3.11大震災が起こり、福島県にある東京電力福島第一原子炉事故は未曾有の事件となりました。今日現在も収束することなく、現在進行形で放射能汚染は続いています。依然、深刻な事態であるにもかかわらず、徐々に忘れられようとしています。安全だ、安心だと、信憑性のない話をしている専門家がいる一方で、武田先生は別の見地からの意見を常に発信されています。今、私たちはどんな対策を講じるべきなのでしょう?10.25に横浜で講演会も予定している武田先生にお話しを伺いました。
武田 邦彦(たけだ くにひこ)
1943年東京都生まれ。工学博士。東京大学教養学部基礎科学科卒業。専攻は資源材料工学。卒業後、旭化成に入社。同社ウラン濃縮研究所長在任中、世界で初めての化学法のウラン濃縮に成功し、日本原子力学会から最高の賞(平和利用特賞)を受賞。放射線関係では第一種放射線取扱主任者など広い分野の原子力実績を持つ。名古屋大学大学院教授を経て、現在、中部大学総合工学研究所教授。内閣府原子力委員会および安全委員会専門委員を歴任。著書に「環境問題はなぜウソがまかり通るのか1,2,3」(洋泉社)、「偽善エネルギー」(幻冬舎)、「原発事故 残留汚染の危険性 われわれの健康は守られるのか」(朝日新聞出版)、「放射能と生きる」(幻冬舎新書)など多数。
正確な知識と情報を入手してほしい
――横浜市に住んでいる私にとって、9月に配付された広報「よこはま」は、あまりにも安全デマを堂々と吹聴している内容で驚愕してしまいました。行政が発信する情報を信じる人がほとんど。まさか間違った情報を伝えていると考える人は少ないです。そこで武田先生にこの広報誌のどこが問題なのかを具体的にご指摘いただけますか?
1年1mSv(ミリシーベルト)という数値は日本の法律で決まっています。まずその法律を守ってくださいと伝えるべきです。「守っています」と答えるのなら食品の暫定基準が1年1mSv(ミリシーベルト)以下であるということを説明してもらいましょう。これは計算のやり方によりますが5mSv~20mSVの数値になっています。ですからこの数値自体が、国の法律に違反をしています。「1年1mSvは国の法律ではない」とするならば、4月に保安院が東京電力もしくは下請けの職員に対して1年1mSvを超えたことで、国が東電を処分しました。1年5mSvを超えた人が白血病になった場合、裁判では労災認定になります。1mSvを超えると法律違反になり、5mSvを超えると労災になる…というのが事実です。成人男性の場合ですので、児童であればその数値を切っているものを提供することが必要です。
――その例はとてもわかりやすいです。横浜市の給食が今問題になっているのは、「国の安全基準に従っているから安全だ」と主張している点です。ちっとも安全ではないため、基準値を超えたセシウム牛肉を複数回給食献立として使用されて9万人の児童が食べました。保護者は少しでもリスクの可能性がある食材は使用しないでほしいと4月の段階から度々要請したにも関わらず、起こるべくして起こってしまいました。
国よりも横浜市が給食供給責任者として、国の法律を守らないと国から処分を受けます。東電だけでなく、横浜市も処分をされることになります。現状は、横浜市が「法律に違反してもいいですよ」と市民に言っているようなものです。それは絶対にいけません。それでも横浜市がどうしても水や米の供給で法律違反をせざるを得ないということならば、給食を自由選択制にするべきでしょう。我々は健康で善良な市民ですから法律違反はできません。ましてや子どもに法律違反をさせることはできません。こういう伝え方をすることが大切だと思います。
――実際は学校では、水筒も弁当も持参することを認めずにきました。セシウム牛肉を使用した給食を複数回配膳したにもかかわらず行政側から何ら謝罪もなく、9月になってようやく「学校単位で水筒、弁当希望の方は相談してください」という態度軟化に変わりました。そこまで学校給食にこだわる理由がわからない。今後、私たちはどう対策すればよろしいでしょうか?
給食を自由にすべきでしょう。弁当持参も許可し、給食を食べてもいい。どちらか選んでくださいと。被曝をしてもいいと考えるなら給食を選択する家庭もあるでしょう。でも、それは困るという家庭なら弁当をもたせる。それをしっかり打ち出すことです。
――武田先生は先日某テレビ番組で子どもからの質問に対して「東北産の野菜は食べない方がいい」としっかりお答えされました。批判する方もおられることでしょうが、私たちは今、北海道産や西の生産物を選り好んで買い物しているのが現実です。ですから先生がおっしゃっておられることは事実だと受けとめています。風評被害とはマスコミや事実を言われると困る政府関係者がねつ造している「安心説」ではないかと思いますが、先生はどのように思われますか?
