「救命講習受講レポート ~前編~」では、「応急手当」について書きました。後編は「救命処置」について書きます。
救命処置とは
「救命処置」とは、心臓や呼吸が停止したり、気道に異物が詰まるなど、命を失う危険性が高い人を救うための応急手当のことを「救命処置」といいます。救命処置を適切に行うことで、傷病者の生存率は大きく変わります。
救急車が要請を受けてから現場に到着するまでの平均時間は、全国平均で約7分です。私が受講した地元の三島では、平均約6分で到着しているそうです。けれども救命率は全国平均以下とのことです。救急車が到着してからの救急隊員、医師のレベルは、基本的に全国ほぼ同じです。それでは何が異なるかというと、救急車が到着するまでの「救命処置」の実施率が低かったということです。救急搬送された方の約6割の方は適切な「救命処置」を受けていなかったとのことです。
救急要請を受けて到着するまでの約7分間。この間の救命処置の有無が傷病者の生命を大きく左右します。心臓は停止して3分、呼吸は停止して10分が経過すると約50%の方が亡くなります。一秒でも早く救命処置を行うことが生存率向上につながります。
救命講習で学ぶ救命処置は「心肺蘇生法」「AEDの使い方」「気道異物の除去」です。以下に「救命処置までの流れ」と各救命処置について、実際に受講して学んだこと、感じたことを中心に書いていきます。
救命処置までの流れ
救命処置までの流れは下記の通りです。
■救命処置までの流れ
1.周囲の安全確認。
2.両肩をたたいて反応を確認する。
3.反応がある場合:傷病者の訴えを聞き、必要な応急手当を行う。
反応がない場合:周囲の人の助けを呼び、協力者を集める。
救急車、AEDの確保を依頼をする。
4.胸、腹部の動きを見て、呼吸の確認。
5.呼吸がある場合:気道確保、回復体位をとる。
呼吸がない場合:救命処置(心肺蘇生、AEDの使用)を行う。
心肺蘇生は、30回の胸骨圧迫と2回の人工呼吸を
交互に行う。AEDが到着したらAEDを使用する。
下記WEBサイトにも詳細な説明があります。
受講して学んだことを、補足説明として下記に記載します。
○「2.両肩をたたいて反応を確認する。」について
・傷病者の耳元で「大丈夫ですか?」と問いかけながら、肩を叩きます。
この時、両手で傷病者の両肩を叩くようにします。
これは、意識のある傷病者が、急に起き上がった際にぶつかって
お互いに怪我をする危険性を軽減するためだそうです。
傷病者が起き上がろうとした時、片手よりも両手で傷病者を抑えた方が、
けがの防止・軽減をすることができます。
・講習では反応の確認を2回行いました。
一回目は通常の声の大きさで、二回目は一回目よりも大きな声で、
問いかけます。
○「3.反応がない場合」について
・反応がない場合、周りに人がいれば、協力を求めて人を集めます。
これは、心肺蘇生を中断することなく「救急車の要請」と
「AEDの確保」をするためにも必要ですが、その他に独りでの
救命処置は体力的に困難という理由もあります。
実際に心肺蘇生をしてみると、相当体力を必要とすることがわかります。
一度、2分間続けて心肺蘇生をしてみたのですが、汗びっしょりになりました。
現役の消防士の方ですら、いくら若く体力がある方でも、1、2分で
交代しながら心肺蘇生を行うそうです。入って間もない情熱のある
若い隊員の方で、ずっと続けようとする方もいるそうですが、
2分以上たつと疲れがでてきて、効果的な胸骨圧迫ができなくなる
からだそうです。救急車が到着するまでの平均時間は約7分です。
効果的な心肺蘇生を行うためには、協力者が欠かせません。
・協力者がいる場合、救急車の要請、AEDの確保をお願いするわけですが、
「誰か救急車を呼んで下さい」と言っても、誰も動かないこともあります。
また、時間がロスする可能性もあります。そのため、救急車を呼ぶ人、
AEDを持ってきてもらう人をこちらから指名します。
指名するときは、指をさすのではなく、手のひら全体でお願いする人を
指名します
・救急車の要請についてですが、消防士の方いわく、
