【シリーズ・この人に聞く!第104回】透明感溢れる存在感を放つベテラン女優 若村麻由美さん

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話題作「ブレス・オブ・ライフ~女の肖像~」で新国立劇場の舞台を踏む女優、若村麻由美さん。仲代達矢氏主宰の「無名塾」に合格したのが18歳。その後、20歳でNHK朝の連続ドラマで主役に抜擢されデビュー、女優として数多くの作品に名を馳せてきました。なぜ女優を目指したのか?そして、10月公演 注目の二人芝居はどんな作品か?作品の魅力をたっぷりお話し頂きました。

若村 麻由美(わかむら まゆみ)

俳優。無名塾出身。NHK連続テレビ小説「はっさい先生」のヒロインとしてデビュー。エランドール新人賞を皮切りに数々の賞を受賞。ドラマ「夜桜お染」「白い巨塔」「警部補・五条聖子」「科捜研の女」他。映画「蒼き狼~地果て海尽きるまで」他。舞台「マクベス」「頭痛肩こり樋口一葉」「鉈切り丸」他。ライフワークとして、語り芝居「原典・平家物語」を続け、今年12月25日京都芸術劇場春秋座にて新ジャンル、語舞踊「書く女」を発表予定。ヒマラヤトレッキングをきっかけに富士山清掃隊長を務めるなど自然環境への活動も続けている。

 若村麻由美さん 公式サイト
tristone.co.jp  
 若村麻由美 公式BLOG/ウェブリブログ
syunca.at.webry.info  

礼儀作法を身に付けた3歳からの日本舞踊。

――きょうは10月の舞台についてと、若村さんの幼少期についていろいろお聞かせ頂きます。最初にお尋ねしますが、小さな頃、習い事は何かされていましたか?

3歳から日本舞踊を続け15歳で名取となった。

3歳から日本舞踊を続け15歳で名取となった。

幼少期から都内で過ごしました。身体を動かすのが大好きで、神社の境内で暗くなるまで元気に遊ぶような子でした。3歳から日本舞踊とクラシックバレエを始めました。体の動かし方が違うので4歳の時に「どちらかを選んだほうがよろしいのでは?」と先生に言われ、記憶にはありませんが私は日舞を選んだそうです。着物を着て週3回お稽古。たまたま家の近くにあった日舞のお教室ですが、お師匠さんはやさしい方でありながら、お稽古は厳しかったですね。日舞を通して礼儀作法を身につけました。

――3歳から日舞を!女優への道をそこから歩まれていたように思いますが、何か心に残る当時のエピソードはありますか?

小学生になった頃、国立劇場で「藤娘」という演目を発表会で演じることになって「せり上がり」で舞台に登場した時、暗転からパッとスポットライトがあたり、お客様の拍手と歓声を浴びて、とってもうれしくなりました。人生初の舞台は保育園の劇「シンデレラ」をトリプルキャストで演じることになって、私は魔法で美しく変身して舞踏会でダンスをしてガラスの靴を忘れるまでのシンデレラ役でした。セリフは一言くらいしかなくて、身体表現ができたからその役を務めたのでしょうね。

――舞台の楽しさ、ライブ感をその頃から体験していらしたのですね(笑)。小さな頃から夢は「女優」になることでしたか?

いえいえ。日本舞踊 坂東流の名取に当時最年少の15歳でなって、日舞の仕事で生きていくのかな?とぼんやり思っていました。でもしきたりを大切にする世界では実力があってもなかなかそれだけでは舞踊家になれないものです。私は、ものづくりが好きで蕎麦打ち職人にも憧れていたんですね。それで高校時代は都内のあちらこちらの名店蕎麦巡りなどして。でもまずは、大学へ進学しようと考えていました。

――日舞は若村さんの表現する基盤を作ったのかもしれませんね。子どもの習い事を考える親に何かアドバイスを頂けますか?

