【シリーズ・この人に聞く!第186回】NASAで火星ローバー開発に携わる技術者 小野雅裕さん

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宇宙への夢を持つ少年少女へ向けた渾身の一冊「宇宙の話をしよう」は親子の対話形式で宇宙の魅力とロケットの歴史に引き込まれ、小学生でもわかるように書かれています。技術者である一方で文筆活動もする精力的な小野さんは、どんな子ども時代を過ごされたのでしょう。ロサンゼルスとリモートでつなぎお話をうかがいました。

小野 雅裕(おの まさひろ)

NASAジェット推進研究所技術者。火星ローバー・パーサヴィアランスの自動運転ソフトウェアの開発や地上管制に携わる他、将来の宇宙探査機の自律化に向けた様々な研究を行っている。1982年大阪生まれ、東京育ち。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程修了。2012年より慶應義塾大学理工学部の助教、2013年より現職。2016年よりミーちゃんのパパ。阪神ファン。「スター・ウォーズ」大好き。好物はたくあんだが、塩分を控えるために現在節制中。著書に「宇宙を目指して海を渡る」(2014)、「宇宙に命はあるのか」(2018)、短編小説「天梯」にて第24回織田作之助賞・青春賞受賞(緒野雅裕名義)。

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宇宙に興味がある子どもの話し相手になる本を。

――小野さんの新刊「宇宙の話をしよう」を楽しく拝読しました。「宇宙に命はあるのか」という3年前のご著書も大変話題でしたが、今回の作品は親子の対談形式でお話が進んでいきますね。今回はどんな点にこだわられて執筆をされましたか?

子どもへ語り掛けるスタイルで、大人が読んでも楽しめる。

子どもへ語り掛けるスタイルで、大人が読んでも楽しめる。

大人を対象に書いた本「宇宙に命はあるのか」を3年前に刊行し、都内のある塾で講演をした時のこと。小学2年生くらいの女の子が、自分では読めないからお母さんが本にルビをふってくれたと話してくれたんです。それで、あ!子どもの視点で伝える本があったらいいのか!と思いまして。一番伝えなくちゃいけない世代へ向けてまだ書いていなかった。最初は大人向けの本にルビをふって挿絵を増やして子ども向けに…と思ったら、「子ども向けに作るならゼロから新しい一冊を作りましょう!」と編集者から提案されて、そんな予定ではなかったのですが2年費やしての大プロジェクトになりました。

――私自身も宇宙について知っているつもりで全然わかっていなかった!とこの本を読んで感じました。ミーちゃんの子ども目線は一般人の視点に近いですし、挿絵も素敵ですね。

イラストは利根川初美さん。僕の読書サークルに参加されているイラストレーターです。とても波長が合うおもしろい方で、利根川さん自身が母親で子ども好き、そして宇宙に関心もあって。ある時、僕の娘ミーちゃんの絵を描いてくれたんです。割りばしをポキッと折って、折れ目でさらさらと描くのです。こうするとランダムに線ができておもしろみが出ると。この人、おもしろい絵の哲学を持っているんだな、と思いまして。新しい本を作る時に、有名な方も候補に挙がっていましたが、僕が利根川さんにぜひとお願いしました。

――そういう出会いは大切ですね。みーちゃんは13歳という設定ですが、この対話は実話ですか?子育てで大切にされている教育方針はありますか?

実際のみーちゃんはまだ5歳で頭の中90%がディズニーです(笑)。僕は5歳のみーちゃんから、どんなバカバカしい質問でもちゃんと答えるようにしています。まず質問したことを「いい質問だね!」と褒めます。本で設定したみーちゃんは、子ども時代の僕と、本物のみーちゃんのミックス。子どもの頃の僕は宇宙が大好きでした。作中のみーちゃんと同じく、小学校で友達の輪に入れなくて。他の子はテレビや漫画の話が中心でしたが、興味の対象がそこになかったんです。僕が宇宙の話をしても誰も興味をもってくれず、宇宙が好きな父が話し相手でした。宇宙に興味があっても教室で孤独で、家に帰っても誰も話し相手がいない…そんな子の話し相手になれる本にしよう。子どもが読んでみーちゃんの側に感情移入してくれたら…と思い、対話形式にしました。

――なるほど。お父様と宇宙について対話することで興味関心を育てられたのですね。小学校の頃は、習い事や教科などの中で何がお得意でしたか?

