数年前、僕はラブホテルと呼ばれるレジャー施設で清掃のバイトをしていました。ラブホの職場環境は「面白いと思えば面白い、特殊と思えば特殊、普通と思えば普通」という何とも不思議な感覚があります。このシリーズ？では謎の多いラブホテルの舞台裏に少しずつ迫っていきたいと思います（脇汗）。

ラブホの清掃をする為に来日した訳ではありませんが、フィリピン出身のＫさんという40代の女性がいました。彼女は20代で日本人の男性と結婚し、3人の子供を育てる立派なお母さんです。多少なまりはありますが、日本語もペラペラで英語とスペイン語まで話せるトリリンガルです。

中年の女性にしては凄まじい体力を持つパワフルな人でした。昼間は月曜から金曜までフルタイムで働き、夕方に一度帰宅してから再びホテルに戻って深夜まで働きます。時給750円なのにも関わらず、月収25万円を稼ぎ出すカリスマ的な存在でした。

Ｋさんはとにかく掃除のスピードが速い！1部屋の平均的な清掃タイムは10分ですが、Ｋさんとペアを組むと7～8分で掃除が終わってしまいます。あまりにもスピードが速いので、相方の掃除が終わる前に次の部屋に行っちゃいます。しかし、Ｋさんは『速い＝雑』になってしまう傾向がありました。「お前ら農耕民族のペースに合わすつもりはないぜ！」という感じでガンガン先の部屋に行ってしまうので、ペアを組むスタッフが疲れ果てるという欠陥に悩まされました・・・。

ある時期、社長の提案でホテルの隣にお弁当屋さんを開きました。店長に指名されたのは料理が得意なＫさんです。「ラブホテルの隣にある弁当屋なんか売れるはずない！」と従業員は口を揃えて批判していました。しかし、周囲の予想とは裏腹にＫさんの作る弁当は大好評で販売から30分で完売してしまう人気商品となりました。

Ｋさんが作る弁当は東南アジア風味のエスニックな味わいが特徴で、他店の弁当屋では味わえない美味しさが評判でした。山奥にあるホテル街という最悪の立地条件にも関わらず、Ｋさんが作る弁当のファンになったトラックの運転手や地元のタクシードライバーが集まり、行列のできるお店になったのです！ このことがきっかけでＫさんは名実ともにカリスマ清掃員となりました。

とにかくタフで仕事ができるＫさんですが、家庭内に問題を抱えていました。長男と結婚した嫁との関係が上手くいかず、そのストレスで20kgも太ってしまったのです。あるとき、嫁と大喧嘩してブチ切れたＫさんは、自宅の玄関に大量のガソリンを撒いて家を燃やそうとしました。火を付ける前に旦那さんに見つかって事なきを得ましたが、本気で放火しようとしたそうです。

ある日、僕の携帯にホテルの同僚から電話がありました。「Ｋさんが〇〇新聞に載ってるから見て！」と叫ばれたので慌てて新聞を読むと・・・ ”Ｋ容疑者、嫁を包丁で刺して現行犯逮捕” という衝撃的な記事が目に飛び込んできました。幸いにも被害者は軽傷で、Ｋさん自身も2週間の拘留で刑務所から釈放されたそうです。

数週間後、Ｋさんは何事もなかったようにホテルに戻ってきました。Ｋさんはインフルエンザで療養していたことになっていましたが、一部の清掃員は事件の真相を知っていたので脅えていました。Ｋさんがバナナを切るときに包丁を持つたびに、僕はビビッてました・・・（汗）。紆余曲折の人生で苦労ばかりしているＫさんですが、どんなことがあっても熱心に働く姿は、今でもホテルのスタッフに愛されているそうです！

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