放射能に負けないコメ作り 第6回

iRyota25

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東京電力福島第一原子力発電所から直線距離で30kmを少し越えるいわき市北東部。久之浜や大久、四倉といった歴史ある集落には、原発事故の直後からコメ作りの再生に取り組んできた人たちがいる。距離が近いにも関わらず、いわき市北東部の空間線量は比較的低い。しかし農地にホットスポットがあるのは事実。原発事故の実害と風評被害にに戦っていくためには、作物の放射線量を低減するしかない。ほとんどの農家が消費者への直販を行ってきたという、美味しいコメ作りの先進地域の人々の、安心できる農業への挑戦をリポートする。
≪今回の内容≫ 立ち上がった農家の人々と、積極支援を行う地元企業。そのコラボレーションで広がっていく、明日の農業への動きをリポート。

広がる「安心できるコメ作り」のグループ

今年実施した稲作に関連した測定データが出揃った11月2日、東北イノベーターの会議室に佐藤さん、飯島さんを含め9人のメンバーが集まった。この日のテーマはそれぞれの人たちが設定した条件で、玄米や精米の放射線量をどれだけ低減できるかの検証。放射能に負けないコメ作りの2012年の総まとめといえるミーティングだ。

東北イノベーターがまとめたデータを見ながら、どんな考えでどんな工夫を行った結果、どこまで放射線量を抑えることができたか、それぞれのケースについて討議が行われていく。中には、標準的な測定時間では放射線を検出することができず(注*)、「数値が出るまで」と測定を続けても「ND」(検出限界以下)だったという精米もあったという。

放射能が検出できないほど低ければ、それで「良し」ということになりそうなものだが、そこで議論が終わらないのがこのミーティングならではのところ。

ほかの農家の条件と同じところ、違うところを比較して、検出できないほどの線量に抑えることができた理由を探っていく。

「なぜ」が分からなければ、次につなげていくことができないからだ。

これは数値が高く出た条件についても同様だ。

現状を踏まえて今後の懸念材料として話題になったのが、山林に除染されずに残っている放射性物質の影響だった。原発事故で広大な山林に降ってきた放射性物質は、落ち葉など土壌の表面近くに残っている可能性がある。これまで落ち葉に付着して山林にとどまっていたものが、落ち葉が腐敗し形が崩れていくことで、小さく流れやすくなり、雨水とともに農業用水に入ってくる可能性がある。

現在、小久地区の用水の上流側の水を検査しても放射性物質はNDだが、それはあくまでも1kgのサンプルで計測した結果。田んぼには何十トンもの水が入れられるのだから、1kgあたりでNDであっても少しずつ放射性物質が蓄積される可能性がないとは言い切れない。その対策をどうするか、検査体制をどうするか、という議論もあった。

佐藤さんたちのグループでは、1㎏あたり10Bq(注**)以上のものは売らない。自分たちも食べない、と決めている。実際のコメ作りで成果をあげている。全袋検査を行ったうえで出荷も行っている。それでも「これでいいんだ」という結論にはならない。それは飯島さんの田んぼのようにまだ耕作ができないところもあるからだ。

久之浜の山手にあたる小久地区からスタートした活動は広がりを見せ、いまでは周辺の集落からの参加者も増えてきた。山を越えた中通で情報を共有している人もいる。みんな前に向かうことに真剣なのだ。

本当のことを言うなら、みんな内心は「3月10日に戻してくれ」と思っている。それが無理だから、進める人から少しずつでも進んでいこうとしている。

ミーティングでは、来年の稲作でどんな条件を試してみるか、というプランもたくさん飛び出した。課題を1つひとつつぶして、少しでも安心できるコメ作りに近づきたい。そんな姿勢が感じられるミーティングだった。

これからやってくる冬。この季節は次のシーズンに向けて入念な準備を行う期間だ。そのことは、大震災=福島原発事故を経験させられた農家でも違いはない。いかに日本中の安全とされる地域と同じ程度、さらにはそれ以下に放射線量を低減させたコメをいかに作るか。その前提の上に立って、美味いコメをどうやって作るか。

佐藤さんたちの挑戦は続く。

◆ 今回のミーティングに参加されたみなさん ◆(前列右から)白土武さん・吉田仁さん(後列右から)谷平浩さん・金成俊幸さん・佐藤三栄さん・谷平安一さん・飯島助義さん・大和田貴利子さん・新妻康晴さん(東北イノベーター)
◆ 今回のミーティングに参加されたみなさん ◆(前列右から)白土武さん・吉田仁さん(後列右から)谷平浩さん・金成俊幸さん・佐藤三栄さん・谷平安一さん・飯島助義さん・大和田貴利子さん・新妻康晴さん(東北イノベーター)

注*)ベクレルは一定時間内に放出された放射線量を平均値として示す単位だから、長い時間をかけて計測した方が正確さが増す。たまたま原子核の崩壊が少なかった時間帯で測定した場合、数値が低く出る可能性がないとはいえない。時間をかければかけるほど、数値の確度は高くなる。考え方としては電子体温計を想像するといいかもしれない。短い時間で検知される体温は一定の確率で算出された想定値。標準的な計測時間をかけてはじめて実測値が出る。このミーティングで示された数値は、さらに標準的な計測時間以上かけて測定しようという念には念を入れた測定のやりかたと言える。
(2013年6月12日、東北イノベーターの新妻康晴さんからご指摘をいただきました。教えていただいた内容をもとに、以下を改変します。)
計測時間を長くとることには、実は大きな意味がある。それは、計測時間を長くとるほど、検出限界(検出下限値)を下げることができるのだそうだ。
たとえば検査結果がND(不検出)でも検出限界が50Bq/Kgなら実際は40Bq/Kgあるかもしれない。検出限界が10Bq/KgでのND(不検出)なら、10Bq/Kg未満ということだから、より安心できる。
時間(つまり、手間)を掛けることは、検出限界値を下げること、安全な米づくりを目指すことにつながる。

 【ぽたるページ】放射能に負けないコメ作り「測定時間と安心の関係」
potaru.com

新妻さんからいただいたメールをもとに、測定時間と検出限界の相関について紹介します。

注**)国の暫定基準は1kgあたり100Bqだが、学校給食や大手スーパーの基準は10Bq未満。つまり市場での実質的な基準値といっていい。10Bqという数値自体かなり低いため、ほとんど検出限界と同レベルといわれている。

放射能に負けない佐藤さんたちのコメ作りは、毎日連載でお届けしました。
2013年も、あらたな挑戦が始まっています。

 放射能に負けないコメ作り
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●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)

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