理科と算数は好きで、苦手なのは体育。5歳の頃、父に望遠鏡を買ってもらいました。星を観察してスケッチするのが好きで、小学1年生の時、自由研究で宇宙について調べました。小学3年生の時、「大きくなったら天文学者か生物学者になりたい」と文集に書きました。ちなみに文集の表紙にはロケットのイラストを描いています。当時は宇宙と、電車と、ドラえもんが好き。旅が好きでしたので、電車は撮るより乗る方でしたね。
習い事は小2からスイミングへ。泳ぐのは今でも好きです。字が汚いから書道教室へ行くよう母に勧められて通いましたがこれは嫌いでした(笑)。中学受験用の塾に通い始めたのは小4から。勉強はできるほうで私立の中高一貫進学校へ通いました。母は音楽好きで妹はピアノを習わされていましたが、たぶん僕の方が音楽の才能はあって(笑)中学からギターを始めました。音楽は今でも好きで、習い事の収穫はギターが一番です。

理系文系を超え、興味があることを追求したい。

――小野さんがNASAで取り組まれているお仕事は具体的にはどんなことでしょう?

宇宙への関心は、お父様からの影響が大きかった。

宇宙への関心は、お父様からの影響が大きかった。

火星ローバーをプログラムして作って、今はオペレーションとして動かす仕事です。研究もあります。月ローバー、土星の衛星で氷の下に海がある衛星があって、そこに潜るロボットの開発など、いろいろやっています。例えば火星ローバーでやったのは自動走行。どうやったらAからBまで安全に走れるか。その道筋を計算する方法を教えたりしています。AIのようなもので問題を解かせるプログラムです。ロサンゼルス勤務なので仕事上の日常会話はすべて英語。英語の勉強は特別なことはせず、中学からの学校英語と留学経験です。大学時代は旅が好きでバックパッカーで世界を巡ったりしていました。

――宇宙に関心をもつきっかけとしてプラネタリウムは魅力を知れる場です。学校教育の中ではどんな課題があるとお考えですか?

僕は宇宙に関しても、他のことに関しても、何かと父から教えてもらいました。父は僕を教育しようという魂胆はなく彼自身、宇宙が好きでした。記憶にあるのは1986年ハレー彗星の時、僕は4歳で、ハレー彗星そのものよりも「ハレー彗星が来る!」と大騒ぎしていた父のことを鮮明に覚えています。大事なのは教える側が本当にそれが好きなのか?で、それは子どもに伝わります。残念ながら小学校の頃、僕は先生からは影響を受けませんでした。教えることが好きだったのかなぁ?教科書のカリキュラムを教えることをされていた、という気がしています。

――大人側に興味をもって教えるテーマを持っているか?ですね。マルチな小野さんは身近な大人からどんな影響を受けられましたか?

父は興味の範囲が広く、宇宙だけでなく科学全般や歴史についても博識でした。また母方の祖父が恐ろしい数の蔵書があって、よく本をもらいました。大学生の頃、三国志に夢中になったり、司馬遼太郎や塩野七海なども読みました。読書は祖父から影響を受け、僕はこれまで三冊ほど本を執筆しています。身近な大人が心から興味をもって何かやっていると子どもは影響を受けます。

文系理系と領域を分けることは、僕は意味がないと思っています。日本は特に分野を分けたがりますが、文系であってもサイエンスに興味をもっていいですし、理系でも文学を愛している人はいっぱいいます。マルチというより一つにつながった興味の連続です。

