【シリーズ・この人に聞く!第103回】中途聴覚障害を強みにした ユニバーサルデザインコンサルタント 松森果林さん

kodonara

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10代で失聴された中途聴覚障害者として、「音のない世界と音のある世界をつなぎたい!」とユニバーサルデザイン(UD)の道を志す。生活用品から公共施設、情報のUD化まで幅広く手がけるのは、だれもが暮らしやすい社会の実現を目指してのこと。「ユニバーサルデザインで世界を変えたい」と目を輝かす松森果林さんに、これからの仕事で叶えたい夢、そしてご自身の子育てについてお聞きしました。

松森 果林(まつもり かりん)

1975年、東京都生まれ。ユニバーサルデザインコンサルタント。小学4年で右耳を失聴。中学から高校にかけて左耳の聴力も失う。筑波技術短期大学デザイン学科卒業。在学中にTDLのバリアフリー研究をしたことがきっかけで「ユニバーサルデザイン」が人生のテーマとなる。(株)オリエンタルランドなどを経て独立。NHK・Eテレ「ワンポイント手話」出演。「ろうを生きる 難聴を生きる」司会。「井戸端手話の会」主宰。著書に『星の音が聴こえますか』(筑摩書房)、『誰でも手話リンガル』(明治書院)、共著に『”音”を見たことありますか?』『ゆうことカリンのバリアフリー・コミュニケーション』(以上、小学館)などがある。

 松森果林UD劇場〜聞こえない世界に移住して〜
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前作からバージョンアップした7年目の新刊。

――果林さんとはこれまで刊行された2冊の本について別企画で取材をさせて頂いたことがありました。今度の新刊「音のない世界と音のある世界をつなぐ」では、これまで執筆されてきた本とどんな点が違いますか?

片耳が聴こえなくなり笑顔の少ない小学4~5年生の頃。

片耳が聴こえなくなり笑顔の少ない小学4~5年生の頃。

ひとつはジュニア向けであることと、もう一つは主にユニバーサルデザインについてお伝えしていることです。小学校ではユニバーサルデザインについて学ぶ授業がありますが、車椅子を使う人、目の見えない人…というように外見で障害をもつことがわかりやすい人を取り上げることが多いようです。聞こえない人は、一見どこからもわかりません。普段聞こえる人が、耳の聞こえない人と話そうとすると「話しても聞こえないから大変だな」「筆談をすると時間が掛かって疲れそう」「手話がわからないと困る」と思うことでしょう。でも逆の立場で考えると「手話ができない人と話すのは大変だな」「筆談すると時間がかかりそうだな」と思っているわけです。つまり、自分が考えていることは、相手も同じ考えとは限りません。まず相手の立場で考えてみると、新しい世界が広がり、新しい発見や、新しい気づきがあります。普段から、「自分が同じ立場だったら…」と考える習慣をつけるのは、とても大切なことです。

――その通りですね。著書には果林さんが11歳の時に聴こえにくくなって、でもそれを隠して聴こえるふりをしていた…という胸が痛くなる実体験も綴られています。聴こえないことで苦しまれていた時代を、今はどんなふうに捉えられていますか?

実際は本になっている原稿の2倍量書きました。聴こえないことが恥ずかしいこと、聴こえないことは悪いこと…と思いこんでいて、当時は聴こえるふりをして周囲に合わせるのに精一杯でした。一人で抱え込まずにサポートを求めることが中学生くらいの頃はできませんでした。でも、今ならわかります。一歩踏み出せばたくさんの人に伝えられるということ。八方塞がりな毎日の扉を開く鍵を握っているのは、あなた自身なのだと伝えたいです。

――その言葉に、とても共感します。聴こえない人だけでなく、聴こえる人でも状況を変えたいなら自分が変わるべきですね。読み進んでいくと随所にそうした感情を揺さぶられるエピソードがあります。

でも単なる自叙伝ではなく、あくまでもユニバーサルデザインをテーマにすることを基本にしたので、気持ちがわぁーっとこもりそうになると、編集の方がそこからぶれないように軌道修正をしてくださりながら、初めて「書けない」経験もしました。伝えることの責任の重さを大きく痛感したからです。

