子どもの夢を育み、大人も共に成長する理論や実例を楽しく伝えてくれる岩崎さんの講演会は全国各地で大変反響が高く、どの会場も満員御礼。勇気・元気・やる気を引き出す励ましの言葉『ペップトーク』や、自分自身を元気にする肯定的自己宣言の言葉『アフォメーション』など、困難を乗り越え前向きに挑戦する心を育てる方法など常に発信されています。聞くだけでスイッチONされる魔法の言葉掛けとは…?!岩崎さんご自身の幼少期から親子にいかせるペップトークについてじっくりお話しを伺いました。
岩崎 由純(いわさき よしずみ)
1959年、山口県生まれ。日本体育大学体育学部卒業後、米国のシラキューズ大学大学院修士課程で「アスレチック・トレーニング」を専攻する。全米アスレチック・トレーナーズ協会(NATA)公認アスレチック・トレーナー(ATC)、日本体育協会公認アスレチック・トレーナーの資格を持つ。ロスアンゼルス五輪(1984年)、バルセロナ五輪(1992年)に帯同トレーナーとして参加する。全日本バレーボールチーム帯同トレーナー(1991~92年)など、アスレチック・トレーナーとして活躍する。日本アスレチック・トレーナーズ機構(JATO)元副会長。現在、日本ペップトーク普及協会会長、日本コア・コンディショニング協会(JCCA)会長、日本オリンピック委員会(JOC)強化スタッフ、トレーナーズスクエア株式会社代表取締役社長、NECレッドロケッツのコンディショニング・アドバイザー、日本体育大学非常勤講師(スポーツ医学研究室)を務める。
事実の捉え方をポジティブに。
――岩崎さんの登壇されるペップトーク講演会を4月に初めてお聞きして、感動して涙がどわ~っと溢れてしまい。時間が経つほど内容の素晴らしさがジワジワ沁みて…これはまだ知らない方にもお伝えしなければという思いで今回インタビューにご登場いただきます。まず、ペップトークについて少しご説明をお願いできますか?
ペップトークは、もともとアメリカで監督やコーチが競技前にスポーツ選手を励ますために行っている「短くて」「わかりやすく」「肯定的な」「魂を揺さぶる」言葉がけです。スポーツの現場で使われているショートスピーチで、今から本番に向かおうとする選手たちにかける激励の言葉。明確で前向きな背中のひと押しをするのがペップトークです。多くの指導者や教師は「~~するな」「~~はダメ」というネガティブな声がけをしてしまいがちです。子どもに自己肯定感をもってその現場に向かっていくことができるようにしてほしくてポジティブに受けとめられるペップトークを普及しています。
――スポーツの世界だけでなく、ごく普通に家庭でも使える手法ですよね。子育て中のお母さんは特に、子どもへ向けて言いたくなくても言わずにはおれない時があるので。ペップトークを意識するとちょっとクールダウンしそうです。
まず事実を受け入れる。承認することが大切です。どんな状況であっても子どもを決して否定するのではなく、できるだけ受け入れ、傾聴することです。子どもは、自分の存在を認めてほしい、自分の才能を認めてほしい、自分の人格を認めてほしいのです。それが満たされなければやる気スイッチは入りません。傾聴力と承認は一対になっています。
――シンプルだけど当事者だと難しい。ティーチングとコーチングの違いについても教えて頂けますか。
子どもたちを導いていくのがティーチング。コーチングは教えられるだけでなく、自分で考えて工夫し、進歩・成長していくこと。例えばしつけはティーチング。「これはダメだよ」ということを教えながら導きます。それに対して、コーチは後ろから押してあげる人。「やるだけやってみなさい!」と、その子の背中のひと押しをしてあげられる存在です。
――著書の巻末に「とらえかた変換実習」という言葉のシートがありますが、これ、大人でもたまに見返すと気づきがありますね。
ネガティブをポジティブに変換すると、どうなるか?ですね。例えば、怒りっぽい→感情に瞬発性がある…と変換できます。問題が起こった→成長のチャンス。これはね「してほしい変換」とも言えます。廊下を走るな!→廊下は歩こう。遅刻するな!→早くきてね。負けるな→ベストを尽くせ!。そうやって言葉は変換できるものなんですよ。「やめとけ」は「やってみよう」に。「どうせ無理に決まっている」は「挑戦してみよう」や「やる価値はある」。「バカなことを言ってるんじゃない!」は「もっと話を聞かせて」という言葉に変換できる。コーチと選手、先生と生徒、上司と部下、親と子の間でも会話が変わると、気持ちも変わります。
笑顔と言葉がけを大切にする家庭環境。
――ペップトークを普及される岩崎さんですが、幼少期はどんな少年時代をお過ごしでしたか?