私の時代は、習い事ブームで日舞の他、オルガンやそろばん、剣道や水泳にも通っていました。その中で一番長く続いたのが日本舞踊。親は子どもの可能性を探るためにいろいろ習わせたがりますが、その子は何が好きか?楽しんでいるか?を見極めてあげられるとよいですね。親の意向で無理やりやらせても途中で挫折します。好きなことって将来仕事にならなくても、生涯の趣味になります。好きなものがあるのは幸せなことですから。

舞台に関わるものづくりをしたい。

――俳優になったのは仲代達矢さん主宰の「無名塾」がスタートでした。何がきっかけでオーディションを受けられたのですか?

稽古場でシナリオの読み合わせシーン。向かって左が若村さん。

稽古場でシナリオの読み合わせシーン。向かって左が若村さん。

私は映画を観るのが好きで、17歳のある時、渋谷の公園通りを「観たい映画がないなぁ…」とたまたま映画館の先にあるパルコ劇場まで歩いて行ったら、ちょうど仲代達矢さんが演出されていた演劇の看板が出ていて「ちょうど上映時間だから、これでも観ようか」という消極的な感じで人生初の新劇を観賞しました。場内で配付されたプログラムに、年一度の「無名塾」オーディションが翌月にあることを知りました。

――人生初の舞台で衝撃の出会い…。お芝居を観てどんな感想をお持ちになりましたか?

それは、まったく今まで観たこともない世界が拡がっていて、心をワシ掴みされてしまった。17年間こういうものを知らずに生きてきたことに衝撃を受けました。己が努力すれば、どんな道でも切り拓けるというチャンスに開眼しました。舞台のものづくりに関われるならどんな仕事でもしたい!と思って、最初は問い合わせのつもりで事務局に電話をしたら「すぐに履歴書を送りなさい」と促され、オーディションを受けてみることになりました。1月に入塾審査を受けて合格となり、大学受験はもちろん辞めて高校卒業後すぐに「無名塾」へ入塾しました。

――タイミングよく、すべてそういう流れに添ったのですね。

「無名塾」は3年間養成塾生として基礎を勉強します。ものづくりに憧れていた私にとって毎日がパラダイスでしたが、2年を終えた時にNHK朝の連続テレビ小説の主役に抜擢され、養成3年目を泣く泣く諦めて大阪へ単身赴任。ドラマの撮影に集中することになりました。仲代さんの教えは、舞台も映像も両方できる役者になることでしたので快く送り出してくださったのですが、当時の私は舞台創りを志していたので自分にとって何が良いことなのかわからなくて…今振り返ると本当に幸せな機会だったとわかります。

――ベテラン女優として歩んでこられた若村さんですが、10月に新国立劇場の舞台に立たれます。「ブレス・オブ・ライフ ~女の肖像~」という作品の魅力を教えてください。

タイプの違う二人の女性の生き方が表れる舞台です。フランシスは良妻賢母として家庭に重きを置いて人生を送ってきた女性ですが、私が演じるマデリンはキャリア・ウーマン。仕事を持ち、社会と接点をもち活動をしてきたアクティブな女性。二人はマーティンという男性を愛した共通点があります。二人と別れた彼は、若い女性と一緒になってアメリカに渡って新しい暮らしを営んでいます。元妻、元愛人はお互いに既に彼とは終わっているにも関わらず、こうして女性として改めて対峙して、自分が信じていたものは何だったのか?という確認作業が始まります。

それぞれが新しい朝を迎える清々しさ。

――聞いているだけで早く観たい!という気になります。若村さんはマデリンという役に、共感されましたか?