――ユニバーサルデザインコンサルタントというお仕事をされるきっかけになったお話も興味深く読ませて頂きました。

本の中で繰り返し伝えているのは「相手の立場になって考える」こと。誰もが暮らしやすい社会は、お互いが相手を思いやることから始まります。お互いを理解し、つながりをつくるために、私は講演活動にも力を入れています。音のある世界と音のない世界をつないでいくことで、やがてそこから多くの化学反応が生まれる予感がします。

やると決めたからには続けることの大切さ。

――子どもの頃何か習い事をされていましたか?

目標をもち猛勉強、進学決定した高校卒業時。

目標をもち猛勉強、進学決定した高校卒業時。

お習字教室に小学1年生から中学3年生まで通っていました。続けることの大切さ、細部から全体をみることはユニバーサルデザインにも通じます。小学4年時に片耳が聴こえなくなって、もう片方の耳も段々聴覚を失って高校時代にはどちらも聴こえなくなりました。人とさほどコミュニケーションしないで生きていくには、お習字教室を開いて先生となるか?…と真剣に考えたこともあります。その当時は将来の夢が描けなかったのです。

――切なくなるエピソードですが、幼少期はどんな遊びが好きでしたか?

息子の空君と「おいしい!」。気持ちを手話で伝え合う。

息子の空君と「おいしい!」。気持ちを手話で伝え合う。

山や川で遊んだり、昆虫採集や標本にすること…特に昆虫好きで、虫を捕まえては採集キットの液体を注射して標本にすること…大好きでした。今はバーチャルなことが遊びに溢れていますけれど、自分の目で見て、触って、聴いて…そういう実体験で得た感覚は本物だと思うんです。

――ご自身の子育て期に悲しかった出来事はありますか?

息子が3歳の時、スイミングスクールから入所を断られたことです。「指導者の声が聴こえないのは危険」などの理由でお断りされたんですね。息子は聴こえますが、保護者の私が聴こえないことでこういうハードルがあるのだ…と感じましたね。結局、ママ友達に良いところを教えてもらい、3ヵ所目には「どうぞ!」と歓迎されて通うことになりました。

――よかった!習い事をする時って、結局は「人」ですよね。他に何か習い事をされていましたか?

スイミングの他、空手、英語を。今は中学3年生になった息子は高校受験に備えて塾に通っています。『はじめたら続けること』をルールにしています。空手のおかげで、私が叱った時に手を挙げようとしても、サッと身を交わすのが得意です(笑)。

将来的に「障害」という言葉もなくなればいい。

――ユニバーサルデザインを今後どのような形で広めてゆきたいと考えますか?

生後1ヵ月の空君を抱っこ。お母さんになったばかりの果林さん。

生後1ヵ月の空君を抱っこ。お母さんになったばかりの果林さん。

健常者・障害者という対のような言葉も、なくなればいいと思っています。見えて、聴こえて、歩けて…という人が基本になっている世の中で、それに合わせられない人は障害者。そうではなく、誰もがバリアなく過ごせる社会にしていきたい。例えば、海外ではボディランゲージが豊かで顔の表情も豊かに話してくれます。一方だけの努力ではなく、コミュニケーションを取るお互いが、相手の伝えようとしていることを読み合う努力をしているからです。ハード面もソフト面も言えることですが、障害は環境が作っている部分が多くあります。誰もが楽しめる環境や気配りが整っていれば、障害を障害と感じることも少なくなるでしょう。

――果林さんは「あきらめずに発信を続ける」のが信条と本に書かれています。普段私たちが何気なく見ているテレビCMに字幕は付いていませんが、そこに『CMに字幕を』という運動もこの思いでスタートされたのかと。

