「あっ、美味しい」思わず声が漏れる粟島のお菓子
「どうぞ、食べてみて」
島びらきのイベント会場のなか、不意に出店の人に声を掛けられる。
見てみると、出店の奥さんが僕にお菓子を差し出してくれていた。
どら焼き?
いや、どら焼きみたいだけど、どら焼きとはちょっと違う形。一枚の皮で、こしあんをくるっと包んでいる。
「千代華」というらしい。
手渡された「千代華」は、焼き立てなのかほかほか。クレープとホットケーキの中間のような、パリッとした焼き目だ。
ひと口かじると、甘くて香ばしい香りが口いっぱいに広がる。
「あっ、美味しい」
5月とは言え、上着が必要なほど肌寒いこの日、千代華から湯気がふわっと舞った。
1個100円、5個で500円。それなのに、来る人来る人へ試食を渡していく。すると、比例して飛ぶように売れていく。
「もう一度食べたい!」
そう思ったときには売り切れだったが、心配することなかれ。
「海沿いを歩いていくと『勝ちゃん』ってお店があるよ。そこで売っているからまた寄りなよ」
とのこと。
翌日、さっそく勝ちゃんを訪れた。
特別な味ではなく、ただただ素朴
思わず声が漏れる。驚くような味ではない。きっと見た目の通りの味。ただ、想像していたよりも「美味しい」と思うはずだ。特別な味ではなく、ただただ素朴。
しかし、素朴とは言うが、こしあんは粟島で採れた小豆を使用しているそうだ。肉と米以外は全て島内でまかなえるという粟島。千代華は50年以上続く、粟島のお菓子だという。さめても十分美味いものの、やはり焼き立ては格別だ。
ここの店主が本保勝敏さん。
「東京のアイランダーでは毎年人気なんだわ」
と本保さんは胸を張る。
「子供たちが出かけるときによ、持たせるもんがなかったら悪いからって、これをカバンに入れてやるのよ」
観光客にはもちろんのこと、島民のお菓子としても欠かせない千代華は、多いときには1日3,000個も売れてしまうのだとか。まさに粟島には不可欠な存在だ。
間もなく出港する船で帰るというお客さんに合わせ、新たに焼き始める。店の前には粟島漁港と海が見えるロケーション。本保さんと世間話をしながら、焼きあがるのを待つ。
粟島にとってはごく当たり前の、日常的な光景だ。でも、そんな光景がなんだかとても良かった。
勝ちゃん
●千代華・・・1個100円、どら焼き・・・1個120円、TEL:0254-55-2416、営業時間:午前8時~午後6時、定休日:無休
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