――興味の連続!ですね。宇宙への興味は、学校での学びがすべてではないということで。

学校のカリキュラムについてはわかりませんが、僕が6歳頃にボイジャーという探査機が開発されました。宇宙好きにとってはニュースで、父は熱心にそのニュースをテレビで観ていました。どのくらい海王星が遠いのか教えるために父は「地球がビー玉の大きさだったら?」と仮定し計算すると、地球と海王星の距離は5キロもあることを教えてくれました。それを聞いて「そうか!そんなに広いものなんだ!」と興奮しました。一生懸命に暗記するものでなく、「わあ!すごいな~!」と感じる瞬間。科学にはいろんな「すごい!」という瞬間があって、「おもしろい!」や「大きいな!」という、そういう興奮を伝えたいですね。そのためには大人自身が興奮を伝えるべきでしょう。子どもにわかるように例えを使いながら言葉を駆使して説明する必要はあります。

学校や会社は通過点、その先に夢をもつこと。

――宇宙というテーマ以外でも、感動や興奮を伝えることが大人の使命と言えますか?

2018年刊行し話題になった前著。

2018年刊行し話題になった前著。

僕は学校で習う歴史は、ひたすら年号とか人の名前を覚えるのが大嫌いでした。漢字ひとつ間違えると減点とか意味不明で(笑)。でも本で読む歴史は大好きでした。文学も、読書は好きでも国語は嫌いでした。例えば作者が伝えたいことを80字で伝えなさいという問いがありますよね。80字でまとめられるなら作者は本一冊を書く必要なんてない。都合よく問題にするためだけに、文学や歴史はわざとおもしろくなくなっている。これは理科にも同じことが当てはまるのかもしれません。ノーベル賞受賞した物理学者リチャード・ファインマンが言った「もしも科学がおもしろいと思えなければ、それはあなたの先生が悪いのだ」という言葉があります。多分その通りでしょう(笑)。

――教える人は子どもに大きな影響を与える存在ですね。ロサンゼルスは終息に向かっているようですが日本はコロナ禍がまだ少し続きそうです。制約の多い中で、どうしたら前向きに過ごせるでしょうか?

星空を見上げるのはどうでしょう。夏になると木星や土星も見えてきます。初めて望遠鏡で見て感動するのは月のクレーターと土星の輪。土星や木星は小さな望遠鏡でもハッキリと見られます。土星を初めて見た時は、「すごい!図鑑と同じだ!」と興奮した覚えがあります。音楽もCDで聴くよりLiveですし、スポーツもテレビを観るより本物を見るほうがいい。宇宙もインターネットで画像を閲覧するより、自分の肉眼や望遠鏡で観るほうがいい。できれば見上げる時に、空に関心のある大人が傍にいてほしいですね。

――書籍の中で『ロケットの技術が戦争に利用された。いや技術者が夢を叶えるために戦争を利用したのかもしれない』…という歴史の観方には、ハッとさせられました。

宇宙ってキラキラした夢として語られがちですが、それだけではないんです。子どもに夢を…といってもキラキラした側面だけ見せればいいわけではない。世の中は綺麗なことばかりではないことを包み隠さずに全部曝け出して伝えた上で、ポジティブなメッセージを発信する。この本を作るうえでもそこは外せないと思って取り組みました。こういう問題には答えがないんです。学校の試験のように、覚えればクリアするものではない。大事なのは自分の頭で考えること。「あなたはこれをどう思いますか?」という投げかけをして書籍では締め括っています。問題意識をもって考えていくべきことでしょう。

――では最後に、小野さんと同世代の親御さんへ向けて、教育とは?について何かメッセージいただけますか。

子どもに興味を持たせるには、まず大人から。子どもに勉強をさせたければ親も勉強が好きでないとダメでしょう。大人が興味もないものを子どもにだけ押し付けるのは違うと思います。親が興味をもつことに子どもは影響を受けます。使い古された言葉ですが、夢をもつことは大切。何かを長くがんばり続けることはシンドイですが、夢があれば越えられると思います。「これだけは諦められない」というものがあるからこそ頑張れる。諦めないと言うより、夢が僕を諦めさせてくれないという感覚に近いので、僕は「夢が僕を放さない」と言います。小さな頃に持った憧れや夢は強い。周りの大人が興味を持って、それが子どもに伝染して…夢を持てるといいですね。いい学校、いい会社に入るための勉強は目標達成したらそれで終わり。単子眼的なことを越える大きな目標があると、頑張り続けられると思います。

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