福島県いわき市大久町小久。福島第一原子力発電所から直線距離で30kmを少し越えるこの地域には、原発事故の直後からコメ作りの再生に取り組んできた人たちがいる。距離が近いにも関わらず空間線量は比較的低い。しかし農地にホットスポットがあるのは事実。原発事故の実害と風評被害にに戦っていくためには、作物の放射線量を低減するしかない。ほとんどの農家が消費者への直販を行ってきたという、美味しいコメ作りの先進地域の人々の、安心できる農業への挑戦をリポートする。佐藤さんたちの活動は、日本のものづくりの“ 強み ”に通底する取り組みだった。
コメ作りはものづくりの源泉。さまざまな条件でコメへの影響を検証
代かきした後の田んぼに、セシウム吸着能力に優れたゼオライトをまくことで、稲が放射性物質を吸収する量を減らすことができる。
その可能性が確認されたのは、“ 対照実験 ”の結果と比較検討することができたからだ。佐藤さんは、田んぼに水を入れてかき混ぜる代かきをした後にゼオライトを散布したが、代かきする前、田おこし(注*)の段階でゼオライトを散布していた人がいた。
「土地を守る会」会長、飯島助義さん。佐藤さんの先輩であり、同志的な存在でもある人物だ。
「ゼオライトがセシウムをどれくらい吸収するのかを知りたくて、オレの場合は土に混ぜ込んでみたわけだよ」
2011年、試験的に行ったコメ作りでできた玄米や精米、さらには稲藁や根、耕作後の土壌、水などさまざまなサンプルの放射線量を検査し、佐藤さんと飯島さんのデータを比較した結果、「代かき後のゼオライト散布が効果的らしい」と確認されるに至ったのだ。
「オレたち農家は、こうすればうまく行くかなという考えで、いろいろ工夫して作物を作ってる。でも、今回はひとりの工夫だけじゃなくて、いろんな人がたくさんのやり方を試してみて、その中からいい方法を探っていくことが大切だと思うんだ」(飯島さん)
飯島さんと佐藤さんの話を聞いていて思ったことがある。彼らのやり方は日本的なモノづくりの精神そのものだということだ。
まずは観察する。観察の上で仮説を立てて試してみる。多くの人が試した結果を集めてみんなで検討して次の仮説を立てる。その確認のためにさらに各自が試してみる。そんな仮説と試行のサイクルの中でモノづくりのレベルが高まっていく――。科学的なアプローチと、グループワークが一体となった“ 工夫 ”。
事故を起こした原発から約30kmの距離で、放射線量ND(検出不能)のコメ作りは、こんな人的環境の中で成果をあげている。
注*)田おこし:前年度の稲作を終えた後の田んぼの土は固くかたまっている。トラクターなどで掘り起こし、土に空気を含ませ、さらに肥料なども混ぜて田んぼの土を作る作業をいう。
放射能に負けない佐藤さんたちのコメ作りは、毎日連載でお届けしています。
●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)
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