【シリーズ・この人に聞く!第60回】和楽器の貴公子 尺八演奏家 藤原 道山さん

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10歳から尺八を始め、人間国宝山本邦山に師事。今年、ソロ活動10周年を迎える藤原道山さんはさながらイケメン俳優のように容姿端麗。全国各地コンサートツアーで飛び回っていらっしゃる上、1月には三谷幸喜監督の舞台で音楽をご担当されます。10歳で尺八と出会って28年間。その時間を振り返り「好きを続ける」ことについてお話しいただきました。

藤原 道山 (ふじわら どうざん)

10才より尺八を始め、人間国宝・山本邦山に師事。東京芸術大学大学院音楽研究科修了。
2001年のデビュー以来、10周年記念ベストアルバム「天-ten‐」、山本邦山作品集「讃-SAN-」他計10枚のアルバムをリリース。2007年、チェロ(古川展生)、ピアノ(妹尾武)とともにユニット「KOBUDO-古武道-」を結成。アルバムを3枚制作し、コンサートツアーを行う。演奏家としての抜群の技術はもちろん、コンポーザーとしての評価も高く、TBS系「NEWS23」をはじめテレビ番組のテーマ曲、ドラマ・CM・舞台音楽なども手掛けている。その他、ソロ活動では、映画「武士の一分」(山田洋次監督/冨田勲音楽)ではゲストミュージシャンとして参加。「按針」(グレゴリー・ドーラン演出)、「敦」(中島敦原作/野村萬斎演出)他、舞台音楽も手がける。

 藤原道山オフィシャルサイト
www.dozan.jp  

音楽大好き少年が出会った、音の出ない楽器

――ピアノやヴァイオリンを演奏される方は多いですが、道山さんは尺八演奏家ということで。楽器の中で尺八を選ばれたきっかけは何でしたか?

僕の実家は、たまたま祖母がお琴の先生を務めておりまして、母もその手伝いをしていました。小さな頃はお稽古が終わるまで、稽古の音を聞きながらふすま越しに本を読んだり絵を描いたりして静かに過ごしていました。

――お琴という楽器が身近にあって、音楽に慣れ親しむ環境がおありだったんですね。

そうですね。父も母も音楽を聞くのが好きで、世代的にいうとビートルズやビリージョエルなど洋楽をよく聴いていました。クラシックも好きで何でも聴いていたので、僕も自然と受け入れていました。音楽は、いいものはいいということで、ジャンルという線引きの意識がありませんでした。

――学校での音楽授業は、物足りなかったということはなかったですか?

音楽の時間ほど楽しい時間はなかった…くらい好きでしたね(笑)。音を奏でることがとても楽しくて、楽器に触れるのが何しろうれしかったですね。その中でもリコーダーが一番好きで、かなりのめりこんで、本当にずっと吹いていました。登下校時も吹いていたので、“帰ってくるのがすぐわかる”と言われていました(笑)。それで祖母と母が、尺八を習ったら…と思ったらしく、小学5年生から尺八を習いました。たまたま祖父の知り合いで、尺八をやりたい人が何人かいて「だったら一緒にやったらどう?」と勧められたのがきっかけでした。

――はじめてすぐ尺八のおもしろさ、奥深さのトリコになられたんですか?

それがですね……まず全然音が出ないことに衝撃を受けました。10歳までの短い歳月でしたが、それまで音の出ない楽器に出会ったことがありませんでした。ピアノ、お琴、三味線、とりあえず上手下手は別として奏でれば音は出るものですが、尺八だけはウンともスンとも音がしない楽器でした。それが悔しかった。どうしたら音が出るのだろう?と試行錯誤が始まりました。

――音が出ない楽器……今はやすやすと奏でられているようにお見受けしますが、尺八は難しいものなのですね!おもしろさに目覚めたのはいつ頃でした?

