自らを「環境活動家がいなくなるように活動する環境活動家」と名乗り、大学を休学して講演活動に取り組む露木しいなさん。先延ばしにしない選択がユニークな二十歳の若き活動家は今、どのようなことを伝えようとしているのでしょう?また、幼少期に過ごした時間とは?などじっくりお聞きしました。
露木 しいな(つゆき しいな)
2001年横浜生まれ、中華街育ち。15才まで日本の公立学校に通い、高校3年間を「世界一エコな学校」と言われるインドネシアの「Green School Bali」で過ごし、2019年6月に卒業。2018年にCOP24(気候変動枠組条約締約国会議) in Poland、2019年にCOP25 in Spainに参加。肌が弱かった妹のために口紅を開発し、Shiina Cosmeticsを立ち上げる。2019年9月、慶應義塾大学環境情報学部に入学。現在は、気候変動についての講演会を全国の小中学生・高校生に行うため休学中。
先の予定はせず、今やりたいことに真摯に取り組む。
――露木さんは今日も取材前は講演活動をされていたらしたとお聞きしていますが、普段はどんなお話をされていらっしゃるのですか?
気候変動について知ってもらうのが目的のひとつで、それを知った上で具体的に取り組みとして何ができるのか?そして行動していく大切さについて。環境をどうやって守っていくべきか?という内容です。全国各地の学校からお声掛けいただいて、出張授業でお話しをしています。オンラインでの講演もありますが、コロナ禍でも対面の講演が圧倒的に多いです。小学校だと40分か45分。60分授業の高校生対象が一番多いですね。気候変動については自分事に置き換えて考えられるように伝えています。
――大学を休学されて活動されているんですよね。講義を受ける立場より、逆に自分が発信する側になるという選択。すごく早い時期に自分がやりたいことを見つけられた感じですね。例えば10年後どうしていたいというビジョンはありますか?
気候変動の問題が悪化していて、大学で何かを学ぶということよりも行動していく人を増やしていかなくてはならないな、と思ったのでコロナ禍の昨年9月に休学しました。10年後のビジョンはないですね。今できることを、というよりも、今やりたいことを楽しんでやるだけ。環境活動が一生自分がやっていきたいことかはわからないし、100%これだ!と思っているわけでもないんです。10年後のビジョンを決めないと動けないわけではない。先のビジョンを世の中は求めるかもしれませんが、目の前にやりたいことがあって、その先に明確な目標がなくてもやっていいと思う。そういうスタンスで活動しています。
――大切なパッションですね。今、特にコロナ禍で世の中がガタガタしています。気候変動に加えて災害もあったり。いつなんどき自分にも何がおこるかわからない。社会がどんなふうに変わっていくといいなと思われますか?
最終的に目指しているのは「環境活動家がいなくなるように活動する環境活動家」です。環境のために、未来のために、子どものために…など何かのためにと言わなかったとしても、それが当たり前にできるような世の中になっていくような自分の意識。そうされるような社会づくり。それが誰にも負荷がないし、進んでいくべき形だと思います。
――環境に無関心な人もいます。そういう方へ関心をもってもらうためにはどうすべきでしょうか?
そもそもその人が本当に無関心なのかは正直判断ができません。無関心というより環境について知る機会がなかっただけなのがほとんどだと思います。私も、生まれた時から環境に興味があったわけではなく、グリーンスクールへ行ったことをきっかけに、知ることができました。どれだけ知るきっかけを社会や自分の周りへ、今活動している講演を通して伝えられるか?が重要です。無関心な人は別にそのままでもいいんです。問題は環境だけではないので、その人なりの視点で受け取れればいい。無頓着の人へ腹が立つ気持ちもわかりますが、怒っても何も変わらない。そうした感情は出さずに活動しています。
――環境を知るきっかけの手段として口紅のワークショップもされていましたね。
コロナ禍となってワークショップは難しくなって、口紅ワークショップ・キットを通販していました。これだと日本全国どこへでも届けられます。これまでワークショップでお伝えしてきた地球とコスメのつながりのお話、材料調達の話は録画をして、それを観ていただくという活動にシフトしています。(前回までのキットは販売終了)これからまたアップグレードしたキット販売を考えています。
常にやりたいことがあり、自分で道を決める。
――小学生の頃に山村留学をされたとか。どうしてそこを選択されたのですか?
自分の意志で行きたいと思って、行かせてもらいました。山賊キャンプという短期間キャンプ企画に参加したのがきっかけです。「このキャンプの1年版企画がある」というのを聞いて、参加したい!と思ったんです。それが「暮らしの学校だいだらぼっち」という1年間の山村留学でした。キャンプも留学も同じNPO法人(正式名称はNPO法人グリーンウッド自然体験教育センター)が運営してます。長野県の泰阜村(やすおかむら)という場所には、毎年日本中から何千人も集まって来ます。「暮らしの学校だいだらぼっち」は、学校という名前がついているだけで寮生活をする場所。泰阜村にある現地の公立小学校へ通います。寮では全国から集まった小中学生で生活を営みます。私は小学4年生から5年生の時に山村留学をしました。
――小学4年生!親元を離れての生活は勉強以上に多くのことを身に着けられますね。そこでの1年間、どんな体験が一番印象に残っていますか?
