【シリーズ・この人に聞く!第115回】コンプリメントにより不登校を解決に導くスクールカウンセラー 森田直樹さん

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子どもの心を自信の水で満たす。子どもの「よさ」を見つけ言葉で指摘して、本人にも気づかせて自信をもたせること。これが森田先生の唱えるコンプリメントです。不登校児童は小学生から高校生まで合わせ毎年約10万人もうまれる時代。一体どうしたら再び学校へ行けるようになるのか?と悩む親は多いもの。コンプリメントによって何が変わるのか?夏休みの家庭でじっくり取り組めるようその実践法と変化についてお聞きしました。

森田 直樹(もりた なおき)

昭和27年生まれ。香川県公立小学校から瀬戸内短期大学准教授を経て、現在、香川大学教育学部付属坂出学園スクールカウンセラー。
鳴門教育大学大学院学校教育修了・香川大学大学院学校臨床心理修了。教育学修士。スクールカウンセラー/「キッズカウンセリング寺子屋教室」主宰

 KIDSカウンセリング寺子屋-寺子屋とは-
terakoya.sunnyday.jp  

子どもの自信の水を増やす愛情と承認。

――先生のご著書「不登校は99%解決する」は4年前に刊行されてずっとアマゾンの書籍「教育」部門でベストセラー。それだけ不登校児童が多いのですね。最初に、先生の提唱されるコンプリメントとは、どんなトレーニングなのかを教えてください。

Amazonでは4年間ベストセラーの一冊。まさに不登校児童の親が求めている内容。

Amazonでは4年間ベストセラーの一冊。まさに不登校児童の親が求めている内容。

コンプリメントトレーニングは単に褒めるのでなく、子どもの持つ「良さ=リソース=資源」に気づかせることです。この「良さ=リソース=資源」を本人は気づいていないのです。気づいている子は、自信に満ち溢れて活動的です。心の中のコップが大きく強くてたくさんの自信の水を蓄えています。少々のストレスでも、この自信の水は少ししか減りません。

――具体的にいうと、どんな言葉掛けになりますか?

その時、その場でお母さんが見聞きした子どもの言動に、お母さんの嬉しさを付け加えるのです。「**で、お母さん嬉しい」というように。そして、その子を観察していいこと・能力に気づいたら「**という力があって素晴らしいね」というのです。言葉を届けるのではなく、言霊を伝えるのです。愛情と承認によって自信の水をたくさん入れるのです。

――簡単なようですが親子だと難しい面もあるかも。こうした「自信の水」を増やすことを目的にする時、親が心得ておくことはありますか?

愛情と承認の言葉で包んで「良さ=リソース=資源」を伝えれば、子どもの心のコップに溜まっていきます。良さは「事実」でなければなりません。想像したことや子どもを親の意のままに操るような操作もいけません。コンプリメントトレーニングは、子どもの「良さ=リソース=資源」を一つひとつの粘土と考えて「君にはこのような良さがあるよ」と肉付けし、つくり変えていくものです。これは親がしなくてはなりません。家庭に自信の水を入れてあげられる環境を作らないといけない。親が子どものプライベートカウンセラーになるのです。そして、コンプリメントで育てられた子どもは大人になるとコンプリメントで子育てをします。

――なるほど。コンプリメントは子育て全般に通用するメソッドだと思いますが、実際は不登校児童が再び通学できるように、親を指導しているのですね?

不登校になる理由は子ども自身にあるのでなく、家庭か学校に原因はある。子育てのやり直しをすることが再登校につながります。たとえ子どもの変化に気づかなくても、ひたすらコンプリメントしなければなりません。子どもの心に自信の水が溜まっていると信じて続けることができれば、再登校に導けます。3週間続ければ子どもが一人前になるまで、ずっとできるようになりますし、小学校低学年だと3日で変化が起きてきます。

教員生活30年を経て不登校児童の支援活動へ。

――森田先生ご自身がお育ちになった環境や子ども時代のことをお聞かせ頂けますか?

キッズカウンセリング寺子屋では不登校児童が学習する意欲づけを行う。

キッズカウンセリング寺子屋では不登校児童が学習する意欲づけを行う。

親に常に褒められていました。成績なんてちっとも良くありませんでしたが、悪いテスト結果を見せても全然叱られたことはなくて「頭の悪い子の気持ちがよくわかる学校の先生になれるね。大器晩成だね」と言われていました。これが僕の自信の水をいっぱいにしてくれましたし、コンプリメントの土台です。

――すごくポジティブな言葉掛けでしたね。コンプリメントトレーニングでは、どんな風にお母さん方を指導されているか教えてください。

取材時、森田先生の著書にサインをして頂いた。「継続は力なり」はまさにコンプリメントトレーニングを表す言葉。

取材時、森田先生の著書にサインをして頂いた。「継続は力なり」はまさにコンプリメントトレーニングを表す言葉。

1日6個子どもにかけたコンプリメントをノートに書いてもらい、1週間分を送ってもらいそれを私がノート添削します。アナログな方法で、たったそれだけです。子育てに愛情と承認が必要なことは皆わかっているのですが、どう表現したらいいかわからなくなってしまう。子どもを観察してよい点をみつけ気持ちを添えて言葉にし、それを書きとめる。そうしているうちに親子関係に変化が起きて、子どもの自信の水がいっぱいになります。トレーニング終了後の相談も受けていますから支援している親御さんはかなりの数です。1日のメール数は100を超えますが、すべてに返信しています。

――小学校教諭時代は、たくさん不登校児童を見てこられたのですか?

