一人暮らしって寂しいですよね!
僕は2年ほど前まで福岡県で暮らしていました。
福岡と言っても、博多みたいな都会でなく、近所にコンビニもないような田舎町。(そのくせ、一丁前に “市” を名乗っていました)
休日こそ、電車に乗って博多近辺に出かけたものの、平日は仕事と自宅を往復する日々でした。
それ自体は嫌では無かったのですが、仕事を終えて帰宅をしても「ただいま」を言う相手すらいないわけです。
今まで、人口の多い下町で育ってきた僕にとって、これはけっこう寂しいもので、ちょっとした試練でした。
それでも、当初は「これもサラリーマンの厳しさだ」と修行僧のごとく納得していたのです。
しかし、だんだん独り言が増え、近所のスーパーのパートのオバサンが可愛く見え始め、挙句の果てには、たまに電話をする男友達のことさえ好きになりそうでした。
そう感じていた僕ですが、特に何もできないまま、毎日が過ぎていきました。
しかしある時、僕は素敵なものを発見してしまったのです。
そう。
これ、きのこです。
これぞ、みなさんご存知「きのこ栽培キット」です。
仕事で熊本県の球磨郡に出かけていた僕。数件の営業まわりをこなすと、時刻はすっかりお昼過ぎ。
アポとアポの間で時間の空いた僕は、どこかで休憩しようと車を走らせていたのですが……、
呼ばれた気がしたんです。そう、【道の駅】に。
幻聴ですかね。ヤバいですね。
いよいよ末期だなと思いました。(何が?)
ということで、僕は熊本県球磨郡の道の駅「錦」へ。
それにしても、道の駅は最高ですね。
安くて鮮度の良い野菜が「これでもか」と、並んでいますから。
そう。
この道の駅に、「きのこ栽培キット」なるものが置いてあったのです。
直感しました。
いくら寂しくても動物は飼えませんし、観葉植物も自信がない。
そんな僕にきのこはちょうど良いかも知れません。
調べてみると、楽天などのネット通販で買うキノコ栽培キットは、値段を見ると数千円もするではありませんか!それが、この道の駅では50円~100円で並んでいたのです。
もはや、破格の安さですね。(それともネット通販のが高すぎ?)
世知辛い世の中だけど、生きる悦びを味わいたい。平日は無機質な日々だけど、少しでも生命の息吹を感じていたい。
僕はきのこを買うことに。いいえ、飼うことにしたのです。
さて、こうして僕ときのこの栽培生活が始まりました。
無事育ってくれるのでしょうか。
結婚の予感すらまったくない日々なのに、早くも「子を持つ親の気分」です。
左がしめじ、右がエリンギらしいです。
はっきり言って、どっちがどっちか全然わかりません。
マナとカナを見てる気分です。
さて、同封されていた説明書きどおりに進めたいと思います。
まずは、この【びっちり付いた菌をスプーンでほじくる】のだそうです。見た目は綿みたいで、この状態から段々きのこが育っていきそうにも見えるのですが、ほじくってしまって大丈夫なのでしょうか……??
すると、
このように菌床(きんしょう)と呼ばれるものが見えてきます。
ここからきのこが育つのだとか。
ナラ、クヌギ等の木粉(オガクズ)と米ヌカ等の栄養分を合わせたものに種菌を植えつけて培養したキノコの培地。
菌床とは - 空調用語 Weblio辞書
【湿らせた環境に置いておく】のが良いそうです。
要はジメジメさせてやれってことだそうで、そうすることで、菌床に水分を吸わせ、きのこが発芽に向けて準備するのだとか。
日中は仕事に出かけていた僕ですが、これなら安心です。毎朝、タオルを程よく濡らして絞り、きのこに「じゃあ、行ってくるからね」と一声かけて出社しました。毎朝きのこに話しかけての出社です。
ちなみに「毎朝きのこに話しかけてから出社している」とFacebookでつぶやいてみたところ、友達から「大丈夫か?」と心配されるレスを山ほどもらいました。
さて、ここからは特にコレといったやるべきことはありません。説明書きによると【湿度を保つよう、霧吹きや濡れタオル交換をしつつ、2~3週間待つ】のだそうです。。
じつはこの間、まったくきのこが出る気配も無かったので、僕もいよいよ飽き……、じゃなくて、不安になっていました。
そんなこんなで【15日目】。
説明書きには「2週間程度で食べられるまでに育つ」と書いてあったので、遅いなぁと思っていました。すると、
おおおおおお!!!
はい、育ってきました。初めてこれを見た時はけっこう嬉しく、勢い余って電話で友達に伝えたりしたのですが、友達の反応は「へぇー」でした。
……まぁ、こういうのはどうしても温度差がありますね。
僕自身、出産して間もない女友達に生まれたての子供の写真を見せられても、「へぇー」しか言えません。当事者と他人でテンションが違ってしまうのは仕方ないのでしょう。
並べてみるとこんな感じです。
しめじもエリンギも、それっぽさが出てきましたね!
育て始めて、あっという間に18日くらい経ちました。
説明書きによれば、とっくに収穫できている日数なのだそうですが、寒さや湿度などが大きく影響するらしく、育ち方にはムラが出るそうです。
特に、【僕の部屋は乾燥しやすいうえ、季節も冬真っ只中】。
これでもじゅうぶん育つようですが、成長スピードは遅くなってしまうのだそうです。きのこも生き物なんですね。それでもすくすく育ってくれるので、愛着が湧いてきます。
嬉しいことに、急にすくすく育ち始めたきのこ。
しかし、ここで疑問が湧きあがります。
というのも、
このあたりから、朝の出社時から夜の帰宅時という間でさえ、成長を感じ取れていたのです。育つのは嬉しいのですが、それはつまり、そろそろ刈り取ってやることを意味していました。
今思えば、この26日目のタイミングで刈り取ってやれば良かったのかも知れません。
……と言うのも、僕はここで会社から出張を命じられてしまい、2泊3日で鹿児島へ行くことになったのです。
驚いたのはエリンギ。
なんと、重みに耐えられなかったみたいで、そのままもげ落ちていました。傘は見事に反り返り、程よく柔らかったはずの柄もカタくなっています。もはや、僕の知るエリンギではありませんでした。
しめじの方は、ちょっと頼りないくらいにブヨブヨしていました。
出張前はもっとシャキッとしていた気がするのですが……。
僕はこの覇気を失ったしめじをそっと優しく、もぎました。
僕はきのこたちを、優しく刻み、そしてバター、ベーコンと共に塩こしょうで炒めました。
「この1か月、楽しかったよ……」
そんなことを呟きながら、弱火でじっくり火を通します。
バターの風味を漂わせながら、しんなりしていくきのこたち。
ついさっきまで、しめじもエリンギも生きていました。
しかし、そのきのこをもぎ、刻んで炒めている状態について言えば、
しめじもエリンギも死んでしまったのです。
大げさですが、そんな風に思いました。
およそ4週間。
短い付き合いでしたが、彼らのおかげで、生命の息吹を感じる日々を過ごせました。
育ちすぎたくらいですから、「生命をまっとうした」と言っていいでしょう。
ありがとう、きのこたち。
このページについて違反を報告