総務省の指針に基づいて、テレビの番組には字幕がつくのですが、CMには字幕をつけられないのをご存知でしたか?CMって最強の宣伝メディアなのに、約2000万人もいる聞こえにくい人たちには伝わっていないのです。そうした課題を伝え続けることで必ず興味をもち、共感してくれる人が現れます。CMにも字幕がほしいという声に興味をもってくれたのはITやメディア関係の情報雑誌『月刊ニューメディア』の編集長、吉井勇さんでした。そのキーパーソンから派生して次々と共感して興味をもつ人が少しずつ増えて大勢の人を巻き込んだものになり、CMにも字幕がほしいと提案し続けて10数年たって国の検討事項となりました。2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催される頃は、テレビをつければすべてに日本語字幕がつき、リモコン一つで多言語に翻訳することもできるという未来を描けます。情報のユニバーサルデザインに向けて、大きな一歩が動き始めました。

――まさに「千里の道も一歩から」ですね。そして地元のお住まいでの「井戸端手話の会」は、段々地域を巻き込んで手話文化が根付いてきたようですね。

2003年から始まり、今年で12年目になります。初めは同じマンションに住んでいるママ友5人位でしたが、段々人数が増えてきて、マンションの外から通ってくれる方もおられます。手話通訳士のメンバーもいますし、仕事先で聴覚障害のあるお客さんが来たとき、手話で対応できたと報告してくれるメンバーも多くいます。地域の小学校で手話講座を開催すると、子どもたちも手話に興味をもってくれます。コミュニケーションを最初からあきらめるのではなく、楽しめる環境を作っていくのです。まずは一歩を踏み出すことで、身近な人やご近所の方とつながることができました。

――地域のみならず行政や企業、国にユニバーサルデザインを提案して活動する果林さんですが、今後はどんなことに力を注いでいきたいですか?

ユニバーサルデザインとは決して難しいことではありません。自分とは違う他者に目を向けて、話を聞き、困っていることや嬉しいことを共有していくことからスタートします。「障害」という言葉もなくなればいいと先程もお伝えしましたが、障害者、健常者ではなく相手を一人の人間、友達、仲間として見てほしいなと思います。皆生まれてきたからには一人ひとりに意味や役割があって、そのために「できること」があります。それって何だろう?と考えてみてほしい。私の役目は「聞こえる世界と、聞こえない世界を、ユニバーサルデザインでつなぐこと」です。今後は、映画やお芝居、コンサートなどの楽しみの部分でも、皆が一緒に楽しめるようにしていきたいです。

編集後記

――ありがとうございました!取材は筆談とジェスチャーと口パクでしたが不自由とは感じず、とても楽しい時間でした。11年前に初めてお会いした頃の果林ちゃんと何ら変わらないかわいらしい容姿のまま、でも中身は確実にバージョンアップ!!そして取材後こっそり教えてくれたのは『ホントはいわゆる「障害者」といわれる人たちのホンネ丸出しのブラックな本を書いてみたいの!(笑)』という読んでみたくなるような次作企画まで。『もっちゃった障害はプラスに変えていくしかないんだからしょうがない』という明るさ。そういう気持ちの人が自然と引き寄せられるのがよくわかります。果林ちゃんのことこれからもずっと応援してます!!

取材・文/マザール あべみちこ

活動インフォメーション

果林さんが毎週登場しています!!
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www.nhk.or.jp  

中途失聴者、難聴者が学びやすいように工夫されている手話の番組です。

『音のない世界と音のある世界をつなぐ』
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www.amazon.co.jp  

松森果林 著  岩波ジュニア新書
定価 860円(税抜)
発売日 2014年6月20日

10代で失聴した著者は、周囲の無理解や偏見に悩みながらも、健聴者と共に生きる社会をユニバーサルデザイン(UD)のコンサルティングを通じて模索してきた。生活用品から公共施設、さらには情報のUD化まで幅広く手がけるのは、誰もが暮らしやすい社会にしたいとの一念から。UDの今を知るだけでなく、理解を深めるのに最適の一冊。

『誰でも手話リンガル』
 『誰でも手話リンガル』
www.amazon.co.jp  

松森果林 著  学びやぶっく
定価 1,200円(税抜)
発売日 2010年12月

手話ってオモシロイ!手話は「学ぶ」よりも「楽しむ」もの。使えば誰もが楽しくなる、カンタン手話から冗談手話、酒のおとも手話まで満載の、“雑食系”手話の本。

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