教師生活15年目で管理職になったので、教壇に立っていた時間は案外短いですが、不登校だけでなく難関クラスを受け持つことが多かったです。自信の水を少ししか入れてもらえない家庭環境ですと心のコップは小さくて自信の水も少ししか溜まっていません。学校に行くようになると益々たくさんの水を使っていますから自信の水不足のサインが出てきて、身体症状に表れます。不登校、暴力、暴言、腹痛、頭痛、抜毛、聴覚嗅覚過敏、視力低下、脱毛、依存、対人恐怖、怠惰、チック、場面緘黙、遺糞、リストカット、窃盗、深夜徘徊等々、よく言われる起立性障害、発達障害の顕著さ等も自信の水不足のサインであることが多いのです。

――身体に症状が出ると薬を処方されたりしますが、不登校でも健康ですとどのような扱いなのですか?

これまでの支援、特にカウンセラーや心療系のドクターは体のサイン一つひとつである身体症状を治そうとします。腹痛や発達障害の疑いなら薬を出しますが、不登校だけならば「好きなことをして、動くのを待ちましよう」と静観します。このような支援が全国津々浦々に浸透し、薬か電子機器への依存と遊んで暮らす楽しい不登校にしてしまう。たとえ高校に進学し卒業しても就職もできない「ひきこもり」となっていくのです。大学生でも同じです。不登校をきちんと治しておかないと、高校や大学で不登校となり、就職できないとひきこもりとなっていくのです。カウンセラーや心療系のドクターのしていることは、燃料を入れないで車を動かそうとしているのと同じ。燃料を入れないと走れないのです。タイヤに空気を入れても燃料切れの子どもは動けないのです。

自信の水は燃料、車でいえばガソリン。

――コンプリメントを続けることで子どもが自発的に学校へ行ってみよう!という気持ちになれるのですね。

都内で開催された講演会は満員御礼。活発な質疑応答が行われる有意義な時間。

都内で開催された講演会は満員御礼。活発な質疑応答が行われる有意義な時間。

子どもが学校へ行こうという気持ちになれる燃料は「自信の水」です。私は教育実践学が専門の研究者なので『自信の水を入れたら、子どもの身体症状は消えるのではないか』と仮説を立てました。その自信の水とは何か、それは子どもの「良さ=リソース=資源」です。これを子どもの心のコップに入れるにはどのような言葉があるのかを実証して見つけたのが「・・・・お母さんうれしい(愛情)」と「・・・・・の力がある(承認)」なのです。

――恐らく夏休み前から不登校で、お休み明けから登校させたいと思っている親御さんも多いのではないでしょうか?

このお休みの間、おまじないだと思ってコンプリメントしてください。無意識に親の価値観がインプットされています。お休み明けの9月1日は再登校のチャンス。学校が安全な場だと脳が学習すれば子どもは登校するようになります。まずお母さんがそう認識してください。現在コンプリメントトレーニングを受けている不登校の子どもたちのほとんどが、この9月1日に登校を再開していきます。ただし、子どもの成長は一進一退です。登校再開してからが本番なのです。毎日たくさんの自信の水を使いますから、たくさんのコンプリメントをしなくてはなりません。また、まだまだ子どもの心のコップは小さいのです。それを大きく強くするにもコンプリメントは必要なのです。自信の水を溜める心のコップは様々な体験経験で育っていくのです。くれぐれも過干渉にならないことです。ドンと構えてコンプリメントそして共感です。
車はガソリンを入れないと走れません。不登校になった子どもが動くには「自信の水」というガソリンが必要なのです。それは親が入れてあげないといけないのです。

――母親の支援を強く感じますが、父親も講演会に参加するなど熱心にされていますよね?

お父さんのコンプリメントの力はお母さんの半分くらいです。母性は強い。無関心なお父さんでなく、子どもの問題をちゃんと受けとめて関わろうという姿勢は素晴らしいです。でもね、やっぱり母親とは違うということを踏まえてください。子どもは不登校を克服してもジグザグで成長して一進一退。過干渉になると子どもは育ちません。

――では最後に、コンプリメントトレーニングで目指していることを教えてください。

実践教育学の研究者として実証している意味は、いまの不登校支援では先生も医者も臨床心理士等のカウンセラーもまったく子どもをみていないからなのです。本に書いてあることで分析や解釈できないことはすべて発達障害にしてしまっている。私は心理臨床の大学院へ53歳で入学し、勉強をしました。しかし、これは学校教育にはなじまないとわかり、自分自身で理論構築をすることにしました。それがコンプリメントトレーニングです。
単に身体症状を軽減したり、再登校させることだけがコンプリメントトレーニングではありません。子どもの内在する能力を起動させるキーもコンプリメントとわかってきましたので、コンプリメントキッズを育てていくのが本来の目的です。自信に満ち溢れ、社会のために尽くしていく人を目指して。たくさん育っているコンプリメントキッズを通じて、小さな社会改革を目指しています。そしてこの活動は、お母さん方との連携で成り立っています。お母さん方に実際に取り組んでもらわないと実証できません。コンプリメントトレーニングにもっと関心が高まって、学校の先生方も「…先生うれしい」「・・・の力があるよ」と子どもに声をかけてくれることができれば、不登校は予防できますし、いじめなんてなくなります。

編集後記

――ありがとうございました!今回、東京での講演会に取材を兼ねて参加させて頂きました。たくさんひしめく参加者から、次々と出る質疑応答の数々。真面目そうな親御さんばかりで、きっとお子さんの不登校で心痛めておられるのだろうとお察し致します。子どもへのコンプリメントを推奨する森田先生との出会いによって、どうか大人の側も、ご自身をもコンプリメントできるようになってほしいなぁと感じました。お母さんが笑顔で楽しそうに過ごしていれば、もっと親子関係は変わるはず。子どもへのコンプリメントはそのための第一歩なのですね。

取材・文/マザール あべみちこ

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