文房具やカメラが大好きで、当時高価だったCROSSのボールペンにLifetime Warrantyと刻まれていて…これは【永久保証】という意味なんですよ。小さなペン1本を永久で保証してくれるなんてアメリカの会社ってすごいなぁ~と本物を知るきっかけになりました。僕は性格的には負けず嫌い、勝ち好きです。悔し涙を流すよりも、今度は自分が絶対勝つんだ!という根拠のない自信があった。楽観的、目的志向が強く、何があっても『これはきっと何かの役に立っている』と考えられる人を英語で『オートテリック』と言います。もともとオートテリック・パーソナリティーなんですね。何とかなるわい…と楽観的。辛いことや落ち込むことも人並みにありますけれど、長く引きずったり、恨んだりしないんです。
――自己肯定感が高かったのですね。ずっとスポーツをされてきて、そのマインドは常に活かされたのでは?
中学では最初、野球部に入部して、ジャンプ力が認められて中1秋からバレー部へ転部して頑張りました。当時、走幅跳の大会に駆り出されて中国地方大会に出場。そこで肉離れをしてしまい、テーピングをしてもらった。その時、処置をしてくださった人がアスレティック・トレーナーという職業だと知って、こういう仕事をしたいな!とイメージしてたんです。高校では陸上部に専念。走幅跳は県で2位。三段跳は県高校新記録を作りました。その後、記録は4年で破られ(笑)。大学は一般入試で日体大へ進学。高校時代に大怪我をして、アスレティック・トレーナーという仕事に就きたくてこの学び舎へ。まだ日本にトレーナーという職業が知られておらず、こういう仕事やテーピングという処置もバレーボールマガジン、陸上競技マガジンと2冊定期購読していた雑誌から知りました。日体大を卒業後、アメリカの大学院で2年勉強し、その後1年仕事をして合計3年間のアメリカ生活で多くのことを学びました。
――学校や仕事での知識だけでなくて、パーソナリティーとしてペップトークを普及されるようになった原型が当時にあるのでは?
実家が商店(今でいうスーパーマーケット)をしていた関係で、常にお客さんが出入りしていて、学校から帰宅しても「ありがとうございました!」と笑顔で挨拶するのが当たり前な環境で育ちました。忙しい時は店を手伝うのも当然の役目。自分にとっては、笑顔で挨拶をするのは普通のことでしたが、大人になってみると笑顔になることや、ありがとうを伝えることが苦手な人っていっぱいいるんだな!と気づいたんです。
――なるほど!そうした家庭環境があって、感謝を伝えることや笑顔でコミュニケーションすることが身についていたのですね。
アメリカの大学院では、最終目的地へ到着するまでマップを使って組みたてるように、伝えたいことや表現したいことを制限時間内にプレゼンテーションするスキルを徹底的に鍛えられました。アメリカでは小学3年生くらいからプレゼンする力が身につきます。そんなプレゼンの達人ばかりに囲まれて、僕は22歳で初めての挑戦でした。バレーボールするスヌーピーのイラストを描いたりして皆の驚きをプレゼンで得られれば掴みはOKでした。英語は堪能ではないけれど、いつも笑顔でニコニコと誰とでもコミュニケーションをしようと努めていたので『ハッピー』というニックネームで呼ばれていました。
できること、わかることを強みにして。
――ペップトークの講演会も素晴らしい時間でしたが、岩崎さんのご著書も繰り返し読みたくなる内容です。その中にも紹介されているエピソードがありますが、子どもが取り組むスポーツや習い事への親の関わりについて、よく講演会でも質問されるそうですね。
