かわいい、かっこいい、そしていとおしい。そんな虫たちの魅力を余すところなく綴った「ときめき昆虫学」著書、メレ山メレ子さん。虫の専門家ではないといいつつ、そのユニークな言葉の表現と滲みだす知性、虫目線で世界を称える視点は抱腹絶倒!どんな標識高い専門書よりも楽しめます。虫と共にどんな幼少期を送り、今現在どんな活動をされていらっしゃるのか?知られざるメレ子さんの素顔に迫ってみました。
メレ山 メレ子(めれやま めれこ)
1983年、大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒業。平日は会社員として勤務し、週末ごとに虫を探索。旅ブログ「メレンゲが腐るほど恋したい」にて青森のイカ焼き屋で飼われていた珍しい顔の秋田犬を「わさお」と名づけて紹介したところ、映画で主演するほどのスター犬になってしまう事件に見舞われた。やがて旅先で出会う虫の魅力に目ざめ、虫に関する連載や寄稿を行う。2012年から、昆虫研究者やアーティストが集う新感覚昆虫イベント「昆虫大学」の企画・運営を手がける。
旅行記ブログに4年前から虫観察記もプラス。
――先日、某ラジオ番組にメレ子さんが出演されているお話しを聴いて、この本読みたい!絶対もっとお話お聞きしたい!と思ってコンタクトしたのが今回のインタビューにつながりました。今日はどんなムシバナシが伺えるのかとっても楽しみにして参りました。まず最初に、このすばらしくおもしろい「虫本」ができるまでの経緯をお聞かせ頂けますか?
2006年から旅先で撮影した写真と共に文章を綴った旅行記をブログに書いてきました。青森のイカ焼き屋で飼われていた変顔の秋田犬を『わさお』と名付けてブログに書いたら予想以上の反響で観光客が殺到するばかりでなく、薬師丸ひろ子出演の映画にまで登場することになって一躍有名犬に。犬とはいえひと様の家の飼い犬のことをブログに書いていたので、それが有名になってしまい、内心どうしよう…という気持ちでしたが、仲介してくれる人がいて混乱もなく…。
――わさおの名付け親はメレ子さんだったのですね!その後、なぜ昆虫について書くことになったのでしょうか?
2010年にベトナムへ旅行してハノイ郊外の国立公園を観光しました。トレッキングが目的でしたが、たまたまそこで巨大なナナフシやカタツムリ、数百頭のチョウの大群と遭遇して、その時の熱狂をブログにアップしたら、たまたま遠征先を探されていた著名な昆虫写真家の海野和男さんが読まれ、ブログに言及してくれたのが昆虫界の方との交流のきっかけです。
――虫と旅行を絡めたエッセイってたぶん今までなかったです。「ときめき昆虫学」は虫の観察に愛があるのと、虫の生き様が人間にとても近く感じて何ともユニークでところどころで笑えます。
ナナフシを頭に乗せてはしゃいだり、幻聴まがいのアテレコをしている感覚は、昆虫界のプロにとって新鮮だった様です。どの環境にも、そこにふさわしい虫が住んでいます。例えば、群馬県中之条ではイナゴンピックという行事があります。刈り取られた田んぼの畦で、イナゴとり競争とイナゴのジャンプ大会(イナゴンピック)を開催しています。「ときめき昆虫学」というタイトルではありますが、実際には「昆虫ではない虫」とかも含めています。クモ・ダニ(クモ形類)、ダンゴムシ(甲殻類)、カタツムリ(軟体動物)は昆虫ではありません。
――メレ子さんの視点は虫の専門知識をさりげなく伝えてくださるだけでなく、虫と人間の関係性とか虫の住む環境、この虫がしゃべったらこんなふうに言う…と擬人化までしているから想像しやすいんですね。
この本によって「虫好きスイッチ」を押せれば幸いです。私は虫そのものの面白さだけでなく、虫にまつわる人にもスポットを当てたいと思っていました。虫屋、昆虫研究者、写真家、学芸員、芸術家、虫で町おこしをする人々まで。自然写真家の永幡嘉之さんは、東日本大震災の大津波が生態系に与えた影響を調査しています。今、復興に向けて被災地は動いていますが、本来なら環境アセスメントといって、保全すべき生物がいるか否か調べてから土地を開拓するものなのに、現状は復旧工事をかなり急いで行って、結果として生態系の回復を損なう場合がある。そういう動きにNO!を示しているのが永幡さんです。おもしろい方と出会えたことで私は、虫を単にかわいいと愛でるとよりも、虫と環境や人の関わりに関心を持つようになりました。
4人姉妹の3番目は慎重派。
――メレ子さんは大分県ご出身ですが、昔から虫好きでしたか?どんな子ども時代を過ごされていました?
9歳上に一番上の姉、8歳上に二番目の姉、三番目に私、そして一つ違いで妹の4人姉妹でした。ものごころついた時には上の姉たちは大学生で家にほとんどいなかったので、四人姉妹で和気あいあいと育った記憶はないんです。母がとても教育熱心で、小学校にあがる前から毎日家でドリルを大量にやらされました。学校のカリキュラムより数年先を勉強していました。国語が好きで、本も大好き。毎週図書館で上限いっぱい20冊くらい借りてもらって読んでいました。
――四人姉妹の3番目って、なんだかいいポジション!ちゃんと言われたことができる良い子でした?
