前回の島旅レポート
天気は上々、いざ青ヶ島へ!
八丈島到着の翌日5月2日、テントに差し込んできた光で目が覚める。外に出てみると綺麗な朝日が昇っていた。これならば青ヶ島に行けそうである。
午前7時。八丈島の船会社に電話すると青ヶ島行の船は予定通りの9:50に底土港から出航するという。テントを撤収し、港へ向かう。
港に着くと旅客ターミナルで乗船券を購入する。ちなみに青ヶ島行のチケットについて、窓口で聞いた話によると予約やチケットのインターネット販売等はなく、当日に窓口で購入とのことである。
ターミナル建物の外に出ると、あおがしま丸が埠頭に横付けされていた。海は穏やか。欠航はまずないだろうと思いながらも、今日渡ることができなければ青ヶ島行は断念せざるをえないだけにドキドキしながら出航の時を待つ。
出航予定時刻の20分ほど前になると、乗船を促すアナウンスが流れたので船に乗り込む。まずはほっと一安心。同じく島へ渡る他の旅行者の表情も生き生きとして輝いている。
あおおがしま丸は予定通りに港を出た。八丈島の2つの山の頂には相変わらず雲がかかっていたものの、天気は快晴であった。
船旅は順調。ときおりトビウオが海面を滑空をしている。出航して2時間もすると青ヶ島がかなり近くに見えてくる。
近づくにつれ、崩落跡など荒々しい島の姿が徐々に見えてくる。人を寄せ付けない断崖は見る者を圧倒する迫力があった。
甲板には人が集まりしきりにカメラのシャッターを切っていた。島を目の当たりし、船上は異様な興奮に包まれていた。きっと乗り合わせていた旅行者の誰もが青ヶ島へ行けるかどうか不安な気持ちで八丈島に渡り、そしてこの船に乗ったに違いなかった。
船内で埼玉から来たという二人組の女性と知り合ったのが、彼女達は昨年、八丈島まで来て9日間も粘ったものの、結局青ヶ島の土を踏むことはできなかったという。
旅人を惹きつける青ヶ島に対して畏敬の念のようなものを感じる。
船は青ヶ島の近くまで来ると岸に沿って航行した。そして、10分ほどすると島で唯一使用されている港、三宝港が見えてくる。
普通ならばここまでくればもう安心。着いたようなものかもしれないが、青ヶ島は違う。
島の港は断崖の下にちょこんと埠頭をくっつけだけの小さなものである。波が高くなると接岸することができなくなる。波止場を目の前にして八丈島へ引き返すことも珍しくないという。
昨年、9日間粘ったという埼玉県からの女性二人組も一度「条件付き出航」で三宝港の目前まできたものの、上陸できずに引き返したそうである。
船は小さな港内に入るとすぐに片側の碇を海中に降ろし、それを中心に船体を回すようにして接岸した。波で岸に打ち寄せれないようにするためであろう。
埠頭に横付けされるとすぐにタラップが架けられ、早く降りるように促された。
青ヶ島、上陸!
タラップを渡り、ついに憧れの島へ上陸!
降り立った時の喜びはひとしおである。しかし、それと同時に心の隅では早くも復路の便も気になっていた。八丈島へは2日後の5月4日に戻る予定。予報によると天候は5日が雨で、それまでは安定しているとはいうものの気がかりである。
ちなみに港には青ヶ島ならではのものがある。それは「漁船を吊り上げるためのクレーン」。
青ヶ島の船着き場は波の影響を大きく受けるため、船を岸壁に係留しておくことはできない。そのため、帰港するとすぐに港にあるクレーンで吊り上げて陸地に移動するのだ。
私はこの陸揚げ作業を見ることはできなかったが、島で知り合った旅行者が目撃していた。
火口にある島唯一のキャンプ場へ
港に降りると役場の人が来ている。青ヶ島には1か所だけ、島中央にある丸山と呼ばれる内輪山の裾野にキャンプ場がある。使用には届け出が必要で、役場の方はキャンパーらしき人を見つけては、村役場で申請するように声をかけていた。
私とトシ君、そしてラザルはキャンプ組であった。そのほか、船内で知り合った埼玉からの女性二人組もテント泊とのことであった。彼女らも加えた5人で野営場へ向かう。ラザルは彼女達のことを「埼玉ガールズ」と名付けた。
三宝港からはキャンプ場までは約2km弱。都道356号を1、2分歩くとすぐに外輪山を貫く青宝トンネルが現れる。
トンネルの長さは約500m。道幅は狭く、乗用車2台がギリギリすれ違うことができるくらい。壁面は、掘った穴にコンクリートを貼り付けただけかのように凸凹になっており、雰囲気は満点。キャンプメンバーの全員が興奮気味☆
長いトンネルを抜けるとそこは火口。周囲は360度そそり立つ外輪山の壁に囲まれている。直径1~1.5kmほどの火口部分には、オオタニワタリなどの亜熱帯特有の植物が生い茂り、中央には内輪山がある。特異な島の地形と植生があいまって漂う南国の秘境ムードにいやが上にもテンションは上がった。
キャンプメンバーの興奮度はかなりなもので、おかげで都道からキャンプ場へ入る脇道を通り過ぎてしまうほどであった。
遠回りをして野営場の到着。各自が思い思いの場所にテントを張るとキャンプ申請をするため、役場へ行くことにする。
