島に公園をつくる 畠盛杉(はたけ もりすぎ)さん
[屋久島町口永良部島本村在住・91歳・口永良部島湯向出身]
口永良部島の一周道路のわきから竹林の小径が伸びる。その小径を進むと、小さな手づくりの“公園”があった。そこには遊具などは一切ないが、丁寧に植えられた野菜の苗が並ぶ。公園からは口永良部島の海が見渡せ、その横には島のシンボルでもある新岳がそびえている。この公園を3年がかりで作り上げていたのが、島民の畠盛杉さん。島に暮らして91年目を迎える長老に、その思いを伺った。
この島に何の恩返しができようか
生まれも育ちも口永良部島という畠盛杉さん。湯向集落の自宅から、歩けば2時間以上かかる本村集落の金岳尋常高等小学校(当時)へ通う幼少期を過ごした。今よりも島民は多い時代。その多くの島民が自給自足の生活を行っていた。「家に帰っても水汲みやら、ランプの掃除もしたし、牛や馬やヤギや豚や色々飼っていたからその世話もさせられた」という。
19歳の頃には徴兵検査を受け、戦地へも赴いた。滞在期間は長くなかったが、満州で見た花畑の景色は今でも覚えている。戦後は静岡の工場へ出稼ぎに行くなど、一時は島を離れたこともあった。
ただ、あくまでも故郷は口永良部島だ。島での主業はもっぱら農業で、特に昭和45年からは口永良部島で採れる原料を用いて胃腸薬を製造する恵命堂に入社。原料であるガジュツの栽培に精を出した。
月日は流れ、いつしか島の最高齢となった畠さん。ある日、集落の地主から土地、宅地を譲り受けたという。が、そこは荒れた竹林だった。
「それでも少し竹を刈ってみると、海がよく見える。部落も見えるし、新岳も見える。これを見たとたん、ここを立派な公園にしたいと思ったんだよ」
この日から竹を刈り、株を根から掘り起こす作業が始まる。
「竹の根は隙間なしに植わっているから。なかなか出来るもんじゃないよ、一人で」
と畠さんは胸を張る。作業を始めて2年が経ち、ようやく満足のいくスペースが確保できた。次第にその地道な活動は注目を集め、作業中は島民や観光客にも声を掛けられるようになったという。
「口永良部島が私たちを育ててくれた。この素晴らしい大自然を眺めたとき、何の恩返しができようかと思って。あと何年生きられるかはわからないけど、木の一本でも作ってみようかと思ってやっているんだよ」
公園づくり
畠さんが一人暮らしをする自宅から徒歩でおよそ30分。木々に囲まれた小さな道の先にその公園はある。鬱蒼とした竹藪が広がっていたが、公園に限れば竹は1本も無い。かわりに、畠さんが植えた大根、白菜、らっきょう、ねぎが並ぶ。お話を伺ったこの日(3月)は、さらにきゅうりが芽吹き始めている。新たにカボチャの苗も植える予定だ。
「毎朝10時30分ごろ、30分かかるけど歩いていくのが日課や。もう脚も痛いけど、杖をついてな」
刈った竹も焼くわけにはいかず、全てふもとの集落まで担いで降りた。88歳で始めた作業を思えば、そうとうハードだったと想像できるが、これが畠さんの日課となった。
竹の伐開を進めていると、畠さんは小さなクスノキの苗を2つ見つける。「これは恵みのクスノキや」と感じた畠さん。作物と同時にクスノキも丁寧に育てている最中だ。口永良部島には天然記念物であるエラブオオコウモリが生息するが、「こういうものを育てておけば、自然とコウモリも遊びに来てくれるのではないか」と、畠さんは期待する。緑の火山島と呼ばれる口永良部島。育てた植物がコウモリのエサになるなら喜ばしいことだと考えているのだ。
クスノキや作物は、育て始めて間もなく2年が経つ。
「たとえ私が亡くなったとしても、島の植物はどんどん育ってくれる。クスノキも私の気持ちを受けてどんどん大きくなりますよ」
畠さんはそう言って笑った。
「子供たちは宝やで」
孫のいない畠さんにとって、島の子供たちは何よりもかわいい。毎年秋、自身の公園に招いて子供たちに芋掘り体験をさせるのが島では恒例となっている。これが畠さんの年に一度の楽しみだ。
「幼児学級の子供たちをみんな私のとこに連れて行って、ここのカライモ(さつまいも)を自分たちで掘れ!持って行け!って言うんだよ」
山間留学制度を設ける口永良部島。子供たちの半分くらいは島外から島へ留学している。そのため、留学期間を終えると帰ってしまう子供たちも多い。だからこそ、そんな子供たちからもらったメッセージ入りの色紙は今も大切に保管している。ケンタ、モエ、リョウマ・・・、島を離れてしばらく経った子もいるが、色紙を眺めると当時を思い出す。
「この島を見守ってくれる子供たちが、この島の宝やで」
そう考えているからこそ、公園づくりは止められない。今年中には屋根付きの小屋を建てたいと畠さんは意気込む。
「何をしてるんだ?と思われるかも知れないけど、これが趣味!それが楽しいから働くんだよ」
島の将来を担う子供たちのため、畠さんは挑戦を続ける。
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