私は、とても人見知りでした。母の知り合いで英語教師の大柄な外国人の先生が家に来ると、フレンドリーに接されるのが怖くて怖くて…布団をかぶって居留守を決め込んだり(笑)。お客さんが来ても、社交的なおしゃべりとかおもてなしとかできず…。幼稚園は1回変わっています。というのも、最初に通った知育メインの園がどうしても合わず。お遊戯とかお絵かきとかスケジュールが決まっている団体行動が嫌で…ひとり池に逃げて亀にパンをあげたりしていました(笑)。あまりにも馴染めない私を母が心配して、年度途中でスクールバスに乗らず徒歩圏内で通える園に転園。そこは室内でうさぎが放し飼いにされていて、箪笥の裏でうさぎの出産が始まる…というシーンを垣間見られるワイルドな園でした。とても居心地がよく楽しかったので二つ目の園は毎日通いました。
――いい園と出会えてよかったですね。教育熱心なお母様のもと、習い事はどんなことをしていましたか?
母は本当に怖い存在でしたが、よくよく考えてみると、塾任せにせず親が率先して勉強を教えられたのはスゴイことでした。毎日夕方5時になるとドリルのノルマをこなすために勉強開始。答え合わせをして間違えると叱られ…。それと、伯母がピアノ教室をやっていたので通っていましたが、まったくピアノが性に合わず、レッスンの日は伯母の家でおやつを食べて漫画を読む日という感じで…結局5年生の時に辞めました。中学にあがってからは帰宅部で、相変わらず毎日のドリル学習をする一方、数学特訓塾だけ日曜日9時~12時の時間帯で通いました。高校も進学校でしたのでずっと勉強をしていました。運動はまるで苦手だったので、あまり部活をやりたいとは思いませんでした。
――お話を伺っている限り、勉強の虫…といっては失礼ですが、かなりお勉強がよくできたのですね。虫好きというのは理系女子だったのでしょうか?
いいえ文系です。大学は、東京大学法学部へ進学して卒業後は司法試験合格のために浪人。でも正直なところ、まったく法律に関わる勉強が性に合わず、身の入らない時間を過ごしていました(笑)。これ以上勉強を続けてもダメだな…と思い、何年か遅れで就職活動をして社会人となりました。
昆虫大学の企画・運営に携わり新たな境地開眼。
――本を読むと、メレ子さんに引き寄せられるようにおもしろい虫関連の方々が集まってきたようですね。エッセイの執筆だけでなく、イベントも取り組まれていますがこれはどういう内容のプログラムですか?
東京電機大学が新校舎へ移転して、東京・神田にある旧校舎を取り壊す前に2ヵ月間のアートフェスを開催しました。その一環として「昆虫大学」と名打ったイベントを2日間、2012年に初めて開催し、まだ一回しか実施はしておりません。昆虫に関するおもしろいことを全部そこでやろうと思って、昆虫の道のプロをたくさん招致し、お客さんは基本的にド素人。虫の魅力を教えてもらいましょう!というイベントです。大学の校舎を使っているので「昆虫大学」としました。例えば、アリの巣に住む生き物について研究者に解説してもらう講演、専門家による標本づくりの実演ショー、クリエーターの虫オブジェアクセサリー販売…といった内容です。
――単に虫の研究発表みたいなのではないから、素人でも関心もって見聞きしたくなりますね。ご著書の「ときめき昆虫学」にも紹介されていますが、アリの巣って奥が深くて…読み進めているうちに笑いながら背筋が寒くなりました(笑)。
アリの巣は食べ物が豊富ですが、実はアリ以外の生き物も住んでいます。巣でアリのおこぼれをもらって生きていくために、アリに攻撃されないようアリの香りを体につけたり、においを消したりしてカムフラージュしているのです。チョウ、甲虫、ハチ、ダニ、カタツムリ、カエルなど幅広い分類群の生き物がアリの巣に関わって暮らしています。
――聞いているだけでワクワクしてもっと知りたくなります。メレ子さんのユニークな視点は虫世界だけでなくいろいろ書けそうですが、これからどんな活動を考えていますか?
今、ブログが告知ばかりになってしまっていますが、もう一度初心にかえって、いろいろブログで書いていけたらと思っています。昆虫に限らず、菌や深海といった分野の研究者ともお話する機会があり、専門家の世界はどれも面白い。潜ってみると隣の部屋が空いている…という具合で、全然飽きません。
――生き物全般、おもしろい世界が広がっていそうです。では最後に、虫好きな子を育てている親へ、その子の興味を大切にするために何かアドバイスをお願いします。
虫好きな子に気持ち悪いとか、怖いとか言わないであげてほしい。そこで想像力や知的好奇心が終わってしまうので。子どもは何が怖くて避けるべきものか?を周囲の大人から学びながら大きくなる途中なんです。昆虫館の学芸員さんもおっしゃっていますが、小学生を引率する先生が虫を怖がったりすると、子どもたちも同じように怖がって、触れたとしても人を脅かす道具にします。虫に限らず、気持ち悪いとか怖いと軽々しく言わないことが、子どもの選択肢を増やすことではないかと思います。
編集後記
――ありがとうございました!著書の内容をはじめ、お話しのされかたも無駄なくユーモアたっぷりで、思わずメレ子ワールドに吸い込まれてしまいました。聞けば東大法学部卒の才媛。でも最高学歴をちっとも前面に出さず、自由に自分の追求したいことをマイペースでされている活動は、新しくて魅力的。虫の世界を知ると、生き物全体、そして自分の住んでいる環境をもう一度目を凝らして観察したくなります。メレ子さんの益々の活躍を応援&ウオッチしてます!
取材・文/マザール あべみちこ
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