音が出なかったのがとても悔しかったけれど、音が出るようになるとうれしくなって。一音一音、音が出たというのを積み重ねていくのが当時すごく楽しかった。僕は今学校公演などもしていますが、最初に私が目の前で演奏して尺八を吹いて、子どもたちに実践して吹かせるとまず音が出ない。それが、子どもたちにとって驚きでもあり、とても悔しいようです。最初からすんなり音が出る楽器だったら、僕はここまでのめり込まなかったかもしれません。難しいものだからこそやりがいがある。今までとは違うショックがあった、というのは大きいですね。

上達するために学ぶべきことは自分での気付き

――尺八を演奏するには、何か独特な呼吸法というのがあるのでしょうか?

お琴の師匠をしていた祖母の影響を受けて音楽は身近にあった。写真は2歳頃。

お琴の師匠をしていた祖母の影響を受けて音楽は身近にあった。写真は2歳頃。

独特というわけではないのですが、普通の生活ではやらないくらい深く息を吸います。僕は小さな頃に始めたので、大人と一緒に吹くと息が続かず、『どうしたら音を伸ばすことができるか?』を自分なりにずっと考えてきました。というのも、楽器の構え方くらいしか教えてもらわなかったので、どうすれば音が出るようになるか、自分で考えるしか無かった。どういった音を出したいか、息を続けられるか、そういうことを小学生の頃から未だにずっと考えながら続けています。

――手探りで見つけるほか答えはないんですね。10歳で尺八と出会われて、尺八一筋28年。続けるために一番大変だったのは何ですか?

辛いと思ったことはあまりないですね。出来ないことややりたいことが山積みでしたから、そんなことを考える余裕すらありませんでした。中学・高校時代は先生の“おっかけ”をずっとしていました。生の舞台を見ることは非常に勉強になります。師匠の舞台を聴いて自分の中にどんどん蓄積していくこと、そして稽古に行くと師匠がおっしゃった一言を感じ取って自分が気付いていくことが大事ですね。また、中学生時代から助演のような形で尺八を演奏してギャラをもらっていたので“演奏家”はその延長にありました。生活の一部として音楽がありましたし、人との縁にも恵まれたことなのですが、祖母が琴をやっていたので小さな頃からいろんな曲を聞いて、それが蓄積されて土台にあったことは大きかったですね。

――教えられてではなく自然と耳に入ってきて身についた……やっぱり環境って大きいものなんですね。

確かにそうですね。しかしながら、努力は自分でしないとなりません。

――中学、高校は地元の学校でいらしたんですか?大学は藝大でいらっしゃるから相当優秀でしたよね。

中高と地元の学校に行きました。高校時代はブラスバンド部でフルート、指揮者として活動していました。そのおかげで演奏全体を見ることができるようになりましたね。中学1年生の時に藝大の学園祭へ遊びに行って「あ、こんなおもしろい学校があるんだ!」と新鮮な衝撃を受けその時点で、ここで勉強したい!と決めていました。僕の場合は、大学に入っていろいろな音楽を知りたかった。知らないことを知りたいという姿勢はずっとあります。
大学まで音楽の勉強ばかりしていましたが、大学卒業するくらいになって、音楽はすべてのことにつながっていると気付きました。楽器学を勉強していくと数学、物理の力が必要。歴史的なことを知るには歴史や古典も。体の使い方を知るには体育。海外の方とコミュニケーションを取るには、英語も話せた方がいい。これまで勉強してきたことが全部必要だと感じました。

――大学時代に尺八専攻者は3名ということでしたが、ライバルはいらしたんですか?

マイペースに我が道を歩いていたのであまり意識をしたことはないのですが、敢えて言うなら自分自身です。すごいことやっている人をうらやましいと思うなら、自分がそうなろうと努力することです。自分で気付いて取り入れていかないと、身に付きませんから。まあ、甘いところは甘いですけれど(笑)。

今しかできない音、一瞬一瞬に賭ける演奏

――道山さんは今年ソロ活動10周年ということですが、節目として心掛けていることは?

