過疎の島の現実

tanoshimasan

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田代島の洗礼

(2012.10.29更新)

何もない島って?

 宮城県・田代島という島をご存知だろうか。近ごろ、メディアへの露出が少しずつ増え、東北観光の”穴場”としてにわかに注目されている島だ。石巻市から40分ほどで行くことができ、「猫の島」として知られる。どこもかしこも猫だらけだそうで、逆に犬は原則持ち込み禁止という面白いルールもある。先日、ひょんなことからその田代島へと行く機会に恵まれた。 なんとなくだが、田代島は少し観光地化されているイメージがあった。島では島内の猫たちにあやかって、『田代島 にゃんこ ・ザ・プロジェクト』という島おこしプロジェクトも行っている様子。『にゃんこ・ザ・プロジェクト』のホームページにはスタイリッシュな印象を受けていたし、色々な媒体で何度か紹介されたとも聞く。調べていると、中には「島には何も無くて不便だから注意!」と促す個人ブログのレポートも見つけたが、至れり尽くせりのパッケージツアーやホテルに慣れた人が、そういう風に書いているのだと思っていた。

 それこそ、僕が訪れた40数の島々は、どの島民も口を揃えて「この島は何もないから。」と言う。しかし、そこに自虐的な要素は感じられず、むしろ不便を楽しんでいるかのようである。それに、不便とは言え、それなりになんとかなるもので、携帯電話の電波も入るし、スーパーのひとつくらいはある。宅配便などには「離島料金」が加算されたりするが、島に滞在すればお金を使う機会が減るので実はそれほど痛くない。そんな印象があったのだ。

田代島へ

 ところが、田代島へ降り立ってみてその考えは一変。驚いた。たしかに何もない。そして何かと「手が行き届いていない」とも感じた。 まず、「震災の被害は少ないよ」なんて聞いていたが、揺れのダメージを受けてヒビだらけの家々がいくつかある。そういった民家は、被災地ではすぐ取り壊されていた印象だったが、この島ではそれもままなっていない。さらに、集落に入っていくと共に弱々しくなる携帯電話の電波。これは僕の携帯のSB社に限った話だが。・・・やはり犬はこの島に縁が無いのだろうか(笑)。そして、何より人を見かけない。かわいらしい『にゃんこ・ザ・プロジェクト』のホームページから察するに、若い世代もそれなりに暮らしている島だと勝手に思っていたのだ。ただ、猫はいる。唯一、港にいた漁師さんにとことこと近づく猫が数匹。魚でもねだっているのだろうか。

 まずは、宿泊先の民宿へ。島の民宿やホテルは、港と宿の間で送迎などのサービスがあったりするが、その気配も無い。島には港付近に島内マップがあったりするが、それも見当たらない。「いやいや、こんな時便利な現代人の味方!!スマートフォン!!!」・・・は、電波が圏外~1、2本あたりをウロウロしていて使えたもんじゃない。道を聞こうにも人がいない。幸い僕はさっきの漁師さんに場所を聞けたのだが、うかつに訪れた僕にはなかなかの洗礼だった。全国色々な島々を巡ったが、このような島とであったのは初めてかも知れない。 いかがだろうか。僕は正直、「猫の島」というなんだか暖かいイメージでこの島に興味を持った。気軽に行ってみると、想像以上に「何もない」島だったのだ。島おこしプロジェクトのイメージからも活気のある島を想像したが、それともちょっと違った。では、がっかりしたかと言えば、そんなことは断じてない。そう、素敵な魅力あふれる島であることにも間違いないのだ。

 ただ、想像以上に課題の多い島だっただけで。このあたりは別記事で触れたいと思う。

田代島記事(いくつか公開予定です)

【旅レポ】田代島、猫のいる風景【旅レポ】田代島、民宿・海浜館に泊まる。その1

 【旅レポ】田代島、民宿・海浜館に泊まる。その2
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桂島、寒風沢島の集団移転計画

(2012.10.30更新)

それでも”穴場”の田代島

 そんな田代島だったが、集落内に入っていけば、とにかく見かけたたくさんの猫たち。その日は快晴で、猫たちは暖かい秋晴れのなか、香箱を組んだり、仰向けになったり。僕がぼーっと立ってるだけで、みゃーみゃーと寄ってくる。その数、多いときは10匹を軽く超えた。これがなんともたまらない。猫が嫌いでなければ、本当に何時間でも過ごせそうである。 改めて、田代島は観光としては便利の行き届いた島とは言えない。島の民家のほとんどは空き家で、島民の平均年齢は70歳を超えると言う超高齢の島。僕が泊まった民宿も、島唯一の商店も、80代のおばあさんがひとりで切り盛りしていたほどだ。80代でも元気に働くこと、それ自体は良いことだと感じたが、しかし、このままで良いはずもない。課題は山積みだ。

 それでも田代島がメディアに注目され、密やかに注目される”穴場”となったその理由を実感した。遊ぶだけが観光ではない。ここは何もしなくて良い島、それが許される島だ。こうしたきっかけから、観光客が増え、島の活性化に繋がればどれほど良いことか。滞在中はずっとそんなことを考えていた。 

桂島、寒風沢島の集団移転計画

 僕が田代島を訪れて1週間も経っていない10月26日、同じ宮城県の島々についてこんなニュースが報じられた。

『塩釜・浦戸2島の集団移転決定 人口激減 生活に不安も』
東日本大震災で被災した宮城県塩釜市浦戸諸島の桂島、寒風沢島の集団移転計画が25日、国の同意を得た。移転を計画する2島計69戸のうち、島内にとどまるのは計31戸で、計38戸が島を出る。人口が一気に減り、島で生活を続けることを危ぶむ声も上がる。藩制時代、舟運で栄えた浦戸諸島は大きな曲がり角に差し掛かっている。
(引用:2012年10月26日付 河北新報)

 決して注目されるニュースではないだろう。しかし、なんとも衝撃的なニュースだ。ある時期を境に、桂島、寒風沢島から半分以上の島民がいなくなるのだ。会社や学校ではにわかに想像しがたい事態である。 昨今の東日本大震災により、「島で暮らすことの不便さ」が露呈した格好である。便利の行き届いた本土での生活を求めるのは必然と言えるだろう。「島に残りたい!」と意思を示している島民もいるのだが、人口がごっそり減るなか、どれほどの暮らしができるのだろうか。

塩釜市の佐藤達也復興推進課長は「集団移転の推進とともに、跡地で浦戸諸島の歴史を学べるようにするなど、市内外の人が訪れる仕組みをつくる必要がある」と話す。
(同)

とあるように、人口の減った島でのビジョンも述べられてはいるが、どうにもとってつけた印象が否めない。先の田代島と比較しても、桂島、寒風沢島には猫のような観光資源があるわけでもなく、観光地化もされていないと言っていいだろう。放っておけば、無人島と化してしまうのは目に見えているが、長年親しんだ島暮らしにこだわり、計画後も島へ残りたいと訴える島民も存在している。この気持ちは無視できないはずだ。 果たして有人島として存続すべきか否か。この2島はその岐路に立たされている。引き続き注目していきたい。

島が有人島として存続することの意義

(2012.10.31更新)

 ただ、ここまでくるとひとつ疑問も浮かぶ。そもそも島の役割とはなんだろうか。島が有人島として存続することの意義はあるのか。人々が離れていく島の現状を憂う気持ちはわかる。しかし、それもまた自然な姿ではないだろうか。 「島が有人島として存続することの意義」について考えてみたい。

 島が有人島として存続することの意義(続く)

 日刊楽島コラム
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