静岡県三島市にある自宅から車で15分程の所に海がある。海岸には沿うように山が連なっていて、その中腹ではミカンが作られている。ミカン畑がある地区には、無人の販売所がいくつか設けられていて、新鮮なミカンが良心的な値段で売られている。
最初に無人販売所の存在を知ったのは約一年前のことで、海岸沿いにある山を登った時のことだった。登山を終えて麓に降りてくる途中に無人の販売所があったのだ。
販売所には、夕日を浴びてオレンジ色がいっそう増した美味しそうなミカンが置かれており、つい手が伸びた。小銭を入れる小箱に「チャリン」と100円玉を落とすと、歩きながら食べた。甘くて瑞々しく、疲れた体に染み込んでくるようであった。
それ以来、海にウインドサーフィンをしに行った時など、近くを通ると時折立ち寄って買うようになった。
ミカン農家のおばちゃん
昨日は海辺へドライブをしに行った際に無人販売所に立ち寄った。
販売所は民家の玄関先にあり、ミカンが入ったビールケースほどの大きさの木箱とお金を入れるための小さな箱が置かれている。
いつものようにミカンを選んで小箱に小銭を入れようとすると、ちょうど民家からおばちゃんが出てきた。そして、私の姿を見ると「ありがとうございます」と声をかけてきた。
温和な感じの方であった。私も挨拶をし、いつも美味しいミカンを提供してくださっていることに対してお礼を言うと、おばちゃんは
「今年はみかんの『裏年』で、いいものが少なくてごめんなさいね」
と申し訳なさそうに言った。
「裏年」。初めて聞く単語だった。ある程度は察しはついたものの尋ねてみると、裏年やミカン栽培について、話をしてくれた。
おばちゃんは近くの山でミカンを作っており、その一部を自宅の前で販売しているとのことであった
ミカンについて
ミカンとひとくちに言っても、夏みかん、甘夏、ぽんかんなど種類は多い。原産地はインドやタイ、ミャンマーの辺りと言われている。日本で一般的にミカンと呼ばれているものは温州(うんしゅう)ミカンである。温州とは中国浙江省にある地名で、ここから日本の鹿児島県に伝わったミカンが突然変異をして種が無くなり、温州ミカンが誕生したそうである。
「裏年」とはミカンの果実が少ない年のことで、実が多く生る「表年」と交互にやってくるとのことであった。表年と裏年について調べてみると、どうやら2つの原因が存在するようである。
ひとつはミカンの果実が作る植物ホルモンの存在がある。そのホルモンが作られた実の周りでは翌年、発芽はしない。そのため実が多く生った次の年は少なくなるそうである。
そして、もうひとつは夏場の光合成によって作られる糖の存在がある。この糖は冬の間に翌年の発芽に使われるのだが、果実がたくさんできると実に糖が使われてしまい、翌年のつきが悪くなるそうである。
これらの理由により、ミカンは収穫量が多い年と少ない年が交互に訪れるらしい。そのため、ミカン農家によっては、若い果実の一部を取り除いたり、枝を切ったりして調節するそうである。
ミカン栽培について
ミカンだけの収入で暮らしていくのは大変なようで、一生懸命作ったミカンを売っても、肥料や草刈りの費用などで利益はほとんどでないらしい。そのため、他にも仕事をしながらミカンを育てているとのことであった。利益が少ないところに、今年は昨年の3分の1程度しか収穫できなかったそうである。
農業と聞くと収穫は主に天候に左右されるものと思っていたのだが、それだけではないようである。1,2年前にイノシシが低い位置にできているミカンを全て食べてしまった被害があり、畑の周りに柵のようなものをめぐらしたそうである。
おばちゃんが作ったミカンは・・・
ミカン、さらに自家製ヨーグルトや地区に住む人の高齢化などについて、1時間近く話をした後、おばちゃんにお礼を言って販売所を後にした。
おばちゃんは別れ際に「こっちの方が美味しわよ」と言って、小ぶりで形の整った美味しそうなミカンを持ってきて交換してくれた。
帰宅すると、早速小粒のミカンを一つ食べてみる。
おばちゃんは、「うちのミカンは除草剤などの農薬を使っていないのよ」と言っていた。直接、話をした生産者の方から薬を使っていないと聞くと安心感が全く異なる。収穫が少なかったこと、イノシシ対策などの苦労を知っただけにミカン一つにもありがたみを感じる。
裏年と言ってはいたものの、極力自然に近い状態で育てたという取り立てのミカンをひとくち口に入れると、昨年と変わらない瑞々しい甘い味が口いっぱいに広がった。
参考WEBサイト
Text & Photo:sKenji
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