親として、どこまで口を出して良いのか、悩む親が多いのです。僕は、口を出す必要はないと伝えています。子どもを預けた指導者を信頼していれば、とやかく意見をいう必要はないのです。子どもはその道の専門家である指導者の言葉を頼りに、賢明に成長しようと努力しています。そこへ親から横やりが入ると、どちらを信じればよいかわからなくなり、板挟みになってしまいます。二者の意見の間に挟ませてしまう『狭育』は子どものためになりません。
――確かにそうですよね。ただ、もし、指導者がネガティブストロークな言葉の嵐で、子どもが傷ついているような場合は見過ごせない親が多いのではないでしょうか?そういう時はどうすればいいと思いますか。
どんなに酷い指導者であっても、疑いなくついていくもの、我慢してついていくもの、キッパリ拒否して別の道を選択するもの…と大きく分けて3種類、比率的には2:6:2います。どれが正しいかではなく、その子がそういう体験から何を学べるか?だと思います。厳しい指導を難なくこなせる柔軟さ、嫌だけれどがまんできる忍耐強さ、拒絶して別の道を切り拓ける逞しさ。どれを選択しても、エネルギーが必要でしょう。その子がその困難をどう捉えて、何を選択するか。それを糧にして、何を見いだせるかです。だから傍にいる大人は、子どもの選択を見守ってあげてほしいです。
――事実の捉え方で、未来が変わりますね!岩崎さんは既に成人されているお嬢さんお二人いらっしゃいますが、ご自身の子育てもペップトークを実践してらっしゃいましたか?
仕事が忙しくて子育てはほとんど妻に任せきりでした。でも、僕の場合は仕事をすることが幸せで、生活が豊かにならなくてもちっとも辛そうではなかったんでしょうね。習い事も妻はたくさんさせていました。体操、水泳、ピアノ、次女はモダンバレエも。習い事を通じて、できなかったことができるようになる喜びがあるし、親の立場でいうと学校や地域以外の友達ができる。コミュニティが拡がりますよね。長女は高卒後、自分で調べて渡米して留学。現在はペップトーク事務局で働いています。次女は大学卒業後、大学院へ進んで特別支援学級の教育者となるべく準備中です。僕は二人に「勉強しろ」と言ったことがないんです。二人とも自分で考えて行動してきたのは、ありがたいことでした。
――まだバトルが続いている我が家からするとうらやましいお話です(笑)。では最後に、これから夢を叶えようとしている親子に向けたペップトーク的なメッセージをお願い致します。
子どもたちには、好奇心を自ら閉ざさないで!と伝えたい。好きなことを秘密にするのは残念。できないことを指摘する大人にめげないでほしい。自分が、できること、わかることを強みにして。先生や親は、子どもにとって最も身近なドリームサポーター(夢を叶える支援者)です。でも知らぬ間に子どもの好奇心を潰してしまうことがある。子どもの背中をひと押ししてあげることによって、幸せに輝く心、幸輝心を育ててください。
編集後記
――ありがとうございました!我が家のケースで恐縮ですが、幼少期の子育てはカワイかったから何があっても乗り越えられましたが、思春期になって可愛さのカケラもなく、でもこんな時期こそ彼らが前向きになれる背中をひと押しする言葉掛けが必要なんですよね。ペップトークから多くのヒントを頂けました。あとは実践あるのみ!岩崎さんは言葉を発しなくても太陽みたいに明るく、照らされたほうは自然と素直になれます。これぞ理想の指導者。これから益々のご活躍、応援しています!ペップトークが世の中に広まると、思春期の子の親もやさしくなれそうです。
取材・文/マザール あべみちこ
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