやる、です。
――大人になってからもなかなかそれができる人は少ないと思いますが、ちゃんと親子間で実行できているのは素敵です。最後に、星の解説員になるにはどんなスキルが必要ですか?
「感動力」と言っていますが、夜空の星や地球の美しい風景をみて感動し、それを人に伝えることが私たちのお仕事。知識はいくらでもついてきますが、感動する心は教えることができません。解説員にとって誰よりも感動できることが一番大切な要因だと思っています。
編集後記
――ありがとうございました!永田さんの柔らかな語りは、取材時もプラネタリウムの解説と変わらず、豊かな気持ちになるインタビューでした。勉強されてきた知識の厚みはもちろんですが、最後に語ってくださった「感動できる心」は星空解説員だけでなく、何かを伝えていくためには大切なマインドではないでしょうか。夏のプラネタリウムは七夕以降も感動できる企画が詰まっています。わぁっ!と感動する夜空を観に出かけてみませんか?
2019年6月取材・文/マザール あべみちこ
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このページは株式会社ジェーピーツーワンが運営する「子供の習い事.net 『シリーズこの人に聞く!第162回』」から転載しています。
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