雲の合間から、落日の光が差し込んでくると、目の前の光景は一瞬にして黄金色に輝く眩い世界に一変した。10月最後の日曜日、箱根・仙石原高原でのことだった。
仙石原は見事なススキの草原で有名だ。
江戸時代初期まで「千石原村」という地名だったという。千石の穀物が穫れるだろうということから名づけられたそうだが、実際は火山灰土壌のために作物の生育には適さず、茅葺用にススキが栽培されてきた。
初めて仙石原のススキ草原の写真を見たのは、いつだったか覚えていない。しかし、秋の今頃になると、ほぼ毎年のようにどこまでも広がるススキの写真を目にしてきた。
見る度に行きたいと思っていたのだが、秋は短い。あっという間に冬がやってきて、仙石原への想いは冷え込み、忘れ去ってしまう。そんなことを数年繰り返してきた。
そして今年6月。静岡の三島に引っ越してきた。何気なく地図を見ていると、仙石原を見つけた。その時に、「今年こそ、ススキが色づくころに行ってみよう」と思ったのだった。
前日の土曜は雨だったが、日曜日はうってかわって爽やかな秋晴れとなった。
昼過ぎ、バイクで仙石原高原を目指す。仙石原までは、1時間程の距離だ。
高原に着くと、なんとも微妙な天気だった。晴れてはいるのだが、太陽の前には雲が居座っており、その姿を拝むことは難しかった。
時折、顔をのぞかせて光を注ぎ、ススキの草原を白く輝かせるのだが、すぐに隠れてしまう。写真を撮るためにしばらくの間、辛抱強く待っていたのだが、満足いく瞬間はなかなか来なかった。
日没は刻々と迫ってくる。太陽は傾き始めたかと思うと、あっという間に高度を下げ始める。「今日はもう無理かな」そう思い、帰ることにした。
けれども、停めていたバイクに戻ると、無性にもう一度ススキが見たくなった。エンジンを少し暖気して、駐車場から県道にでると家には向かわずに、ススキ草原の中をつっきている道路をトロトロと走る。
ススキの中を走り始めてすぐのことだった。金色の光が差し込んできた。日没直前の太陽が雲間から顔を出したのだった。
バイクを路肩に止める。あたり一面はまばゆいばかりの黄金色に染まっていた。
落日の光は神々しかった。雲に遮られ、溜めて込んでいた光を一気に解き放ったかのようだった。さきほどまで弱々しく色あせて見えたススキが、生命を吹き込まれたかのように、輝き始めていた。
湧き上ってくるような高揚感を感じながら、しばらくその場にたたずみ金色の草原を眺めていた。乾いた秋の風が草の上を駆け抜けていく。至極の時間だった。
ずっと見ていたかったのだが、陽が山に落ちてしまうと、ススキの草原は再び輝きを失ってしまった。
荘厳な舞台に幕が降りると、僕は仙石原を後にした。
仙石原
Text & Photo:sKenji
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