【振り返り・仮設住宅】解体される仮設住宅に見た厳しさ

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震災からまる7年を迎えつつある今日、被災地では仮設住宅の集約や撤去が進んでいる。住民が退去した仮設住宅では、時をおかずに解体が進む。

この文章が仮設住宅について書いたものだという予備知識を抜きにして、下の写真を見て、この建築物がどのような用途のものだったか分かるだろうか。

倉庫と見まごう建物、しかしこれは住宅

屋根裏は鉄骨むき出しで、床は一面にベニア板が張られた、長さ約30メートル、奥行き6メートル弱の空間。

6世帯が入居していた仮設住宅の天井や間仕切りが取り除かれた姿だと言っても、にわかに信じてもらえないかもしれない。

しかし、倉庫のようにしか見えないこの建物が、つい先日まで6世帯が暮らしていた仮設住宅であることは紛れもない事実だ。

外壁も内壁も鋼板張り。約1.8メートル毎に構造材である鉄骨が立てられているが、コンクリートの基礎に固定されているわけではない。建物は、箱として強度を持たせる構造で、そもそもコンクリート製の基礎はない。

3分の2ほど解体が進んだ建物の床下を見ればよく分かるだろう。建物を支えているのは地面に直接打ち込まれた丸太の木杭だ。

土に打ち込まれた木の杭だから、当然のことながら建物がたてられたその日から腐食していく。杭のまわりの板でさえこのとおりだ。

仮設住宅の建設は、震災の直後に着手された。優先順位の第一は、とにかく急いで建てることだった。必要個数の割り出しも、建築用地の確保も、材料や設計の手配も同時進行で行うという荒技だった。

4月1日には第一号となる仮設住宅が完成し、お盆過ぎには被災した多くの人が仮設住宅に移り住むことができたのは驚異的ともいえる。

しかし、そのために「目をつぶらざるを得なかった」ことも多い。たとえば、寒冷地であるにも関わらず断熱材の厚さは5センチしかない。

夏も冬も消耗戦

換気扇のために開けられた孔から覗いているのが5センチ厚の断熱材だ。

中越地震の被災地で建てられた仮設住宅では、厚さ10センチの断熱材が使われたという。東北の仮設住宅ではその半分の厚さということになる。もちろんこれも、工期最優先のために目をつぶらざるを得なかった故だという。しかし、積雪量はさておき、寒さについては新潟よりもはるかに厳しい地域が少なくない。

仮設住宅の冬は冷え込みがハンパではなかった。

夜寝ていると屋内なのに雪が降る、と入居者が笑いながら話してくれることがある。それも、何人もの人が。それも、岩手県の被災地の中ではもっとも南に位置し、雪も少なく、地元の人たちが「岩手の湘南」と呼ぶ陸前高田や大船渡の人たちが。

雪といっても本物の雪ではなく、結露や水蒸気が氷結して霜のように降ってくるということではあるが。

布団から顔を出してると寒くて寝られないから、頭を布団の中に入れてると、鼻とか口の回りが湿って冷たくなるだけじゃなくて、顔に引っ付いて息ができなくなる。だから寝るときには半纏とかバスタオルとかを顔の回りに詰めて、濡れた布団が顔に密着しないようにして寝てるんだよ——。そんな話も聞く。

「私たちが子どもだった頃は、すきま風だらけで寒かったから、やっぱり夜はそうして寝てたんだよね。でも最近はそんなことなかった。仮設に暮らして大昔のことを思い出したよ」と70歳過ぎのお母さんたちが笑う。

「窓の近くで寝ていると、サッシの結露がカーテンを伝って、ぽちゃっと顔に落ちてくる。冷えんだこれが。酒呑んで気持ちよく寝てても、バシッと目が覚めちゃうもんな」と70歳近い地域の世話役の男性が笑う。

引き戸の入口サッシが結露すると、ドアが凍り付いてびくとも動かなくなる。カギが壊れたんじゃないかとか、閉じ込められたんじゃないかと誰もが驚く。初めてのときには恐怖すら感じる。仮設の住人の誰もが必ず経験することだ。

ガンガン蹴っ飛ばす。熱湯をかける。ドライヤーで融かす。凍り付かないようにドアを数ミリほど開けておく。入口の凍り付きへの自衛策は人それぞれだが、いずれも褒められたようなやり方ではないだろう。建物によくないな、防犯上問題よね、などと思いつつも、それでも身を守るためにはそんな対処をせざるを得ないのだ。

屋内の気候が厳しいのは冬だけではない。躯体も屋根もスチール板なので、夏は苛烈なほどに暑くなる。外壁なんか、不用意に触ると熱くて飛び上がってしまう。

「ボンネットで目玉焼きが焼けるって歌があったけど、あれがラジオから流れてくると頭に来た。歌ってる人には罪はないんだけどね」

部屋を閉め切っていると、比喩なんかではなくサウナ状態になる。入口のドアと反対側の窓を開けて風を通すようにしておかないと屋内で過ごすことができない。仮設住宅によっては、窓が小さかったり、大きな窓が入口と並んでいたりで、窓を開けても風が通らないつくりのところもあった。

敢えて言う。冬も夏も、住まう人の体力を消耗させる住環境というのが仮設住宅の現実であることは忘れてはならない。

プライバシーがない、どころではない

まるで倉庫のように見える写真をもう一度見てほしい。床はベニヤ板の通し張りだ。だから、6号室の足音が1号室まで響く。

せめて世帯を仕切る間仕切りが音や振動を吸収してくれればいいのだが、間仕切りは薄く、隣の話し声も聞こえる。

「津波の前からずっとご近所だったけど、仮設で隣で暮らして初めてお隣さんの夫婦仲が悪い(あるいはその逆)ことが分かった」という話もよく聞くが、口論の原因がどんなに些細なことだったか、どちらが先に切れたのかまで手に取るようにわかるから居たたまれないことも多かったという。

プライバシーが皆無だった避難所から仮設住宅に入居したのに、けっきょく満足なプライバシーは得られなかった。

建物の中だけではない。室内の話し声は外にも漏れる。屋外の物音は異様なほど大きく聞こえる。実際には5メートルくらい離れた場所で話している声が、玄関先で話されているように聞こえることもある。「○○は困ったものよね」といった話の「困ったもの」という部分だけが妙にはっきりと聞こえてきて、自分がご近所から批判されているように勘違いしてしまうこともあったという。

他人の話し声がよく聞こえるものだから、いつの間にか小声で話すのが常になっていく。もごもごと話すクセがついてしまう。何を言っているのか分からないので、勘違いが元で家族が口喧嘩することになる。喧嘩の声までもごもごで何を言っているのかわからない。外で人に会う機会があっても、こもったような話し方になって、言いたいことがうまく伝わらない。そんなことが重なって出不精になってしまう人もいる。

プライバシーがないことはそれ自体苦しいことだが、それが高じると性格にまで影響を及ぼしかねない。

仮設住宅に暮らす人から聞いた「実情」がどんなものだったのか、解体されていく仮設住宅を見ると理解できる。

解体が進む仮設住宅から、災害時の応急住宅の問題と、今後の課題について、ページを改めて考えていきたい。

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