巨大防潮堤建設の是非

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絶対の安全などないと解っている中で、何を取って、何を捨てるか

海に囲まれた美しい島、日本。
古くから、魚を食文化の中心においてきました。

日本人と海との関わりは、到底切っても切れないものなのです。
海に生かされ、海とともに暮らしてきた長い民族の歴史が、そこには紛れも無く存在しています。

反面、その海の力で、多くの命が奪われる事があります。4年前の東日本大震災の津波だけではありません。日本の歴史の中で、幾度どなく津波に襲われ、たくさんの生命が奪われてきました。

神々の怒りに触れたわけではありません。津波は自然現象なのです。日本列島の成り立ちが、地震、津波、噴火の源となっているわけです。

いつでも起こりうることだから、防潮堤が必要だし、東北地方被災後の今、防潮堤の存在意義そのものを疑う人は、そうはいないだろう思います。問題は、「程度」なんですね。

「過去の津波を考えると、防潮堤は10mほどの高さがないと防ぎきれない」
・・・ごもっともです。

「そんな巨大なものを海岸沿いに建設したら、景観が失われてしまう」
・・・ごもっともです。

「海が見えなくなることで、海の状況が把握できなくなり、かえって危険だ」
・・・ごもっともです。

巨大防潮堤建設計画を巡って飛び交う意見は、双方が「ごもっとも」な意見なのです。だから難しいのです。片方を取れば、片方を捨てることになる。

命が大事か、景観が大事かの論議じゃないことを理解しましょう。そもそも比較するものではないですし。「私と仕事とどっちが大事なの?!」に似ています。

科学的手法で判断すべし

すべてのいいとこ取りができれば、一番いいのですけど、そういう手法は、ろくな結果が得られません。

リスクマネジメントの観点から、最適化を目指すしかありません。

リスクマップを作成し、横軸を「頻度」、縦軸を「損害額」とします。どこの企業でもリスク管理のために当たり前のように使っているマップです(よね?)

リスクマップ
リスクマップ

津波災害のリスクマップでしたら、横軸の頻度は一番左を1000年かそれ以上にすべきです。「1000年に1度の・・・」とよく言いますから。頻度の一番右は毎年でしょう。ド真ん中をとりあえず500年とします。私は地震学の学者ではないので、適切な数値は割り出せません。解説用にすべて「とりあえず」の数値です。
現状のままで、こうした津波の被害にあったら、どのような損害になるかを1000年に1度クラスの津波、500年に1度クラスの津波、100年に1度クラス、10年に1度クラス、毎年起きる津波のように分類して、グラフの中に配置します。

頻度の高い津波は、大きな津波ではないので、被害が小さい、または被害が出ないということが考えられます。1000年に1度クラスの津波は、相当な被害となります。
ここでの損害額は、港湾や道路などのインフラの被害、建物や田畑、人命、ストップする経済活動の損害などすべてを金額に換算します。これも学者さんや官僚さんたちの仕事です。

仮に置いて見たものが、下のマップです。

津波災害リスクマップ
津波災害リスクマップ

ここで、どこまでを防潮堤による対策とするかを決定します。リスク対策です。毎年発生する津波(例えば10㎝とか)は、「被害もないので、対策もしない」と判断することになるでしょう。こうした判断も専門家のお仕事です。ですから、「首都圏直下型の地震が起きた時の被害想定は・・・」、「東南海トラフの被害想定は・・・」ということを研究しているのです。その予測が、以前の発表と想定が違っていても仕方ないのです。本当のことはわからないのですから。今ある最大のデータと知恵とコンピューターで、出来る限り近似値に近づけようとしていれば。発表ごとに被害想定が変わっている方が、むしろ健全です。リスクが洗い直されているわけですから。

さて、仮に防潮堤は7mが適切(地域によって当然判断が異なります)となったとしましょう。「8mの津波がきたらどうするんだ」と騒ぐわけです。

防潮堤を7mで建設すると決まったからといって、7mを超える津波が来ないと結論づけたわけではないのです。

7m以上の津波については、違う対策を立てるということです。集落や病院や公共施設などは、高台に移転させ、今後建築許可をださないとか。避難場所と避難経路を整備するとか。緊急の避難用の避難タワーを作るとか。同じインフラとしての対策でも内容が変わってきます。ソフト面での避難訓練も対策の一つです。こうした高台移転などの対策により、被害想定額が軽減されますから、当初の防潮堤の高さも見直す事が必要となります。

全ては、回避する損害額と対策費用とのバランスによって決まるのです。また、建設された防潮堤が守るべき津波は、どのくらいの頻度で起こる津波を想定したものかで、どのくらいのメンテナンス費用が必要か(耐用年数)も試算し、対策費用に加算します。10年に1度クラスには対応できても50年に1度クラスの津波までは想定していない防潮堤だとしら、50年間は、補修などのメンテナンスで、50年に1回は津波で破壊されて、建設し直すという費用を試算しなければなりません。


危険なのは、津波と防災の視点だけで判断してしまうことです。もし7mの防潮堤を建設したら、環境への影響はどのように出るかの想定もしなければなりません。この影響(損害)も考慮して、7mの妥当性を再度検討しなければなりません。環境とは、漁業、農業だけでなく、景観という観光資源が失われることでの経済価値もあるということを忘れてはなりません。

いつも疑問に思うことは、行政vs民の構図

なりふり構わず建設を目指す(ように見える)行政側と、冗談じゃないと抗議する漁業従事者や農業従事者。よく見る光景です。本当は、発注元、または予算の支出元である国土交通省などの省庁と農林水産省などが徹底的に攻防を繰り広げなければおかしいのではと思っています。それとも、漁業や農業の関係者が抗議している事自体を農水省は快く思ってないのでしょうか。

巨大防潮堤建設計画を巡って、漁業や観光業にダメージがあるというのも真実だと思います。農水省や観光庁、外務省が地元と一緒になって抗議する、いや、地元が口を挟む必要もなく、最初から戦っている「絵」を見てみたいものです。

農水大臣として絶対に許せなかったが、結局は漁業者や農業者を守りきれなかった。辞して責任を取りますというくらいの覚悟を持って欲しいのです。

献金問題で辞めるって?そんな場合じゃないでしょ。まさか、わざとそういう人を大臣にしておいて、津波対策という「ハコモノギョウセイ発進!」を阻害させないようにしているのでは・・・?

地震学者や経済学者、生物学者や防災の専門家、リスクマネジメントのプロフェッショナルが一同に会して研究・議論すれば、本当の結論は、すぐに出るのではないでしょうか。出ているのかも。

それから、「万里の長城」みたいな防潮堤は、いかがなものかと個人的には思っています。よその国の世界遺産の「パクリ」とも非難されそうな建築物を我が国の方で作ってはなりません。

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