海を越えてやってきたrumbullion
小笠原・母島で作られる「ラム酒」(左)。
姉妹品として「パッションリキュール」(右)もある。
小笠原諸島の特産品として知っておきたいのが、母島で作られるラム酒です。南の島ではありますが、焼酎でも泡盛でもありません。爽やかな味わいのなかにパンチのある刺激が特徴のラム酒。小笠原では、国内では数少ない国産のラム酒が作られているのです。
国内では比較的なじみのうすいラム酒ですが、そもそもの発祥はカリブ海に浮かぶバルバトス島と考えられています。その昔、島を訪れたイギリス人が、酒盛りをして乱痴気騒ぎをしている島民を見て “rumbullion” (イギリス南部の方言で「飲んで騒いでいる様子」)と言ったのが始まりで、その時のお酒を指してラムと呼ばれるようになったとか。その後は、カリブ海を越えて世界各国に伝えられ、原料であるさとうきびの栽培と共に浸透していきました。 一方、絶海の孤島・小笠原では、1830年ごろ、欧米系の住民がラム酒を持ちこんだのが歴史の始まりと考えられています。もともと文化の下地が無い無人島だった小笠原では、ラム酒も違和感なく受け入れられ、日本の領土として認められてからも島民らに愛飲されてきました。その味もまた、かなり美味しかったといいます。
途絶えた歴史が復活する
ところが、第二次世界大戦を経て、ふたたび人々が島で暮らすようになったころには、ラム酒の歴史が途絶えていました。現在、小笠原・母島で作られているラム酒は、当時の味を取り戻したいと願った島民らをきっかけに、島おこしの一環として再開されたもの。1992年、母島にラム酒工場である「小笠原ラム・リキュール株式会社」が設立され、当時の味を再現すべく、試行錯誤が行われています。 2007年に母島を訪れた際、村役場に頼み込んで施設を見学させて頂いたことがありました。
驚いたのは、工場と言いながら、製造に携わっている方がたったの1人ということ!施設も工場と思えばあまり大きくありませんが、1人で作業をするとなれば、なかなかの広さです。島の特産品を1人で生産するとなると、そう簡単なことではなさそうです。 唯一の作業員であり、工場長でもあるのが島民の小高康哲さん。2007年時点ですでに10年以上ラム酒を作り続けています。
ラム酒工場こと「小笠原ラム・リキュール株式会社」(母島)
外観だけではそこが工場とはわからないかも知れません。
本当に美味しいラム酒へ進化し続ける
ラム酒は父島、母島の商店やお土産屋さんのほか、飲食店などでもよく見かけました。そのほかネット通販でも流通しており、島の顔として認知されつつある印象です。それだけの特産品を1人で作っているわけですから、その苦労も推して知れます。 「材料の仕入れから、調合、製造もやれば、ラベル貼りから工場の掃除までやりますよ。」
と小高さん。まさにラム酒製造における万能選手!と思いきや、人知れぬ苦労もあるそうで、そのひとつが味に対する試行錯誤だそう。戦前のラム酒に関する情報や資料がほとんど残っておらず、味そのものが手探りだと言います。戦前の味を知る世代に伺えば「まだまだ(当時のラム酒には)及ばない」と言われるそうで、「まだまだこれからですね」と、小高さんも将来を見据えていたのが印象的でした。 見学の際は試飲をさせて頂くことになりました。お酒の味にあまり詳しくなかった僕は「出来たては美味しいんでしょうね~!」と言いましたが、小高さんは笑いながら「そうでもないよ。」とのこと。聞けば、ラム酒もやはり熟成させてナンボだそうで、製造後、年月が経ったものが美味しいと仰っていました。なるほど。
つまり、「味は今なお進化を続け」、「熟成させるとよりおいしい」のが小笠原のラム酒。このラム酒が銘酒と呼ばれるころ、小高さんもラム酒づくりの名手となっているはずです。
「小笠原の原風景が残る」と言われる母島で作られています。
こぼれ話 島と言えば「ラム酒」!
上述のようにカリブ海・バルバトス島から海を越えてやってきたラム酒。さとうきびを原料に作られ、すっきりとした味わいが特徴です。 国産のお酒でさとうきび由来と言えば、思い浮かぶのは黒糖焼酎(奄美で作られる)ですが、黒糖焼酎は米麹を使用するのに対して、ラム酒は使用しない点が最大の違い。酒税法上の分類も異なります。しかし、さとうきびの産地である南西諸島の島々では、さとうきびの積極活用を目指して、ラム酒製造を行う会社が増えてきました。代表的な存在としては、「ルリカケス」(鹿児島・徳之島)、「コルコル」(沖縄・南大東島)、「イエ・ラム」(沖縄・伊江島)が挙げられます。
◇施設情報◇製造元:小笠原ラム・リキュール株式会社(公式HP)
◆住 所・・・東京都小笠原村母島字評議平◆電話番号・・・04998-3-2008
※ 問い合わせ、見学希望などは【小笠原村役場母島支所 04998-3-2111 】へ※ 姉妹品として小笠原産パッションフルーツを使用した「パッションリキュール」のほか、ラム酒を使用した「ラム酒ケーキ」(製造元:有限会社フリーショップまるひ)もあります。
※ ラム酒に関しては、父島・母島島内、東京愛らんど等で購入可能。
最終更新: