トラブル発生時の発表基準変更で廃炉はどうなる?

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10月6日から東京電力のトラブル情報の公表基準が変更されている。5日に発表された『福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について』に則る形での変更だという。

○主な更新箇所は以下の通りです。

<廃炉作業の進捗に伴う新たな項目の追加>
・側溝放射線モニタ警報発生時の基準を追加
・サブドレン・地下水ドレン集水設備/サブドレン他浄化設備・移送設備を追加
・陸側遮水壁を追加

<その他>
・外部への放射性物質放出影響の記載の適正化
・滞留水移送の基準の一部変更
・地下水バイパスの基準の記載の適正化
・その他項目の記載の適性化 など

福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成27年10月5日

発表本紙はA4で2枚分だったが、具体的な変更ポイントを列記した添付資料は驚くべき文字の細かさだ。

(主な更新箇所対照表)福島第一原子力発電所 運用時、事故・トラブル等発生時の通報基準・公表方法
(主な更新箇所対照表)福島第一原子力発電所 運用時、事故・トラブル等発生時の通報基準・公表方法
 福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成27年10月5日
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PDFを150%以上の拡大表示にしなければ文字が読めないほど。当然全体を画面に表示することは一般人には無理だろう。ノートパソコンなんかで見ようものなら、自分がどこを読んでいるのか、画面の中で迷子になってしまう。

「30分以内に通報」と「30分以内に誤りと判明したら通報しない」は両立するのか

目を皿のようにして変更点を見ていくと、警報などが発生したが30分以内に誤報と判断された場合は公表しないといった変更が、モニタリングポスト、ダストモニタ、漏洩検知器に関して行われている。たとえば、

「モニタリングポストまたは可搬型モニタリングポストの有意な上昇があった場合
(バックグラウンド平均+2マイクロシーベルト/時を目安とする)」の公表方法は次のようになっている。

●通報後30分以内を目安に一斉メール送信
●夜間・休日を問わず準備ができ次第、緊急記者会見を開催
●緊急記者会見・レク時には、プレス文を用意

福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成27年10月5日

かなり緊迫感のある対応だ。事態の重要度を示す公表区分が「A」とトップランクになっているだけに、というか、放射能漏れなど国民の安全を脅かす緊急事態が発生している恐れがあるだけに、迅速かつ適切な情報発信を目指す姿勢が明確だ。しかし、同じ「トラブル・事故等分類」に「警報が発生したが、30分以内に誤警報の確認が出来た場合→通報・公表の要否は×」という基準が示されているのである。

要するに、30分以内の通報を目指して迅速な作業に努めている傍らで、誤報かどうかの確認作業が急がれることになるわけだ。

これまでは、たとえ誤報であっても警報作動という事実は発表されていた。その発表が誤報だったと確認された場合には、あらためて誤報でしたとさらに発表されてきた。たとえば漏洩センサの警報などは、大雨の際などに建屋にあいた穴から雨水が流れこんだせいで警報作動。その旨を発表。その後に漏洩ではなく雨漏りでしたと発表という手間をかけたパブリックリレーションが行われてきたわけだ。たしかにいちいち不安を煽りかねないし、記者からの追及に対応するのも大変だっただろう。しかしこの手間が大切だったのではないか。これからは、雨漏りだと判断された場合には発表なし。通報・公表の要否が×ということは、どの資料にも痕跡すら残らないということになる。

これは明らかに後退だと言わざるをえない。

あってはならないことだが、状況を確認するという意識よりも誤報であってほしというバイアスがかからないとも限らない。

注目されるサブドレン・地下水ドレンでも

9月から運用が始まったサブドレン・地下水ドレンに関しては、基準や方法が今回新たに設定された。その中に「集水タンク水のサンプリング結果が運用目標値を超えた場合で、浄化設備への移送が不可と判断した場合」という項目がある。

