湖畔で出会ったくずれるような笑顔
青森県・十和田湖の子ノ口(ねのくち)で、出会った男性の笑顔が印象的だった。
子ノ口は、十和田湖から流れでる奥入瀬川の源流部にあたり、渓流を歩くために訪れた。岩手県の二戸駅前でレンタカーを借りた私は、子ノ口に着くと、車を停める場所はないかと、スピードを落として走っていた。すると、ひとりの男性が「無料駐車場です!」と、とびっきりの笑顔で駐車場に誘導してくれた。年齢は60歳代くらいの方だろうか。笑い顔がとても素敵な方で、顔全体を一気にくずして笑顔をつくる。
駐車場に車を停めた後、奥入瀬渓流の遊歩道入口の場所を尋ねたかったので、男性の所に行くと、友人と思われる人と話をしていた。私は、二人の会話が終わるのを待って声をかけた。「奥入瀬渓谷の遊歩道はどこにあるのですか?」男性は、「すぐそこですよ」と笑顔で、奥入瀬川にかかる橋のたもとを指さして教えてくれた。
私はさらに「奥入瀬渓流の綺麗な写真を撮りたいんですけど、やはり、阿修羅の流れあたりがいいですか?」と、ほかに穴場の撮影ポイントがないか聞いてみると、男性は、「私も写真が好きで、撮るんですよ!」と言って、道路を挟んで駐車場の反対側にある、土産物屋とレストランが一緒になった建物へと私を誘った。男性の後について行く。どうやら、そのお店のご主人だったようで、レジの脇に置いてあった無料の奥入瀬渓流ガイドマップを一枚手に取ると、私にくれ、「子ノ口付近を写真に撮るなら夕方の方がいいですよ」、「今の季節なら三乱の流れのツツジも咲いてますよ!」など、いろいろな情報を丁寧に教えてくれた。会計をしようとする店のお客さんがレジに来たときに、私が仕事の邪魔をしていることを謝ると、「いいです、いいです。気にしないで下さい」と笑いながら、レジを打っていた。
ひととおり奥入瀬渓流散策についてのアドバイスをくれると、時刻表を調べてくれ、帰りのバスの最終時刻を教えてくれた。そして、「歩くのに少なくとも3時間はかかりますよ」と言うと、早く出発するように促した。私がお礼を言うと「奥入瀬や十和田湖は、本当に美しい所です。楽しんでいって下さい。」と、崩れるような笑顔で言った。私は、もう一度御礼を言って遊歩道へと向かい、奥入瀬渓流を歩き始めた。
その日、男性の崩れるような笑顔と優しさのおかげで、奥入瀬渓流を軽やかな気分で、歩くことができた。
十和田湖・子ノ口
Text & Photo:sKenji
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