政府は何かしら考えがあるとしても、少なくとも専門家は法律を捻じ曲げて違うことを言ってはならないはずです。先日、食品の暫定基準値を変える委員会の議事録を読んでいたところ、そういうことをすると水も飲めなくなる、野菜も食べられなくなると言っている人がいましたが、そんなことは起こらないと思います。落ちるとしたら、野菜の一部と牛肉、牛乳の一部、魚くらいです。それらの輸入を積極的にすべきでしょう。東北の農家には補償が必要ですが、子どもたちに被曝を進めて農家を助けるのは変な論理ですよ。
それと「青酸カリ発言」は言い方の問題はあったかもしれませんが、セシウム130は青酸カリより2000倍毒性が強いということを知っている人は少ないと思う。安全だ危険だという前に、とにかくそれを取り除きましょうと言いたい。そんな毒が撒かれているのに放置しておけば危険です。放射線は粉のように存在しているのです。
関東圏でも年間1mSvを守ることが困難に
――マスコミ報道はいつの頃からか非常に偏った情報ばかりで、私たちが本当に知りたいことを知ることができなくなっています。国も行政もマスコミも、放射能対策に及び腰に見えます。海外のメディアから真実を知ることもあるほどです。武田先生は、放射能の影響など受けず「安全」と言えるのはどのような状況とお考えですか?
東京も横浜も住み続けることで1年1mSvを守るのは具体的に困難です。どうしても2mSvくらいになってしまう。国は食べ物から受ける内部被曝の基準値を5mSvとしているけれど、食べる以外に空間からも放射線量は取ります。「100mSvまで食べても安全だ」と言うのなら、法律違反をしてもいいということを言っているわけですから、言っている人が補償しなければなりません。現実的にはそれは無理でしょう。
――これから先、「安全」と言えるような状況になるでしょうか?除染の仕方についても賛否両論ありますが…。
除染の仕方によります。そして食品に対しても段々基準が厳しくなってきているので、違反した食品が出にくくなっていると思います。今まで被曝してしまった分は仕方ないとしても、ヨウ素が減ってなくなりセシウムだけになる。できるだけ食品のベクレル表示をしてもらうことが大切です。横浜であっても道路などは散水車などを使って徹底的に洗浄を行うべきです。
――子どもの健康を考えると給食以外でも心配なことは多いです。学校では屋外で遊んだり土の上に座ったりして危険なことをしがちです。どんな行動を避けるべきでしょう?
問題は放射線をどのくらい減らせば、ガンがどの程度減らせるのか。世界中誰もわからないのです。安全だという説と危険だという説があるだけ。安全説に子どもを当てはめられないとわかってもらえればと思います。学説はいろいろあるものなので、安全だと説く学者がいてもいいのです。しかし、もしその学説に従った結果、将来子どもがガンになっても、学者は補償できないでしょう。 規制値をあげた分のリスクはどうするのだ?と。1年に20mSvというのは子どもがレントゲンを1年で400回浴びることになります。説を伝える時には伴うリスクもしっかり伝えないといけません。安全のほうだけ触れているのではダメです。安全という可能性もあります。しかし子どもを育てる親にとって、もしかしたら安全だから…と被曝させようとはしないでしょう。
――リスキーなものは少しでも取り除きたいと思うのが親ですよね。内部被曝を受けても健康への影響は一律ではなく、個人差があるのですね。武田先生は「放射線と細胞の劣化」について研究されていらっしゃいますが、その点から放射能から身を守る日常的対策を教えていただけますか?
私は人間の細胞は放射線に対する防御に優れているので、そう簡単にやられないと思っています。でも、それには「免疫力が強く、栄養バランスがとれて、休養が十分」という条件が必要です。人間の体は本当に複雑なので、「私が大丈夫だから、あなたも大丈夫」ということにはなりません。もちろん、放射線に被曝して体が傷むというのは、「病気」の一種ですから、できるだけ栄養をとり、休養を十分にとり、そして免疫力をつけることが放射線から体を守る一つの方法であることは間違いありません。
今後の過ごし方と体調管理
――先生は幼少期とても体が弱かったと伺いました。先生のご家族は体調管理のために何か気をつけておられることはありますか?
