与那国島を訪れたら絶対に行こうと思っていたのが、日本最西端の碑だ。ベタではあるけれど、ここは日本最西端の島。ここまで来ておいて、行かないわけにはいかない。
与那国島では3泊4日。その間に最西端の碑へ行ければ良いと思っていたのだけど、なかなかうまくいかなかった。
つきあげかまぼこをご馳走してくれたおばぁ
与那国島にたどり着いた初日。宿泊先である「おじぃーの家」に荷物を置き、早速自転車を借りて最西端の碑のある久部良を目指す。・・・と、その前に、島の共同売店(スーパー)で、買い物をする。結果的には、ここで買い物をしたことで、予定が狂ってしまった。
ちょうど特産品の「つきあげかまぼこ」が売っていたので、1袋購入。またコレがめちゃくちゃウマイのだ!揚げて間もないのか、魚の旨味が油と一緒に弾けてくる。当時、僕は与那国島について詳しく知らなかったのだが、店員さんから「与那国島に来たならば必ず買っておくべき一品だ」と聞いた。
あまりに美味しかったので、もう1袋購入する。ふと横に並んでいたおばぁに声を掛けられた。
「あなた、ナイチャーのかた?さっきうちでつきあげ(かまぼこ)揚げたばかりだから、良かったら食べに来ない?」
なんだか感動した。僕があまりにもおいしそうにつきあげを食べるものだから、声を掛けてみたというのだ。それまで店員さんと沖縄方言全開で喋っていたのに、僕には丁寧に話してくれる。都会ではありえない出来事だろう。僕だって、ここが与那国島でなければ、相手が優しそうなおばぁでなければ、きっと付いて行かない。
おばぁの家にお邪魔すると、カジキの身を練ったという、つきあげが出てきた。これまた甘辛の味わいで本当にうまい。うまいとは言え、何個も何個も食べればさすがに飽きそうなものだが、全然そんなことも無い。普通のものと人参入りの2種類のつきあげ。
ところがここで予想外のアクシデントが起こる。おばぁが気を利かせて出してくれたお水。このお水と思っていたものが、実はお酒だったのだ!ナミナミと注いでくれていたものだからてっきりお水かと思っていた。このお酒は与那国島の銘酒「花酒」らしい。「花酒」とは与那国島でしか作られない、度数60度(!)のお酒である。気づかずクイッと飲んでしまった僕。60度どころか4度のお酒で酩酊するほどの下戸なのに。。
「あれぇ、まずかったー?」
苦笑いするおばぁの顔を最後に、それ以降の記憶はない。
台湾がはっきり見えたらしい。
2日目。今日こそ最西端の碑を見に行こうと目論んでいたが、同じく「おじぃーの家」に泊まっていた男女集団4人に誘われ、海底遺跡を見に行くことになった。ちょうど、ツアー業者のキャンペーン期間ということで、通常料金よりも安くなる日だったらしい。「今日しか安くないよ!」なんて言葉にはどうも弱い。それに、誘われるとやはり嬉しいので、一緒に行くことにしたのだ。
海底遺跡を見終え、その後は有名なドラマ『Dr.コトー診療所』の舞台となったオープンセットを見に行く。その後、近くのカタブル浜という真っ白な砂浜でくつろぐ。。
全員旅先で知り合った男女5人。こうして一緒に島めぐりをし、海を見ながらぼーっとたそがれる。出身地もばらばら。与那国島を訪れた理由もばらばら。半日一緒に過ごし、彼ら彼女らが良い人であることは間違いなかったが、それ以上の素性は何も知らない。でも、当時22歳の僕には、そんな不思議なつながりが新鮮でたまらなかった。
「与那国島を訪れた理由?とりあえずここまで来たら最西端の碑に行っておきたくて」
まぁ明後日(3泊4日の4日目)までに行ければ良いか。この時はまだ余裕をかましていた。
「おじぃーの家」に帰ると、今日与那国島にやってきたという女子大生2人が、ちょうど最西端の碑に行ってきたと聞いた。たしかにこの日はとにかく天気が良かった。最西端の碑から見る景色も抜群だったようで、110km先の台湾まではっきり見えたとはしゃいでいた。(よほど天候が良くない限り、台湾は見えない)
「明日も晴れると良いなー」
期待が高まってくる。
台湾がはっきり見えた日の翌日はダメらしい。
3日目。朝起きると、島全体が強めのシャワーを浴びているかのような豪雨に見舞われていた!おじぃーが言うには、台湾がはっきり見えると次の日は雨が降るらしいのだ。(高気圧の後には低気圧が来るとかナントカ・・・)
これでは最西端の碑に行ったところで大したものは見られない。車を借りれば行けないことも無いが、土砂降りのなか行くのもどこか気が引ける。結局この日は、昨日一緒に遊んだ2人を見送っただけで一日を終えた。
あれ?もうこれで3日目が終了か。果たして日本最西端の碑は見られるのか・・・。
夕方の飛行機で帰ります。
4日目。天気は・・・曇り。雨は止んでいたが、決して良い天気ではない。しかし、自転車を借りた僕は迷わず出発した。行き先はもちろん日本最西端の碑だ。
与那国島は想像以上に坂が多かった。自転車を漕ぐのは無理ではないが、雨上がりで蒸したこの日はちょっとキツイ。おまけに、借りた自転車はパンクしてしまった。なんで、ここまで残念なことが重なるんだ・・・。
南の海沿いで休憩していると、馬が近づいてきた。島にはいくつか牧場があり、在来種であるヨナグニウマが放牧されているそうだ。人間にも慣れているらしく、馬は僕の近くで草を食んでいた。適当な表現かはわからないが、これがまた犬みたいでカワイイのだ。鼻を鳴らしながら地面を探る馬たち。触れても問題ないようで、喉元を触ると気持ちよさそうだった。
あんまりノンビリもできないので、立ち上がると、馬が僕の先を歩きはじめる。驚いたことに、時々僕の方を振り返っては僕の前を歩くのだ。まるで「ついておいで」と言わんばかりに。馬が行く先には日本最西端の碑がある。誘導してくれているのだろうか。僕はパンクした自転車を、押しながらついて行き、とうとう日本最西端の碑にたどりついたのだ。
ひたすら海が広がり、僕より西側には誰ひとり存在しない景色。
台湾は見えなかったが、少しだけ光が差し、空には虹がかかっていた。
日本最西端の碑(西崎)
なぜか遠い場所だった日本最西端の碑
まだまだ「島記事」あります。
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