日々の生活です。ある日突然集まってきた子と生活をするだけでなく、生活を作り上げる。具体的に何をするかというと、三食子どもたちだけでご飯を作るのは当たり前ですが、例えばゴミ出し、犬の散歩、お風呂掃除とかもローテーションで回していこうという会議を開いたり。1年のスケジュールをどうするか?を話し合ったり。「だいだらぼっち」では自分でモノを創り出すのがほとんどなので、畑や田んぼを耕して、毎日五右衛門風呂を薪で焚いてお風呂に入ったり。そうした毎日が印象深いものでした。
――すごい!原始的な体験でしたね。何人くらいで生活を?まとめる先生みたいな大人は介在していたのですか?
「だいだらぼっち」は、小学3年生から中学3年生までの子どもが参加しています。私はちびっ子のほうでした。1年目が8人、2年目は17人いました。まとめる大人はいないです。ただ全員が子どもですので、身の危険を管理してくれるスタッフさんはいて、その人たちが口出しすることはないんです。話し合いをするにしても書記、司会、など子どもたちが役割分担をします。ちなみに、2歳下の私の妹、7歳下の弟も、それぞれここへ山村留学体験をしました。
――小学生での山村留学、そして高校受験での留学も、積極性がズバ抜けてありますよね。高校でもユニークな教育を受けられた?
基本的に変わらないのは目立ちたがり屋で、すぐ行動するし、体を動かしたいタイプ。山村留学は自分が行きたいという意思がないと参加できないんです。つまり、親が行かせることはできない。行きたいという子どもには親無しでスタッフと面接があります。そこで本音を聞いて、子どもの意思が固ければ行かせてもらえます。
中学生になって国語・英語・数学・理科・社会という5教科の勉強はすごくできなくて、英語も成績は1でした。唯一得意なのは美術と体育。裁縫や料理も好きでした。クリエイティビティはあるし、体を動かすことは得意。英語は1でしたが話せるようになりたかったし、勉強したくてお母さんに相談したらたまたま見つけてくれたのがインドネシア・バリ島にある「グリーンスクール」でした。そこは最先端エコスクールと言われていて、教科書がない中で授業や、皆パソコンで紙を極力使いません。私が通っていた時は42カ国の子どもたちが世界中から集まっていました。幼稚園より年齢の低いプレスクールから高校まであるので全校生徒数は、私の時は500人くらい。高校のクラスは22名。高校3学年全体で100人いるか…という規模でした。印象的なのは、やはりダイバーシティ、多様性。世界中から集まってきた子が当たり前にいて、その中で生活をすると視野も広がるし、自分がやっていいと思える範囲が広がるし、周りから受ける刺激も多かったと思います。
可能性を潰さずに、子どもの希望を受けとめてほしい。
――グリーンスクールに通っている時に、環境や気候変動問題、あるいはSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)も意識し始めたのですか。
そうですね。学校に入る前から興味があったわけではなくて、英語を話せるようになりたいと思って留学。行ってから環境について知って、そこから気候変動や環境問題、地球温暖化の問題に取り組みたいと思って日本に帰ってきました。海外で環境問題を知って、これから日本で環境活動をするために今起こっていることを知りたくて、日本の大学で学びたいと思いました。
SDGsを意識しているといえば、私は2年ほど前からお肉は食べていません。環境というよりも、なんとなく体のことを考えてやめました。タンパク質の摂り方は無限にありますし、もともと健康なので肉をたべなくなったから…という変化は特に感じていません。添加物を摂らないのでファーストフードも食べません。すぐ肌に影響があるものは摂りません。
――食へのこだわりもあるものですね。今気になるニュースはありますか?
あんまりないです。自分が知りたいことがある時に、わ~っと調べて情報を集めるタイプ。Yahoo!トピックスみたりしていると疲れてしまう。講演をほぼ毎日やっているので、目に触れるニュースはありますが、今注目しているものはないです。また、朝日新聞の新しいプロジェクトでコメンテーターという立場なので、そういう意味でも新聞は紙で読みます。記事になっていること全部が問題だと思っています。環境問題やSDGsはやるべきことは変わらない。それは現状維持しながら続けて2021年後半も引き続き講演活動をしていきます。
――ところで小学生の頃、習い事はどんなことを?夏休みの思い出はありますか?
うちはお母さんがなんでも体験させてくれたのでバレエ、体操、ダンス、水泳、公文などを。中でもバレエは3歳から6年間続けました。体を動かすのが大好きでしたね。うちは4人きょうだいで2歳上の兄、私、2歳下の妹、7歳下の弟がいて母は二度離婚して、私たちをひとりで育ててくれました。母の手伝いをそれほど積極的にする4人ではなかったです。
――お母さんを中心に皆が仲良しですよね。では今の小学生に何かアドバイスをするとしたら?また、その子を育てる親世代へメッセージをお願いします。
大人のいうことは聞かない方がいい。やりたいことをやってほしい。小学生は何かやっても自分は責任を負わなくていい。もちろんその中でもダメと言われることがあるかもしれませんが、金銭的にもすべてサポートがあって守られている立場は特権です。そして、子育てをする親の皆さんには、子どもの可能性を潰さないでほしい。金銭的にサポートできる範囲はあると思います。でも何かチャレンジしたい時、お金という前提以前に「それ無理だよ」と言うのは控えてほしい。まず子どもの希望を受けとめてほしいです。
編集後記
――ありがとうございました!コロナ禍で大学生活をスタート。そんな現実だけでも切ないのですが、「自分のやりたいことは今やるべき!」と休学を決め全国各地を奔走されている露木さん。環境活動というテーマはもちろん大切ですが、素敵なのは「誰かが敷いたレールに乗らず自分で選択する」という生き方。もっと多くの人へ想いのバトンを渡せますように!これからも応援しています。
2021年7月リモートによる取材・文/マザール あべみちこ
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