「傷病者の意識の有無などを伝えてくれると非常に助かる」とのことでした。
意識の有無など、傷病者の状態で準備するものや対応が変わってくるそうです。
・AEDの確保をお願いする場合ですが、AEDのある場所がわかっていれば、
「1階の階段脇にあるAEDを持ってきてください」などと、具体的にAEDの
ある場所を伝えてお願いします。職場、学校、自宅など自分が普段いる場所
については、あらかじめ最寄のAEDがどこにあるかを把握しておきます。
AEDの設置場所は、各自治体や下記WEBサイトなどで調べることができます。
○「4.胸、腹部の動きを見て、呼吸の確認」について
・胸、腹部を10秒間見て、呼吸の確認をします。救命処置は1秒を争うもので
あり、10秒以上は確認をしないようにします。呼吸の有無がわからない場合
は、「呼吸がない」ものとして、迷わず心肺蘇生を行います。
10秒という時間がわからないときは、心の中でゆっくり6カウントとると
だいたい10秒になるそうです。
○「5.呼吸がない場合」の救命処置については、以下で詳細に説明します。
心肺蘇生法
呼吸がない場合は救命処置を行いますが、まず最初に行うことは心肺蘇生です。
心肺蘇生法について、救命講習で配布されたテキストには、下記のように書いてあります。
心肺蘇生法とは、胸を強く圧迫する「胸骨(きょうこつ)圧迫」と口から肺に息を吹き込む「人工呼吸」によって、止まってしまった心臓と呼吸の動きを助ける方法です。
応急手当講習テキスト(上級救命講習配布資料):一般財団 救急振興財団
心臓が止まると15秒以内に意識がなくなり、3~4分以上そのままの状態が続くと脳は回復が困難となります。心臓停止後に一秒でも早く心肺蘇生によって、脳や心臓に血液を送り続けることが、救命率向上及び、後遺症が残る確率の低減につながります。
胸骨圧迫ですが、救命講習を受講するまで、私は停止した心臓を動かすために行うものだと勘違いをしていました。胸骨圧迫は、胸を強制的に押すことにより、ポンプのように血液を体に送り出すために行います。
胸骨圧迫のやり方ですが、胸の真ん中で両手を重ねて、肘を伸ばし、手のひらの付け根部分に全体重をかけて、胸が5cm以上沈み込むように圧迫します。
これを少なくとも1分間100回の速いテンポで30回連続して絶え間なく行います。
胸骨圧迫する位置ですが、以前は「肋骨弓を触って・・・」といった手順で圧迫位置を探していましたが、2010年に改訂された最新のガイドラインでは、胸骨の下半分を圧迫するということになっています。迷わずに1秒でも早く胸骨圧迫を開始します。
胸骨圧迫を30回行った後に、気道を確保して人工呼吸を行います。人工呼吸は、2回息を吹き込みます。胸骨圧迫30回、人工呼吸2回を1セットとして、これを救急車が到着するまで繰り返します。
心肺蘇生法について、下記WEBサイトにも詳細に書いてありますので、ご参照ください。
上記WEBサイトの補足説明として、受講して学んだことを下記に記載します。
○胸骨圧迫
・呼吸の有無が分からない時は、呼吸がないものとして胸骨圧迫を始めます。
胸骨圧迫は全体重をかけて圧迫します。消防士の方の話では、
もし、呼吸がある状態で胸骨圧迫を行えば、傷病者は腕を振り払おうとする
などの反応を示すので、迷わず速やかに心肺蘇生を始めて下さいとのことです。
・心臓は左胸にあると思われていますが、実際はほぼ胸の中央に位置しています。
・胸骨圧迫を行う際にありがちな失敗として、圧迫した胸が元の位置に戻る前に
次の圧迫動作に入ることがあります。必ず胸を押した後に、押した胸が元の
位置まで戻ってから、次の圧迫を行ってください。また、圧迫中に
手のひらが傷病者の身体から離れてもいけません。いずれも胸骨圧迫の効果が
減少してしまいます。
・胸骨圧迫は考えている以上に力を入れて行います。
骨が折れるのではないかというほどの力です。消防士の方の話では
実際に胸骨圧迫を行うと、骨が折れるような音や感触があるそうです。
しかし、本当に骨が折れることはごくまれで、骨が折れるような音や感触は