私は産まれた時から体が弱く、母がおぶって医者のところに走っていたそうです。25歳頃まで虚弱体質でした。それからは少し元気になって、42歳でお酒が飲めるようになり、普通の生活ができるようになった。父は数学者で一日中部屋にこもって研究する、人の評価より自分の好きなことを大切にする人でした。今は名古屋に住んでいます。妻は食材には気をつけていますので、あまりにも安い食材は買わないようにすると言っています。また、娘は小児科医で病院に勤務していますが、立場上なるべく内部被曝をしないように気をつけています。
――よくチェルノブイリの事故とフクイチの事故は違うと言う人がいます。私にはフクイチを過小評価する意味がわかりません。武田先生はどのようにお考えですか?
同じです。臨界に達しても同じものしか出ない。もともと発電所の中は臨界を超えています。臨界を超えたときに出るものは同じものしか出ない。チェルノブイリの事故は、核爆発と水蒸気爆発ではないかと言われています。フクイチは水素爆発。それは外への出方が違う。トラックで荷物を運ぶか、人の手で運ぶか、といったような運び方の違い。物は同じなのです。ただ、科学的に言えば、チェルノブイリは核反応が進みやすいし、日本の軽水炉は核反応が起こりにくい。そういう違いはあります。しかしそれは原子炉の構造的な話で、我々の健康に影響を与える事故であることには変わりません。
――放射線から身を守る具体的な方法はどういったことでしょう?
まず一つ目は「身の回り、家の前の道路などを水で拭いたり、流したりする(セシウムそのものを除いておく)」、二つ目に「体調を整え、運動をして、新陳代謝を盛んにする(体のセシウムをカリウムに)」、そして三つ目に「カリウムの多い食品を摂る(セシウムを追い出す)」といったことを講じてセシウムの半減期を減らす努力をしましょう。
――スーパーに陳列されている私なら絶対に買わない産地の食べ物も気にせず買っていく人がいます。この意識の違いって何だろう?と思います。この先落ち着く時期がくるのか、武田先生の予測はいかがでしょう?
親同士、意識の差は生じますよね。だって国や専門家がこんなに悪ければ、意識の低い人はいてもしょうがない。意識のしっかりしたお母さんが正しいことを選択すべきです。何しろ20mSvは1年間でレントゲン400回相当になる数値。子どもにその負荷が掛かってよしとする親はいないでしょう。そういう気持ちがあれば、おのずと意識は変わるはずです。今年は2mSvくらいに押さえておいて、来年からヨウ素がなくなるから最初の5年間を子どもが乗り切れば大体、大丈夫だろうと思っています。
――子どもの定義としては、成人前までの括りで考えればよろしいですか?この5年間の過ごし方が鍵になるのでしょうか?
一番危ないのは10歳までの子ども。特に乳児の場合は気をつけたい。1歳の赤ちゃんのいる親子で東京から九州に避難している方もおられますが、1年間くらい様子を見てから東京へ戻る時期を決めたほうが良いと私は言っています。様子見しているうちに、だんだん良くなってくるはずです。いい加減な食べ物を売ると皆が糾弾するようになる。今年いっぱいは食べる物を厳選して気をつけるようにしたい。この5年間くらいのうちに、だんだん良くなってくるでしょう。
編集後記
――ありがとうございました!3.11以降、この国は一変しました。もしかしたら少しずつ変化していたのかもしれませんが、原発の事故によって安全神話は崩れました。もはやマスメディアの情報も頼りなく、何が本当でどうしていくべきなのかは自分自身で選択していかねばならなくなりました。武田先生のBlogを頼りにしている親世代は圧倒的に多く、数ある学者さんの学説の一つであったとしても危険を認識してあらゆるリスクを考え得る先生の視点は「安全だ、安心だ」と何ら信憑性のない分析をする学者の説よりもずっと価値が高く、親にとってはありがたい存在です。10月25日には横浜市で武田先生をお迎えした基調講演、そして武田先生と他の専門家の方もご登壇いただくパネルディスカッションも開催します。地域を超えて参加者募集中です。どうぞお申し込みください。私も司会進行役として当日楽しみです!
取材・文/マザール あべみちこ
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