神津島の夜は早い。何せ、最終バスは夕方16時台、レンタバイクの貸し出しも17時まで。お天道様が沈めば、移動も容易ではないのだ。
しかも、その日僕は集落から離れた都立多幸湾公園キャンプ場に泊まる予定だった。キャンプと言いながら、テントを張って寝るだけで、晩ごはんは簡単に済ませたい。そうすると、インスタント食品が活躍したりするのだが、どうせなら、手づくりのモノを食べたいもの。そうなると、もう意外と貴重なんですよね、パン屋さんが。
神津島唯一のパン屋さん
神津島の集落にある藤屋ベーカリーは、島内唯一のパン屋さん。全体的に穏やかな島ゆえか、わりと控えめな外装。しかしながら、わずかに鼻腔ををくすぐるその微香は、まごうことなきパンのかほり!食欲がそそられます。
店内は生活雑貨やお菓子も売られており、昔から島の生活を広く支えてきたのだろうことが伝わってくる。パンのコーナーを見ると、チョコチップ、あんドーナツ、メロンパン、デニッシュ・・・。店内に並ぶパンは特に目新しいものはなく、ラインナップはいたってオーソドックス。けれども、島で1日過ごしていると、そんな素朴な味が嬉しかったりするから不思議なもんだ。
店内は静かで、奥さんがカウンターにちょこんと座って何か作業をしていた。僕はメロンパンとデニッシュを手に取ってカウンターへ。ふと僕が、
「いつからお店をされてるんですか?」
と質問すると、
「嫁に来てからだから・・・もう30年ですかね・・・。」
「嫁に来てからだから・・・もう30年ですかね・・・。」
との返事。
今でこそインフラ面が充実し、スーパーや商店に行けば、当たり前のように大手メーカーの菓子パンが並んでいる伊豆諸島の島々。しかし、船が便利になる以前は、菓子パンなど気軽に食べられる代物じゃなかったそうだ。それだけ話してくれると、店内はまた静かに。神津島全体から感じるのんびりした雰囲気と同様、奥さんもまた控えめな印象だった。
藤屋ベーカリーは30年以上、島のパン需要に応え続けている。
翌朝、5時に目覚めた僕は、神津島最高峰である天上山登山に出発した。5月らしいさわやかな気候ながら、やはり起伏ある山を登り続けていると、じんわり汗ばんでくる。寄り道をしながらゆっくり歩き、10時ごろ、山頂を目前にして休憩をとった。
木陰で昨日買ったデニッシュをかじり、ペットボトルのストレートティーを流し込む。デニッシュにまぶさった砂糖の素朴な甘味がたまらない。
藤屋ベーカリー
住所:東京都神津島村700番地、電話番号:04992-8-0925、営業時間:AM7:30~PM9:00、休み:隔週日曜日
まだまだ「島記事」あります。
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