【シリーズ・この人に聞く!第154回】社会起業家 安田祐輔さん

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不登校・中退者の進学塾「キズキ共育塾」は、発達障害・うつ・ひきこもり…暗闇にいる多くの若者たちが一筋の光を求めて来る。幼少期から傷だらけの過去を財産に、自身の道を切り拓いてきた安田祐輔さん。これからの教育とは?新しい事業とは?じっくりお聞きしました。

安田 祐輔(やすだ ゆうすけ)

社会起業家。1983年横浜生まれ。不登校・中退・ひきこもり・うつ・発達障害・再受験など、もう一度勉強したい人のための個別指導塾「キズキ共育塾」などを経営するキズキグループ(株式会社キズキ/NPO法人キズキ)代表。発達障害によるいじめ、一家離散、暴走族のパシリ生活などを経て、偏差値30から 国際基督教大学(ICU)教養学部国際関係学科入学。卒業後、大手商社を経て2011年に「キズキ共育塾」開塾。講師の多くが挫折経験をもち、生徒の心に寄り添う指導が評判を呼び、様々な理由で学校に行けない若者やその親から問い合わせが殺到、多くのメディアに取り上げられる。2018年4月現在、全国に5校(代々木・池袋・秋葉原・武蔵小杉・大阪)。外出困難者のためにオンライン授業も展開。また、中退予防のための大学への講師派遣・研修、貧困家庭の子どもの学習支援プロジェクトなども立ち上げ、多岐にわたり若者を取り巻く社会問題を解決する活動をおこなう。

 キズキ共育塾 公式サイト
kizuki.or.jp  

ワガママを貫ける論理的思考力。

――著書を拝読して、壮絶な過去がありながら、そこに埋もれずに立ち上がる姿勢が素晴らしいなと感じました。執筆されることになったきっかけは?

「髪色を変えるのは法律違反ではない」と高校時代は金髪で通した。

「髪色を変えるのは法律違反ではない」と高校時代は金髪で通した。

依頼をいただけたというのが大きいです。学生時代に仕事をしていたマザーハウスという会社の方が出版社を紹介してくれまして。僕自身は自分のことを話すのが好きではないので、積極的に出版社に売り込む勇気はありませんでした。人前で話すのが好きな人は自己肯定感が高いんだと思います。皆が自分の話を聞きたいと思えるから、話せるわけですよね。僕は、自分の話なんか聞いてもつまらないと思うし…。本を書くにあたっては起業の「サクセスストーリー」にならないように気を付けました。そのため、書くのに時間が掛かりました。

――堅実ですね、大風呂敷を広げないところも魅力です。本を書いたことでメディアにも多く取り上げられています。

メディアで取り上げられて影響があったのは講談社現代ビジネスやYahoo!ニュースです。朝日新聞系列のネットニュースでも、Yahoo!ニュースに転載されたことで、いろいろな方に読んでいただきました。そのあとの採用説明会は通常の3倍の人がきました。Yahoo!ニュースからTwitterやFaceBookに連携して情報が拡散されるのも大きいですね。

――安田さん自身は何が情報源ですか?

新聞はネットで日経、朝日、毎日をちょくちょく見てます。他のネットニュースも見ますが、煽るようなタイトルをつけるサイトは苦手ですね。テレビでは、BBCを見ています。

――うつを患っていたこともオープンになさっていますが、キズキを起ち上げたのは抜け出してからのことですね?真面目だから、うつになってしまう?

真面目の定義がちょっと違うのかもしれません。僕はうつを何度か患っています。大学3年生、社会人になってから。会社が大きくなってきた一昨年くらいも、うつになりかけました。繰り返すもので、「抜け出した」という感じではない。僕の場合は理想があって、それに合わないことは基本的にやりたくない。自分の基準を守っているだけかもしれませんが。例えば朝弱いので、11時以降しか打ち合わせは入れません。朝起きられないことに対して自分が卑屈になったりしない。よく遅刻もしますし。自分のペースを守りたい。そういう意味では不真面目です(笑)。

――ワガママを貫けるのは並外れたパワーがないとできないし、起業には必要ですね。小学生時代はどんなお子さんでした?