骨が関節から外れることによるものだそうです。胸骨圧迫を行い、
搬送されてきた方のうち、骨が折れている人は1000人に1人くらいでは
ないだろかと言っていました。骨折よりもむしろ、強く胸骨圧迫を行わない
ことの方が問題となるケースが多いということです。
仮に骨が折れてもまず、問題はないのでとにかく強く胸骨圧迫を行ってほしい
ということでした。
相撲取りなら別かもしれませんが、一般の方が胸骨圧迫する際は、全体重を
のせて、力強く胸を圧迫することが必要です。
体重70kg前後の私が全体重をのせ、おもいっきり胸骨圧迫を行って、
ちょうどよい力でした。
○人工呼吸について
・胸骨圧迫を30回行った後に、人工呼吸を2回行います。
極力、人工呼吸も行うべきですが、血液や嘔吐物にまみれているなど、
ためらわれる場合は、人工呼吸を行わずに胸骨圧迫のみでもよいとのことです。
・胸骨圧迫でも同様ですが、血液や嘔吐物がある場合は、衣服などで
拭いて取り除きます。
・空気を吹き込む際に傷病者の胸を見て、胸が持ち上がっていることを
確認します。持ち上がらない時の原因としては、気道が確保できていない
可能性があります。持ち上がりが小さいときは、空気が漏れていると
思われます。その際は、もっと口を大きくあけて、傷病者の口を
覆うようにして息を吹き込むと、効率良く空気を送り込むことができました。
・吹き込む空気の量ですが、1秒ほどの時間で軽く吹き込みます。
強く大量の空気を吹き込むイメージがあったのですが、間違っていました。
言葉で表すならば「フー」では「フッ」と軽く吹き込む感じです。
あまり強く吹き込みすぎると、胃の内容物が逆流して、気道をつまらせたり、
内容物が肺に入り込み、肺炎を引き起こしたりする可能性もあるとのこと
です。強く大量に空気を吹き込めばいいというわけではないようです。
AEDの使用法について
AEDとは”Automated External Defibrillator”の略であり、日本語にすると「自動体外式除細動器」となります。
AEDは電気ショックを与えることにより、心停止した心臓の動きを正常に戻すためのものです。心停止とは、心臓が完全にとまっている状態だけをいうのではなく、痙攣や不整脈を起こして、心臓としての機能を失っている状態も心停止といいます。
AEDは、この痙攣や不整脈を起こしている心臓に電気ショックを与えることにより、心臓を止めてしまいます。心臓はいったん停止すると、再び正常な動きで動き始める特徴を持っているために、AEDにより止められた心臓は、正常な動きを取り戻して、再び動き始めます。
そのため、AEDは心臓が痙攣など異常な動きをしている際に有効であり、完全に停止している心臓を動かすものではありません。
「心臓が止まった時、AEDさえあればなんとかなると思われる方もいるかもしれませんが、AEDを万能の機器のように思わないで下さい」と消防士の方が言っていました。
AEDは、確かに有用で効果が期待できるものですが、あくまでも補助的なものであり、心肺蘇生と組み合して使用しなければいけないとのことです。
AEDがあるからと言って、安心するのではなく、心肺蘇生法も習得しておく必要があります。
AEDの使用方法ですが、電源を入れると、全て音声で指示をだしてくれるので、指示通りにします。
下記WEBサイトにも、AEDの使用方法が詳細に書かれていますのでご参照下さい。
上記WEBサイトの補足説明として、受講して学んだことを下記に記載します。
・電気ショックを行うかどうかは、AEDが判断してくれますので、
到着したら、とにかくAEDを使用して、指示にしたがいます。
・AEDを使用するタイミングですが、AEDが届いたら速やかに使用します。
・衣服を取り除くためのはさみがAEDセットの中に入っています。
・衣服の取り除き、電極パッドの貼り付けは、心肺蘇生担当者が人工呼吸を
行っている間にします。
・電極パッドはかなり強力なものだそうです。
パッドは、2枚同時に剥がさずに1枚剥がして貼り付けたら、