キャンプ場使用申請をするために役場へ。これがまた一苦労・・・
ところでこの役場、実は行くまでが大変なのである。
役場や学校などがある島で唯一の集落は、港のほぼ反対側の外輪山の外側にある。キャンプ場から行くには途中、火口壁の急な斜面に造られたつづら折りの道路を上らなければならず、歩くと1時間ほどかかるのだ。
また、役場には届け出以外にも水の補給という重要なミッションもある。というのは、キャンプ場に水場はあるものの、農業用水を引いたもので飲むことはできない。そのため飲料水は役場まで汲みに行く必要があるのだ。
トシ君、ラザル、埼玉ガールズ、そして私の5人で村役場へ向けて出発した。
火口内を20分ほど歩いた地点から、外輪山の急斜面に造られたつづら折りの道路を上っていく。高度が徐々に上がるにつれ、火口全体の様子を見渡すことができるようになる。
外輪山の上に出るとどこまでも続く大きな海が広がっていた。吹いてくる風が心地よい。通常、ここから役場までは20~30分ほど。しかし、途中にあった神社などに寄り道をしたために倍の時間がかかってしまった。
役場に到着すると申請書に記入をしてキャンプの届け出をする。水は八丈島から12~13Lほど持ってきてはいたが、念の為に少し補給をしておく。
島の最高地点へ。そして夜は・・・
手続きを済ませると島にひとつだけあるという商店「十一屋酒店」へ行き、卵などの食料を買う。「酒店」とあるが、お酒以外にも野菜や肉などの食料品のほか、ちょっとした日用品も売られている。
買い物を済ませると標高423m、島の最高地点にある大凸部展望台(おおとんぶてんぼうだい)へ。商店から展望台までは30分ほどの道のりである。
山頂には先客として同じ野営地のキャンパーがいた。彼の名前は林さん。30代くらいの男性で、海に潜って魚を突くためにヤスなども持って来たワイルドな方だった。
最高地点からの展望は贅沢なものであった。青ヶ島の特徴である外輪山とその火口といった地形を一望できるほか、役場などがある集落や海も360度見渡すことができる。
到着した時はすでに太陽が傾き、火口部分は陰っていたが、代わりに美しい夕日をみることができた。
大凸部からの景色を堪能すると、みんなで飲みに行くことになった。ただ、林さんと私は太陽が沈むのを見てから合流することに。先に居酒屋先発チームとして、トシ君、ラザル、埼玉ガールズが飲み屋へ向かう。
彼らが展望台を後にしてから日没までは40分ほど。夕日が水平線に沈む瞬間は荘厳であった。これほどに美しく綺麗に沈む太陽を見たのは久しぶりだった。
太陽が沈むのを見届けたらすぐに居酒屋先発組に合流するはずであった。しかし、今度は月が美しく、その場を離れることができなくなってしまう。
月は満月に近かった。雲の合い間からときおり顔を出すと月光が島と海に降り注ぎ、幻想的な世界が現れる。しばらくその光景に見惚れていた。
月が大きな雲に覆い隠されると下山を開始して居酒屋を目指した。島に2軒しかない飲み屋のひとつ、「もんじ」へ行くと先発チームがいた。
もんじは離島らしい素朴で素敵な雰囲気の店である。店内は、地元の人が酒の入ったグラスを片手にカラオケを歌うなど、居心地のよい空気で満たされていた。
私は最初にビールを注文して空けると、その後にしめさば、エイヒレなどをつまみに青酎(あおちゅう)を飲んだ。青酎というのは青ヶ島特産の芋焼酎で、焼酎好きの間では「幻」とささやかれているそうだ。八丈島で会った旅人からその美味しさを聞かされており、島に渡ったらぜひ飲んでみたいと思っていたのだ。
合流してから1時間程、美酒と店の雰囲気を楽しむとトシ君、ラザル、埼玉ガールズとキャンプ場へ戻る。林さんは店に残った。次の日聞いた話では、彼は深夜まで飲んでいたそうである。
<【GW島旅レポート】秘島、青ヶ島を散策♪ Vol.4 へ続く>
青ヶ島・キャンプ場
※船の陸揚げ写真撮影者以外の登場人物は仮名です。
参考WEBサイト
Text & Photo(※船の陸揚げ写真を除く):sKenji
最終更新:
51mister
船は空飛んでるし、野営場にはアリスに出てきた懐中時計を持ったウサギがいそうだし、月も太陽も素敵です。ラザル君どこの国の人?埼玉ガールズの命名にひねりが欲しかった。埼玉ガールズの上陸への執念も凄い。この島に2軒も飲み屋があるのですね。しかもこんな素敵な島で飲み屋に行っちゃうんですね。それもある意味凄い。
sKenji
ラザルはクロアチアの方です。
船の陸揚げや島の自然など驚きの島です☆
月も太陽も同じはずなのに、見たときの感じ方が違うから不思議です。特に日没は感無量でした。
埼玉ガールズの青ヶ島への思いは並々ならぬものがありましたよ(笑)。それだけ人を惹きつける青ヶ島にも畏敬の念に近いものを感じます。
説明が難しいのですが、居酒屋はとてもアットホームで暖かく、離島独特の雰囲気が詰まった素敵な場所でした。きっと、51misterさんが気に入る店です!