論理が通っていないことは嫌だというのは小学生の頃から変わらないです。例えば、学校で読む本として、「歴史の漫画は勉強になるからいいけど、少年ジャンプは勉強にならないからダメ」というルールがありました。どっちも漫画という意味では同じなのに、勉強になる、ならないと決めつけられるのがおかしいと抗議して、ジャンプ許可権をもらった。思い通りにいかないことを変えるのが好きなので。本にも書きましたが、高校でも金髪で過ごしましたし。頭髪の色変えるのなんて、法律違反でも何でもありませんから。意味が分からないルールとかすごく苦手。論理的におかしいと思うことに従ったりできないし、自分の思い通りに過ごしたいというのが常にあります。

お金がない、食えない恐怖。

――キズキを起ち上げるのに一番大変だったことは?

大きくなったら医者か、ピアニストになろうと思っていた。

大きくなったら医者か、ピアニストになろうと思っていた。

僕は普通の人より「食えない恐怖心」が強い。親が面倒みてくれなかった時期があって、12歳で家を出ざるを得なかった経験がベースにあるのかもしれません…。起業時にも、自分が必要だと思うサービスを誰も買ってくれなかったら?買ってもらえるほどの質を保てなかったら?実は世間に求められていないサービスだったら?などと考えて、「生活ができなくなる恐怖心」は常にありました。
また、キズキを起ち上げた8年前は、中退・不登校の子が通う塾は数人、数十人の規模ならありましたが、規模の大きな塾はなかった。だから、そこにニーズがあるのか?という不安がありました。ニーズがないのにやっているのはエゴでしかない。ただ、自分から声をあげにくい人たちがたくさんいるはずだという確信に近い気持ちはありました。でも半年くらいはずっと生徒が集まらなかった。その時間は、自分の存在価値がないと思えたし、一番苦しかったですね。

――少子化の中でキズキのような学習塾はとてもニーズがあります。どのようにして活動を広めてこられましたか?

行政と連携した事業も数多く取り組む。低所得者家庭の中3生に塾代クーポンを発行する「スタディークーポン」事業を渋谷区で実施。

行政と連携した事業も数多く取り組む。低所得者家庭の中3生に塾代クーポンを発行する「スタディークーポン」事業を渋谷区で実施。

徹底したwebマーケティングです。不登校、高校中退、ひきこもり…など5000語くらいのワードを指標にして、毎週チェックして、検索結果の上位に出るような施策を行っています。
また、僕は自分の収入を上げることや会社の利益を増やすのはうれしいですが、そこが目的ではなく、自分がやってきたことで社会が変わることに一番喜びを感じます。だから、キズキ独自の事業以外にも、行政と連携した事業も行っています。たとえば東京都足立区、大阪府吹田市では生活困窮世帯への福祉施策で役所として連携していますし、新宿区では若年者就労支援の施策、渋谷区では1400万を寄付で集め、低所得者家庭の中3生に塾代クーポンを発行する「スタディークーポン」事業など、さまざまな試みを行政と一緒に行っています。

――いろいろ大変な経験を乗り越えて卑屈になるどころか、それをベースにしたサービスをシステム化されて起業。誰にでもできることではありませんね。

利益は大切ですが、儲かることが目的の仕事に何も魅力を感じない。食えなくなっても、利益重視で共感できない会社では働けない。そういう意味でワガママだと思います。やりたいことしかできない。子どもの頃からそこは変わらないです。

――大人になったら何がしたかったですか?習い事は何かされていました?

お金持ちは自由になれるから医者になろうと。両親が離婚していて、お金がないことの恐怖心がありました。もう一つはピアニストになりたかった。3歳から12歳まで習っていて、コンクールでも入選していましたし好きでしたね。
スポーツはサッパリで逆上がりもできませんでした。4歳から10歳まで週2回、6年間スイミングスクールにも通いましたが、25m泳げませんでした。でもなぜか、スキーは得意で大会出場してテレビに出たりしていました。僕の「スポーツが不得意」は、発達障害の特性の一つの表れなんですが、スキーは例外でした。ピアノもスキーも、個人で完結できるものだから、一人で練習しやすかったというのもあるかもしれません…。

挫折や寄り道の経験を財産にすること。

――キズキで働く先生の側もいろいろな経歴の方がおられます。どういう方を採用されるのですか?

