いわき市小久でお米づくりを中心とした農業を営んできた飯島助義さんは、原発事故の年からまる2年が経過した今年、所有する田んぼのうち大きな面積の場所でのお米づくりの再開を決意しました。
同じく小久地区の農家で放射能に負けないコメ作りを行ってきた佐藤三栄さんたちのグループの一員として活動してきた飯島さんが、自分の田んぼでのお米づくりを見合わせてきたのは、田んぼのすぐ近くの山の上ににあるゴルフ場の線量が非常に高いことを知っていたからです。
実際に自分の田んぼの土をサンプルとして、セシウムの放射線量を測定したところ、ゴルフ場の山の近くでは、ほかに比較して高めの線量が出ていました。
「ゴルフ場の線量が高いのは、セシウムが風に乗って流れてきた時の気流の影響なのかな。はっきりした理由は分からないんだ。でも、旧双葉郡ということで行われてきた賠償が今年度分までになったから、今年は米をつくって、どんな状況か確かめなければと思っているんだ」
そんな矢先、寝耳に水の知らせが入ります。線量が高いとされてきたゴルフ場の芝がはぎとられ、コース上に積み上げられて野ざらしになっているというのです。
泥にまみれたティーやコース看板がゴルフ場であることを示しています。
はぎとられた芝の線量は国によって処理される基準を超えており、勝手に処分したり撤去することができないそうです。そのために、線量の高い芝が放置されているのだといいます。
当たり前のことですが、水は高いところから低いところに流れます。激しい雨に打たれれば、泥もいっしょに流れ下ります。ゴルフ場の周りには、水が流れた跡がたくさん見られました。
山から流れ出た水は、これまでは田んぼに入れられ米づくりに利用されてきました。
「でもこれからは、放射能を含んだ水が田んぼに入らないように注意しなければな。線量の推移を詳しく見ていくことも必要だ」
米づくりのシーズンが始まる直前の3月になって判明したゴルフ場の惨状。白米として食べるお米に残留する放射線量を、限りなくゼロに近づけていこうと活動してきた皆さんの行く手に、障壁が立ちはだかったかっこうです。
わざわざ公開しなければ、お米を買ってくれる人に知られることはなかったかもしれません。でも、それでは消費者を裏切ることになります。事実を公開したうえで、それでも放射線量を抑えるための手間や努力をかけてお米を育て、放射線量に関するデータを公開した上で提供する。
それが飯島さんたちの農業なのです。
ゴルフ場のまわりの竹林のそばでは、何本ものタケノコが頭を出していました。掘って持って帰りたいと思ったくらい、美味しそうなタケノコでした。実は飯島さんも無類のタケノコ好き。
「食ったらうまいんだろうけどなあ、さすがにちょっと食べられないよなあ」としきりに残念がっていました。その様子を見ていた佐藤三栄さんが一言。
「これまで当たり前だったものがダメになったから、つらいんだよ」
自分が安心して食べられるものしか提供しないという、飯島さんや佐藤さんたちの誠実な姿勢が胸に刺さった一瞬でした。
たくさんの花々がいっきに咲いた美しい春の福島で、
信じられないことが起こっています。
それでも負けずに、放射能ゼロを目指すお米づくりを進める人たちがいます。
●TEXT+PHOTO:井上良太(株式会社ジェーピーツーワン)
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