「対話する力」がテーマ。深い本音の語り合いに注目。

「対話する力」がテーマ。深い本音の語り合いに注目。

マデリンはバークレー大学で学び、博物館で学芸員として働く女性です。公民権運動に関わるなど社会に興味をもっています。物事の起源を探る仕事で、現実とか事実を重んじるタイプの彼女には適職。空想でお茶を濁すことは好きでないのです。私自身は、ものづくりが好きなので、マデリンとタイプは違います。でも今回の二人芝居で、プロデューサーには「マデリンは若村さんしかいない」と指名されました。相手役のフランシスでないのはなぜか?は私にはわかりません(笑)。

――なるほど。そのマデリンの前に突如現れたフランシスですが、目的は何だったのでしょう?

フランシスは良妻賢母でありながら、小説を書いたら大ヒットして今や超人気作家としての地位を築いています。その彼女が自分達のことを書きたいと、別れた夫の愛人であったマデリンのもとを訪ねてきます。彼を愛した時間は、一体自分にとって何だったのか?ということを知るために。

――イギリスの劇作家デイヴィッド・ヘアの作品は視点がとてもユニークだとお聞きしてますが、若村さんにとっては2回目とか?

97年に「スカイライト」という舞台を緒形拳さんと演じました。今回17年ぶりにデイヴィッド・ヘアの作品に挑戦します。いわゆる「言葉のボクシング」、今回の新国立劇場のシリーズ名にもあるように、まさしく「対話する力」が求められます。駆け引きしながらお互いが深く本音を語る中に、想像外の質問や行動があります。二人が新しい朝を迎える…という結末は、デイヴィッド・ヘアの作品共通です。

――細かな設定もおもしろいです。元妻フランシスが元愛人マデリンを訪ねる。お互い会うのは初めてでも、一人の男を巡ってお互いを意識していた頃があるのは、複雑な心情なのでは?

マデリンとマーティンは、お互い独身時代にかつてキング牧師の演説を共に聞いた共有体験があります。運命の出会いと思ったにも関わらず、不器用な性格さゆえ『この男は私のすべてを愛してはくれない』と直感します。それで自ら別れてしまい、15年後に再会してまた運命を感じるのですが、その時は既にマーティンは家庭をもっていて…。だからといってマデリンは今さら自分と一緒になってほしい…などと言うような女性ではありません。一方、フランシスも、恨みやつらみをぶつけにマデリンを訪ねたわけではありません。自分の信じていたものは何だったのかを確認する相手は、別れた夫ではなく、同じ時間、同じ男を共有していた唯一の人物マデリンしかいなかったのです。

――観る人がいろんな受けとめ方のできるお芝居だと思いますが、どんな方に観てほしいですか?

女性同士はもちろん、女性の心理を知りたい男性にも観てほしいです。そして終演後、どんな会話をするのか知りたい(笑)。そこからいろんなドラマがうまれそうですね。

編集後記

――ありがとうございました!取材は撮影なしでしたので、ノーメイクに普段着、髪をひとつに束ねメガネをかけた若村さん。どんなに無造作でも女優さんの美しさは変わらずですが、昭和の女学生にも見える堅実な雰囲気でした。「生まれ変わっても女優として生きたいですか?」と聞いたところ「いえいえ。女優にはこだわりません」という意外な返答。「ものづくりをしたい。その表現方法の一つとして演じるという仕事がある」と、おっしゃっる言葉には重みがありました。めちゃくちゃセリフの多いお芝居で、二人の言葉のボクシングから、女性としてどんな気づきが得られるか?公演をとっても楽しみにしています!!

取材・文/マザール あべみちこ

活動インフォメーション

ブレス・オブ・ライフ~女の肖像~
 ブレス・オブ・ライフ~女の肖像~
www.nntt.jac.go.jp  

ブレス・オブ・ライフ~女の肖像~
夫の元愛人宅を訪れた、妻の本当の目的は―
ロンドンで興行記録を塗りかえたデイヴィッド・ヘアの話題作
作 : デイヴィッド・ヘア
翻訳: 鴇澤麻由子
演出: 蓬莱竜太
出演: 若村麻由美、久世星佳

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