汲み上げた水を浄化した上で海に流すのがサブドレン・地下水ドレン計画だ。浄化設備に移送しても十分に放射能を取り除けない、これは相当の汚染度ということなる。集水タンク内も汚染されているだろうから、タンクの除染が行われるまでサブドレン・地下水ドレンの運用そのものが停止してしまう可能性も否定できない。その時の対応がどうなっているかというと、

公表区分は「D」だ。公表方法とそのタイミングは「直近の定例会見・レクにて説明」とあるだけで、日報等の文書としては発表されないことになってしまった。(注)

東京電力の定例会見にはフリーの記者さんも多数参加して、毎回さかんに質疑が行われている。大手メディアの記者さんにも鋭い質問を毎回投げかける人がいる。たいへん内容のある会見で、その点官邸の記者会見とはまったく異る。

しかし会見は長い。定例会見をチェックすることを仕事にでもしない限り、一般の人がすべての会見を視聴することは困難だ。しかも開催は月曜日・木曜日の週に2日だけ。さらにもうひとつ重要なのは、定例会見の映像は無期限に公開されているわけではないということだ。

東京電力の映像アーカイブをキャプチャ
東京電力の映像アーカイブをキャプチャ

掲載期間はわずか「1週間」。大きなトラブルが発生して過去の状況を調べようと思っても、定例会見で説明されておしまいということでは、後から検証することすらできないということだ。

「定例会見・レクでの説明」という対応をとるとしている内容については、何らかの形でドキュメントを残してもらうように東京電力に望みたい。

(注)サブドレンから汲み上げられた水の分析は週3回データが公表されている。また集水タンクの分析結果も9月以降公表されるようになった。しかし、サブドレン水の分析項目にストロンチウムなどのベータ核種は含まれない。集水タンクの分析でも全ベータの測定は週に1回しか行われない。そもそも、分析結果が公表されても、東京電力がどう判断してどのような行動をとったのかを読み取ることはできない。

高濃度汚染水が滞留している建屋地下に関する情報公開も後退

原発建屋地下には1日あたり400トンの地下水が流れ込み、建屋内の汚染物質に接触することで新たな汚染水になっている。この滞留水を汲み上げて、処理設備で放射性物質を取り除く作業が続けられている。

これまで、この作業の最初のステップが「滞留水の移送」で、これまで東京電力は1号機から3号機までの各建屋地下からの移送の「開始・停止・変更」を日報や原子力発電所の状況で毎日ドキュメントとして発表するほか、定例会見・レクチャーで情報開示してきた。今回の更新による変更は次のとおり。

毎日定例的にお知らせしているプラント状況等と併せて通報

福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成27年10月5日

毎日お知らせしているプラント状況とは、「福島第一原子力発電所の滞留水の水位・移送、処理の状況について」を示していると思われる。

福島第一原子力発電所の滞留水の水位・移送、処理の状況について
福島第一原子力発電所の滞留水の水位・移送、処理の状況について
 福島第一原子力発電所の滞留水の水位・移送、処理の状況について(2015年10月9日12時現在)
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資料のタイトルこそ「水位・移送、処理の状況について」となっているが、内容は水位のみだ。しかも公表される水位データは1日1回のみという貧弱さ。たしかに同じ表題で発表されてきたデータには、10月5日までは滞留水の移送状況と水処理施設の運転状況が記されていた。しかし、新しい基準が適用された10月6日からは完全にカットされている。(もしかしたら他の場所に移されたのかもしれないが、少なくともその案内はない)

滞留水移送は各建屋の水位を確認した上で手動で運転/停止が行われていたが、9月に水位に応じて稼働するシステムが立ち上がり、移送の切り替えがたしかに頻繁になっていた。10月6日午前0時には、さらに新たなシステムが導入されたと発表されたが、同じタイミングで移送に関する情報がなくなってしまった。

運転/停止が頻繁に行われているのであれば、その運転記録をデータとして公開すべきではないだろうか。なぜなら、建屋地下の滞留水の動きはサブドレン・地下水ドレン計画と一体の、きわめて重要なファクターだからだ。