もう1枚を剥がします。
・機種によっては、小児用の電極パッドや小児用モードがあります。
小児とは、乳児を含む未就学児(小学校入学前)のことをいいます。
小児かどうかわからない時や、小児用モードがない場合は、大人用を使用します。
・電極パッドを張る位置が濡れていたら水分をふき取ります。
ペースメーカーが埋め込まれている場合は、ペースメーカーを避けて貼ります。
貼り薬が貼ってある場合は剥がして、電極パッドを貼り付けます。
電極パッドは心臓を挟むようにして貼ればよく、「胸と背中」や「両脇腹」に
貼ってもいいとのことです。
・電極パッドを2枚を貼るわけですが、逆に貼っても問題はありません。
メーカーによっては、左右どちらに貼るかを指定しているものもありますが、
それは、電極パッドを貼り付ける際に迷わないようにするために指定しています。
間違ってに逆に貼っても構わないそうです。
・AEDの指示で「(傷病者から)離れてください」と言われていない間は、
心肺蘇生を続けます。
・仮に心臓が正常に動き出しても、電極パッドは剥がさず、AEDの電源もいれた
状態で救急車を待ちます。
気道異物の除去
「気道異物の除去」とは、口や喉などに異物(食物など)が詰まっている場合に異物を取り除くことです。
気道異物の除去方法は、「腹部突き上げ法」と「背部叩打法(はいぶこうだほう)」があります。
「腹部突き上げ法」は、傷病者を後ろから抱え込むように腕を回して、握りこぶしを作り、親指側をへそより上、みぞおちの十分下にあてた後、もう片方の手で包み込むように握り、手前上方に圧迫するように突き上げます。
「背部叩打法」は傷病者の肩甲骨の間を力強く、何度も連続して叩きます。
異物がとれるか、反応がなくなるまで続けます。反応がなくなれば、心肺蘇生法を行います。
気道異物の除去について、下記WEBサイトに詳しく書かれていますので、ご参照下さい。
上記WEBサイトの補足説明として、受講して学んだことを下記に記載します。
・「腹部突き上げ法」や「背部叩打法」は腹部を突き上げたり、背中を叩くこと
により、肋間筋や横隔膜を刺激します。肋間筋や横隔膜が刺激を受けると
咳をするので、その咳により異物を取り除きます。
突き上げたり、叩いたりした直接的な衝撃で異物をとるものではないとの
ことです。
・背部叩打法の叩く強さですが、かなり強く背中を叩きます。
腕を振り上げ、勢いよく振り下ろして手のひらの付け根で叩くような感じでした。
「ドン」という音がするほどの勢いで叩きます。
最後に
今回、救命講習を受講して、本やネットで調べるだけでなく、実際の体験の重要性を再認識しました。見たり聞いたりするのと、実際にやってみるのでは、やはり大きな違いがありました。
胸骨圧迫や人工呼吸を、どの程度の強さでどのように行うかなど感覚的なところは、実際にやってみないとわかりませんし、救命処置が必要になった時、本やネットで学んだ応急手当と体験を通して学んだ応急手当では、処置の効果、速さに大きな差がでると思います。また、受講することにより、実用的な情報を多く得ることもできます。
私は今回初めて救命講習を受けましたが、1回受講しただけでは、まだまだ不十分に感じています。救命処置が必要な状況になった際に、冷静に対処できるかどうかわかりません。現場の状況は様々であり、想定外のこともかなりの確率で発生すると思います。そのときに、冷静で的確な判断と処置を素早く行うために、今後のイメージトレーニングと実技の繰り返しの必要性を感じています。
受講し終わった帰りの電車で思いました。
「2年前の夏の日、あの日、他に救命処置を行える人間がいれば、あの若者の運命は変わっていたのだろうか」と。
目の前で、家族や友人、職場の人を始め、人が倒れたとき、あの日と同じ思いは二度としたくないと思います。
参考資料
・応急手当講習テキスト:一般財団法人 救急振興財団
・三角巾法:上級救命講習配布物
Text & Photo:sKenji
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