JR女川駅前から海に向かう通り沿いの商店街には、雨の日も雪の日も多くの人が集まって来る。第二期工事で新規開店したお店も含め、かつて女川にあった有名店のほとんどすべてが駅前に集まっているかのようにも思えるほど。
しかし、震災後にオープンして、町の中心地でかさ上げ工事などが進められる中、ずっと営業して来た「きぼうのかね商店街」は、女川駅前のにぎわいが増していく現在、いまもまだ存在している。
「きぼうのかね商店街がいまどうなっているのか、見に行ってみない?」
軽い気持ちで提案してみたら、株式会社ジェーピーツーワンの被災地支援ツアーのメンバーは「是非に」とバスの運転手さんと交渉して、その日のルートを変更した。
きぼうの鐘商店街で多くの人を集めていた人気店のほとんどは、すでに駅前商店街に移転していた。
訪れたのが夕方遅くなってからだったから、駐車場近くの八百屋さんのほかには開いている店はまばらだったが、それでもこの土地で商売を続けているお店があることを知った。
「ここもか」「ここも移転したのか」と、かつて見知ったお店の多くが駅前や他の場所に移転してもぬけの殻になっている中、新たにこの場所にお店を構えているところもあった。以前と変わらずこの場所で営業を続けているお店もあった。
町の方針といったって、町に住んでいる人たちにはそれぞれの事情や考えがある。動きたくない人、動きたくてもまだ動けない人。そんなモザイク模様が見えてくるようなきぼうのかね商店街だった。
この仮設商店がオープンして以来営業を続けている精肉店さんは、津波前に店舗があった場所の近くでの再建を目指しているから、できるだけこの場所で営業を続けたいと話していた。
津波で流された土地では「換地」という手続きで土地が割り振りされるケースが多い。被災した場所の近くという希望が叶えられる場合もあれば、そうでない場合もある。被災以前の場所の近くへの換地が叶ったとしても、その場所のかさ上げ工事が完了しなければ再建することはできない。といって、造成が終わって引き渡しされるまでの間、別の場所で仮設の店を開くのは容易なことではない。
「中には、仮設から仮設に引っ越して営業を続けるところもありますよ。でも費用負担が大変だからね」
女川駅前にオープンした新らしい町。おしゃれな町。雨の日も雪の日もひっきりなしに観光バスで多くの人が訪れる町。そんな町からだけでは見えてこない現実がある。
女川の復興を見にやってくる観光客は多いという。福興祭では「復興した女川の姿を見てほしい」という宣伝が繰り返し流されていた。だが——。
バスツアーなのに急遽予定を変更して、多くのテナントが移転した後の仮設商店街を訪れることができたのは意義深いこと。とっても深い意味のある予定変更だった。
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