1個60円の和菓子「 ちゃきん 」。食べに行こう! 石巻へ

iRyota25

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ち  ゃ  き  ん  の  ひ  み  つ 
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石巻のサトウさんと町なかで歩き話ししていた時のこと。
「そういえば“ ちゃきん ”って知ってるかな? 石巻焼きソバよりもさらにローカルな、この地域独特のお菓子なんだけどね」と、唐突にその情報は告げられたのであった。「見た目は京都銘菓の生八つ橋みたいなんだけど、うん、ぜんぜん別物。あれこれ説明するより食べた方がいい。食べるならふれあい商店街のサトウさんちのちゃきんに限る。でも売り切れ御免でやってるから、早くいかなきゃだよ」
ちゃきんのサトウさんを紹介してくれた電気屋さんのサトウさんは、それだけ告げると次の瞬間には別の話題へとワープしていった。謎だけが残った。“ ちゃきん ”の謎が。茶巾寿司、茶巾絞り、茶道で使う茶巾・・・。見た目は生八つ橋というイメージに結びつかない…。

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翌日のお昼過ぎ、さっそく行ってきました。
石巻立町(タチマチと読みます)復興ふれあい商店街の『ちゃきんのサトウ』さん。買い求めたのは5個入りパック(300円)。

実食の場として選んだのは、ふれあい商店街といえばやはりここ。“ 花の芽をつなぐ運動 ”で東京の美大生たちが描いた壁画がある休憩スペースです。

どんな味なのか待ちきれない思いでパクッ。ふんわり柔らかな皮に、さっぱり味のあんこがやさしく包まれています。中のあんこが透けて見えるような薄皮はふわふわかつモチモチの食感。こしあんのあんこは塩あんではないのですが、甘すぎないあんこと薄皮の相性はばっちりです。(電気屋さんのサトウさんに八つ橋みたいな…なんて聞いて想像していたものとは、薄皮もあんこもまるで別物でした。もちろんニッキの味もありません)

写真を撮るのも忘れて、ひとつを三口くらいで食べちゃいました。「あんこ大好き!」という方じゃないし、むしろ辛党な方なのですが、写真を撮った後もうひとつ食べてしまいました。あんこのお菓子を3つもパクパク食べてしまうとは。

この味わいの秘密はどこに?

教えてもらうべく、もう一度ちゃきんのサトウさんへ。

お店はふれあい商店街の中ほどです。

ちゃきん屋さんの佐藤さんとお話ししている間に、なんと完売!

こちら、売り切れ直前のショーケースです。

残っていたのは10個入りパックが2つのみ。

この直後、仙台まで持って帰りたいというボランティアさんがお持ち帰りしていきました。

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佐藤さんのお店は石巻の港町、その名も湊と呼ばれる地域にありました。ちゃきんを商うようになったのは、「祖母の代からやっていたという話も聞くけど、見た記憶がないから、たぶん私の母親が始めたんでしょう」。

昔から作りたてを買いにくる人や、お土産にと買い求める人が多かったという佐藤さんのちゃきん。「仮設商店街で再開した後、また食べられて良かった」と言ってくれる人がたくさんいたそうです。

「なかには見覚えのないお客さんもいるのね。名前はわからなくてもお客さんの顔はたいてい覚えている方なんだけど」。その理由は、お土産に頂いて食べていたけれど、買ってきた人が店の名前も場所も教えてくれないので、お客さん自身が買いに行くことができなかったということみたいです。昔から「秘密にしておきたいお店」だったのですね。

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湊地区にあった佐藤さんのお店は津波で全壊したそうです。避難所になった湊小学校でいろいろお手伝いなどをしているうちに、年齢差のあるPTAの人たちなどと知り合いになり、そこで知り合った方から、仮設商店街の話は教えてもらったそうです。

出店を決心する上で大きかったのは、「若い人たちがおばちゃんのちゃきんを食べたいって言っている」という一言。

ふんわりモチモチの食感と、皮のほのかな味わい、そしてあっさり味のあんこ。見た目は生八つ橋に似ていますが、まるっきり別の食べ物です。何個でも食べられそうでヤバイです。

「おばちゃんのちゃきんを食べたい」と言った気持ちがよく分かります。

人々に愛されてきた佐藤さんのちゃきんは石巻のソウルフーズなのかもしれません。

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そんなちゃきんのおいしさの秘密、ぜひとも聞いてみたいです。でも、この質問がなかなか難しい…。

「ほとんど惰性で焼いています。」

にっこり笑ってきっぱり答えてくれたのは、この一言。さらに、

「母親が亡くなってからだから、私たちがやっているのは20年くらい。私は皮を焼く係。あんこを包むのは、奥にいるお姉さんの係。分業制でやってます。だって、私はあんこをうまく包めないのよね。」

はぐらかされること!