東京電力の説明によると、建屋のまわりの地下水と、建屋地下の滞留水には水位差があって、地下水の方が高いので汚染された滞留水が建屋の外に流出しないのだという。しかしサブドレン・地下水ドレン計画は、建屋に流れ込む地下水を減らすことが目的だから、できるだけ地下水位は下げながら、建屋地下の滞留水の水位よりは低くならないような、きわめてタイトな条件下での運転・運用が求められている。

その上、驚くべきことに、比較すべき対象のサブドレン水位は、1か月回まとめて発表される状況だ。現在の最新データは9月30日までしかない。

これではサブドレン・地下水ドレン計画の実施で何が起きているのか、外からまったく分からない。考えたくもないことだが、水位の逆転が起きても分からない。高濃度に汚染された滞留水が地下水に流れ込み、処理できないほどの汚染水としてサブドレンで汲み上げられてタンクに貯えられても、その内容がドキュメントとして発表されないのは先に述べたとおり。

サブドレン・地下水ドレン計画が今後の廃炉に向けて極めて重要なのは言うまでもないことだ。そして、再確認したいのは誰にとって重要なのかということだ。重要なのは「東京電力という会社にとって」ではなく、事故で環境を深刻に破壊され、廃炉までにどれだけの時間と費用がかかるのか分からないという、人類史上はじめてといえる困難な状況に置かれた私たち国民にとってなのだ。

この発表基準変更は「トラブル等に関する迅速・的確な情報発信」という目的にかなっていない

東京電力の発表は『「通報基準・公表方法」の更新』という題名だ。本紙には次のように記されている。

福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について

2015年10月5日
東京電力株式会社 広報室

福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について

 当社は、福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する迅速・的確な情報発信を目的に、「通報基準・公表方法」を策定し、2013年9月より運用を開始しております。また、廃炉作業の進捗に伴う新たな作業の発生などの状況変化を踏まえて、今年5月に更新しております。
 このたび、これまでの運用実績等をふまえ、実態に即して「通報基準・公表方法」を更新しましたので、お知らせいたします。

 当社といたしましては、今後も引き続き、福島第一原子力発電所に関わる情報の適時・適切な公表に努めるとともに、「通報基準・公表方法」に関しましては、運用実績や社会的関心の状況等をふまえ、適宜必要な見直しを実施してまいります。

 なお、今回更新した「通報基準・公表方法」は、2015年10月6日より、運用を開始いたします。

福島第一原子力発電所におけるトラブル等に関する「通報基準・公表方法」の更新について|東京電力 平成27年10月5日

「トラブル等に関する迅速・的確な情報発信」を目的とするのであれば、事故原発のおかれた状況が見えにくくなるような改悪が行われてはならない。また「運用実績や社会的関心の状況等をふまえ、適宜必要な見直し」との美名のもとに、情報公開の後退が続けられるようなことがあってはならない。

こんな細かい書類の変更点をいちいち気にする人はいないかもしれない。しかし、このような「知らしむべからず」的なスタンスでいることは必ず国民に伝わっていく。やがて東京電力は見限られてしまうかもしれない。しかし、廃炉作業は目下のところ東京電力が中心になって進めていくほかない状況で、そのことは国民も支持している。何しろ民間企業の敷地内で起きたことだという建前なのだし、一義的な責任は東京電力にあるのだから。しかし国民に見限られてしまったら、東京電力は企業として立ちゆかなくなり、廃炉作業を進めることも不可能になるかもしれない。事故原発が廃炉されず、そのまま最終処分場になってしまう事態、つまり放置。そんなことになって困るのは誰か。それは1人ひとりの国民だ。国民にはもちろん、東京電力の社員も協力企業の作業員も含まれる。

東京電力の事故原発の現場で、廃炉に向けて困難な作業を続ける人たちを応援する国民の気持ちを削ぐようなことがあってはならない。

【まとめ】今日の東電プレスリリース「ここがポイント」
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