小学校時代リコーダーが得意で、小学5年生から尺八を始めメキメキと上達した。

小学校時代リコーダーが得意で、小学5年生から尺八を始めメキメキと上達した。

10年とはいってもその前の10年もあり、これからの10年もあります。僕にとってはこれが出発点。今やっていることが実を結ぶようになるのが10年後。僕が10年前に思っていたことが今実現しているので、これから思っていることも実現できるように今を大切に活動していきたい。

――音楽を聴いて楽しむだけでしたらアルバムがあります。でもコンサートやライブってそれとは違う感動がありますね。

ライブでは毎回そこでしか出会えないものを感じてもらえればと思っています。同じ場所で同じ時間同じ空気を体験するというのがとても大切です。その場所とお客様からパワーを頂いて、お客様の拍手もサウンドとして体に響いてきます。それをお客様に返していくとお客様からもまた返ってくる。そういうやり取りは大切にしたいと思っています。

――1月には三谷監督の舞台で音楽を担当されるそうでファンとしてはワクワクします!

実は、これまで演劇を観てきた数はそれほど多くありませんでした。それがよかったかなと思います。これまでの定型を知らないので、自由に発想できます。演劇と音楽はお互い違うように思えますが、実際に舞台の音楽をやってみると、共にある空間での表現、やり取りがとてもよく似ていると感じます。今回の舞台で、人は一面ではなく、自分が観ていることと他人が思っていることは違うことがあります。その視点の違
いで表現が変わる面白さがあると思います。私は、演劇を盛り上げる音楽をいかに作るか、いろいろと考えながら舞台を盛り上げられればと思っております。

――では、最後に道山さんと同世代の親御さんへメッセージをお聞かせいただけますか。

僕は『人に迷惑をかけるな。自分のことは自分でやること。』と最低限のことを親から躾られてきました。我が家で箏の教室をやっており、人の出入りも多く、人との接し方を大切にしなさいということ、また留守のことも多かったので、自分で何でも出来るようにという教えだったのだと思います。その頃は大変だったと思いますが、今にして思うと自ら考え一通りのことは自分で出来るようになり良かったと思っています。
今は、常に何でもあり手に入る世の中で、便利になった反面失った物も多いと思います。その中でも、「自ら求めること」の大切さが減っている気が致します。例えば空腹なら自ら「食べたい!」と求めますが、恵まれ過ぎていつでも目の前に食べ物があると求めない。たとえばインターネットで何でもわかったつもりになったり買えたりしますが、僕の頃は音源ひとつ探すのも自分の耳目を駆使して足で探したものです。今は何でもネットで情報もモノも入手ができるから、『いつでもできる』『今でなくていい』と考える人が増えてしまっている気がします。僕らがやっていることは二度とない音、一瞬一瞬を創っていく仕事で、そこに出会いがある。いつも『今しかない』と思って演奏をしています。だから『今しかない』ものを創る人にとっては恐い時代だと思います。
僕は学校公演にもよく行っていますが、手を抜いた演奏をすると子どもたちはすぐわかります。子どもを惹きつける力がないとこちらを向かない。自分のコンサートのときはお客様が聴きにきてくれていますが、学校の子ども達は連れて来られています。あっちこっち向いていますので、まずはこちらに振り向かせるパワーが必要です。未だにやっていて一番疲れますね(笑)。子どもって本物かどうか見極める力がある。だからこそいつでも「今しかない」真剣勝負をしていかないとならないですね。それが子ども達の見本になる訳ですから。

編集後記

――ありがとうございました! 私の身近には体育会系の男子が多いせいか、道山さんを前にしてのインタビューは王子様ならではのキラキラ光線を浴びているような、うっとりした気分になれました。お話しされる言葉の一つひとつも美しく、聞いているこちらの背筋も伸びてくるような。伝統を守る一方で、新たなチャレンジを次々と仕掛けている道山さん。王子の演奏は、きっと耳から癒してくれることでしょう。次の10年へ向けてさらに頑張ってください。

取材・文/マザール あべみちこ

活動インフォメーション

「ろくでなし啄木」
作・演出… 三谷幸喜
謎に包まれた歌人石川啄木と、彼に翻弄された男と女の物語。
何が真実で、何が嘘か? 人間の裏表を描く文芸ミステリー 。
藤原道山がこの舞台の音楽を担当します。
東京芸術劇場 中ホール 2011年1月7日(金)~1月23日(日)
天王洲銀河劇場 2011年2月17日(木)~2月26日(土)
・ホリプロチケットセンター 03-3490-4949(10:00-18:00 ※土-13:00/日祝 休業)
・ホリプロオンラインチケット

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