キズキの採用基準で最も重視するのは、相手に合わせられる論理的思考力。

キズキの採用基準で最も重視するのは、相手に合わせられる論理的思考力。

社内で統一された基準はありますが、僕が一番重視しているのは論理的な思考力のある方です。目が曇っている子にどんな言葉を掛けると表情が変わるのか。コミュニケーション能力ともちょっと違う。支援とは、相手に合わせること。学校の先生の指導は、集団をまとめるための声掛けで一方通行であることが多い。支援に必要なコミュニケーションとは、相手に合わせること。
一例として、たとえば3年間引きこもりの子が通うことになった場合、毎週の授業が楽しみだな、と思ってもらえるように声掛けすることを考えるのが先生の役目。楽しみにするためには何をすべきか?目標から論理的に逆算して考える営業マンと同じです。ものを売れる人は、キズキで働けるかもしれません。引きこもりの子に対して、学校の先生は学校が基準なので「学校にきなさい」と言わざるを得ないことが多い。このように、採用面接ではキズキで求める指導力があるかどうか見極めます。

――社会の流れを作っているのがすごいなぁと思います。先日クラウドファンディングが始まったばかりの、キズキの新たな取り組みを教えてください。

年明けから、うつや発達障害の人を対象としたビジネスカレッジを開校します。キズキ共育塾は20歳前後の子が主な生徒層ですが、このビジネスカレッジは一度社会に出たものの働けなかった20~30代の方が主な対象です。そうした方々が再び働けるようになるための、高度なビジネススキルを教える予定です。再び会社勤めを行う道もあれば、会社組織に合わせて働かなくてもフリーランスで仕事をする道もある。僕の周りにも英語の翻訳をクラウドワークスなどで請けて生活費を稼いでいる…という人が結構いますが、それは本人のペースで働けていいと思う。英語ができるという技術、専門性があるからできること。「うつや発達障害を抱えていても、専門性を高めればいろいろ道がある」という支援・教育を提供していきたい。10月からクラウドファンディングも始めています。

――すごく世の中に望まれていることだと思います。子どもを育てる親に、安田さんの立場から何か伝えてもらえますか?

子どもに自分を投影することはやめてほしい。日本は、子どもの成功や失敗が親の成功や失敗になっている。家族主義の思考でしょうが、そういう発想をまずやめること。「うちの子にはこうなってほしい」とあれこれ考える時点で、僕は嫌だな~と思っています。「やさしくて幸せに育ってくれたらそれでいい」くらいの親の方が、子どもは生きやすいと思います。世界を見渡すと、「子どもに過度な期待は掛けない。勝手に育てばいい」といった文化圏もあって、もちろんそこにも欠点はあるでしょうが、日本社会の価値観が少しそっちによっていけばいいなと思います。

――今、暗闇にいる人には、どんな言葉を掛けてあげたいですか?

人生長いですから、何年か遅れても、その分長生きすればいい。むしろ挫折の経験が、年を重ねてから物語になる。その経験があるから、自分はこれがやりたいという希望に変わってくる。挫折もそんなに悪いモノじゃない。僕も自分の過去があったからこそ、今の仕事で飯が食えている。ああ、よかったな。と今となっては思います。

編集後記

――ありがとうございました!幼少期からの壮絶な体験をふまえて、それを財産にして飯のタネにしている安田さん。日本の30代は本当におもしろい人がたくさん誕生していて、ずっと前のめりでお話伺いました。社会的にあまりスポットが当たらなかった中退や引きこもり、うつ、発達障害など抱える子どもたちがキズキの存在でどれだけ光を感じられていることか。新しい事業も益々注目です。安田さんのこれからが本当に楽しみです!

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