でも、作り方については、詳しく教えてもらえました。

ちゃきんの皮は、小麦粉を練って銅製のプレートで薄く焼いたもの。味や食感は違いますがクレープと同じようにして作ります。佐藤さんが「惰性で」といった真意は、実はその焼き方や焼き加減がとても微妙で難しく、20年やっていてもなかなか満足できることが少ないということのようです。

「ちょっと火加減が強いと、まわりがパリッとなっちゃう。そうなったらあんこをうまく包めないからダメなんです。お姉さんに包みにくいと叱られてしまうのよね。(お店の奥でおねえさんが大きく手を横に振って笑っています)皮のサイズがまちまちになってしまうこともよくありますよ。失敗作はそのまま煎餅みたいにカリカリに焼いて、私たちのおやつになるんだけど、おやつばかり作っていると商売にならないですからね」

小麦粉を練って、焦げないようにやわらかく焼いて、あんこを包む。とてもシンプルなお菓子ですが、佐藤さんは「工夫しながら毎日つくっています」と言います。まじめぶることなく、失敗した話ばかり笑顔で語る佐藤さん。とってもキュートでチャーミングです。

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もちろん、あんこにも工夫が込められていました。

独特の味わいのあんこは、ふつうのあんこより多目に塩を入れて作っているそうです。

「私の母親は塩加減を勘でやっていたんですよ。手づかみで塩をばっと入れるみたいな感じでね。それでも計ってみるといつも同じ分量でしたね。」

佐藤さんはお母さんの職人技を「私にはとても真似はできない」と言いながら、昔ながらの味わいを継承しようと工夫しています。それも、ただ同じレシピを守るというのではなく、時代の変化に合わせながら。

「こちらにお店を出してからね、あんこの味が少し変わったと思うんです。やはりお客さんの客層が違いますから塩加減とか微妙にね。」

多くの人が「昔のままの味わいで美味しい」と絶賛する佐藤さんのちゃきんですが、さじ加減レベルで味は変化しているのです。昔からのお客さんも納得してくれる味を守りつつ、さらに若いお客さんたちにも喜ばれる味わいに。この微妙なさじ加減こそ職人技だと思います。

「おいしいよって言ってもらえるのが一番うれしいんですよ。」

あんこのお菓子はあまり食べないのに、ペロッと3つ食べちゃいましたと白状すると、「若い人とか子供たちにもファンがいるのよ」と笑顔の花が咲きました。

「乳離れしたばかりの1歳半くらいの赤ちゃんがね、自分の分を食べた後、おばあちゃんの分にまで手を伸ばしたりしてね」

そう話しながらニコニコ。その場に居合わせて、佐藤さんの笑顔を見てみたかったなあと思いました。

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こんなおはなしもありました。

「東京から来た学生さんやボランティアの人がね、おばちゃんのちゃきんをお土産に持って帰りたいとか、東京に発送してくれないとか言ってくれることも多いんですが…」

自分もまったく同じことを思っていました。これを通販で売ったらきっとヒットするだろうと。でも、佐藤さんの「が…」に続く言葉は次のようなものでした。

「ちゃきんはつくったその日に食べてもらうものなんですよ。次の日になると皮の食感が変わってしまう。私たちが“ 食べてほしい ”と思ってつくったものと違うものになってしまう。だからダメなんです」

2011年12月10日の商店街オープンの日には、お店の前に長い行列ができたそうです。それでも一日中かけて作れた個数は500個を越えなかったのだとか。もしもたくさんの注文を受けても、作りきれなくなってしまいそうです。

「よく言うでしょう。商売は牛の涎みたいにって。きたない話でごめんなさいね。でも長~く続けることが大切なのよね」

下手に商売っ気を出すことで、大切な何かが変わってしまうより、自分らしく商売を続けたい。毎日工夫をしながら。お客さんに「これは内緒ね」とウィンクしたり、惰性で焼いてるからまた失敗したなんてお喋りしながら。

佐藤さんとおしゃべりしながら、ちゃきんのおいしさの秘密が少し分かったような気がしました。

たとえば、佐藤さんちのちゃきんの包装にも、それはさりげなく表れているようです。

白いテーブルに白い包みなので、ちょっと見えづらい写真ですが、ちゃきんの包装もちゃきんと同様に丁寧にくるまれています。ちゃきんはプラ容器に入れられた後、外側をぴったりとラップされ、その上をこの白い紙で包まれているのです。

丁寧な包装は、ふんわりモチモチの食感とあんこの風味をできるだけ長持ちさせるための仕事。おいしいと言ってもらうために、妥協なく丁寧な仕事をする。その一端の表れなのです。

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佐藤さんちのおいしいちゃきんは、石巻でしか食べられません。

実はこの後、「新幹線で持ち帰ってもらったらどうなるか、試してみようか」と、ちゃきんそのものにもラップをかけて、通常よりもさらに丁寧に包んだちゃきんを持ち帰る実験をさせてもらったんです。

結果は、残念ながら、やっぱり、でした。

つくった直後だからこその、ちゃきんのおいしさ。

おいしいちゃきんは、この場所でしか食べられないのです。

だから、行きましょう、石巻へ!
佐藤さんちのおいしいちゃきんを食べに!

………………………………………………………………………………………………………佐藤ちゃきん屋  ◆  石巻市立町2-6-23  ◆  電話は0225-95-7190

「佐藤ちゃきん屋」「ちゃきんのサトウ」「さとうちゃきん」など呼び名はいろいろありますが、どちらも佐藤さんちのちゃきんです。

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●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)

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