【シリーズ・この人に聞く!第151回】映画「子どもが教えてくれたこと」監督 アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアンさん

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(C)Seiko.Kusu
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病気をもつ5人の子どもたちが持つ力を見事に映し出したドキュメンタリー映画はフランスで23万人を動員する大ヒットを記録。ご自身の娘二人を病気で亡くした経験をもつフランスの女性ジャーナリスト、アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアンさんにこの作品について語ってもらいました。

アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン

ジャーナリスト。自分の娘を病気で亡くした経験を持つ。病気が見つかってからの日々を綴った『濡れた砂の上の小さな足跡』(講談社)はフランスで35万部の大ベストセラーとなり、世界20カ国で翻訳本が出版された。

 映画『子どもが教えてくれたこと』公式サイト
kodomo-oshiete.com  

ありのままの日常を愛すること。

――監督のお嬢さん(タイスちゃん)が病気だとわかった時、2歳のお誕生日でしたね。どのくらい病気のことを理解していましたか?

(C)Seiko.Kusu

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物理学、生物学的にはわかっていませんでしたが、完璧に理解していました。もちろん私も臓器内で何が起こっているかなどは説明しませんでしたが、どういうふうに病気が進行するのかについては完璧にわかっていました。告知してからしばらくして5歳の長男ガスパールが「じゃ、タイスの誕生日会をしよう」と言いました。彼にとっては毎年やっていた楽しい行事。子どもは切り替えがちゃんとでき、何か悲しいことが起こってもグズグズ泣いていない。同情し続けないものなのです。

――引きずらない強さ。切り替えの早さは子どもの持ち味ですが、大人はなかなかそういうわけにはいかなかったのでは?

大人は自分に降りかかった運命を「どうして?」と呪ったり、動揺して平常心でいられなくなりますが、子どもはありのままを受けとめます。今、この瞬間を生きている。自分の手で人生を開き、とことん生きようとしています。他人を思いやる気持ちもちゃんと持っている。イマド君がお父さんを気遣って、疲れていないかを心配するシーンがそうです。誰も未来を恐れていないし、自然体なのが子どもの素晴らしい点です。

――主人公の5人、子ども達が小さな哲学者のようで、発する言葉が心に沁みました。彼らはオーディションをして選んだのですか?

オーディションではありません。リサーチに十分時間を長く掛けました。病気の子どもたちを支援する団体に掛け合うなどして、出会ったのは5人だけです。私が望んだのは、十分に準備をして「この子はこういう子だ」というのを頭に入れてからしか会いませんでした。病気を抱え脆弱な状況で生きている子どもたちのキャスティングはとてもデリケートでした。選んでから、「やっぱりあなたじゃない」…とは言えませんから。

――納得しました!だからこそ5人の素晴らしい子ども達が登場しているのですね。カメラワークもすべて子どもの目線で撮影されているように感じます。

(C)Seiko.Kusu

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カメラは一台だけを回しました。それはとても意味があることでした。つまり、罠をかけるようなアングルがないのです。ひとつのカメラで彼らのそのままの姿を映す。子どもたちが不意打ちを食らわないように、どこにどういう感じでカメラがあるか常にわかるようにして撮影しました。

子どもの真実をシンプルに伝えた作品。

――編集作業で注意された点はどんなことでしょう?

(C)Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

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私は子ども達一人ひとりと会って、その時間の中で様々なことが起こりました。そういうことをあまり技巧的にせず、私が出会ったことをそのまま観客にも追体験をしてもらえたらと思い、映像で再現しました。もう一つは、やはりリズムです。子どもは泣いていたと思ったら、次の瞬間は笑ったり、感情の起伏が激しい。それを自然なリズムとして伝えられるように編集しました。

――監督が感じられている自然さは心に沁みます。フランスの子ども達は自分自身の病気や体調を分析把握しているのがスゴイと思いました。

(C)Seiko.Kusu

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私は日本の子ども達の専門家ではありませんし、甲乙つけるわけではなく、子ども自身を治療に巻き込むことをフランスでは行っています。自分たちの病気をよくわかっているだけでなく、診察にも立ち会って自分の意見をちゃんと伝えていますよね。薬の知識や、血圧が低いとか、自分自身のことをきちんと把握しています。ですから「このお薬嫌だ、うんざり」と要望も伝えます。日本では「良薬、口に苦し」と言うそうですが(笑)。先日、国立成育医療研究センターを訪問しました。日本の医療もかなり進んでいると思います。フランスと日本お互い補足しあうことができるのでは?と感じました。

――映画に登場する子どもの家庭、とても裕福なお宅なのでは?と感じました。貧しい家庭の子の育ちについてはどのようにお考えですか?

全然裕福ではありません。例えば腎臓が機能していないイマド君は、アルジェリアからフランスへ越してきています。社会福祉が充実しているフランスは貧しくても金持でも医療費はゼロです。子どもだけでなく大人もそうです。もちろん税金を払っている国民であることが必要なのですが、仕事をしていれば天引きされて積み立てされていますからね。他の国の人にはうらやましがられます。外国からフランスに来て医療を受けたいと希望しても、残念ながら100%自費になりますけれど。

――そうした背景も関係しているのかもしれませんが、フランスは子どもを出産することに前向きだと思います。日本の良い点、改善すべき点を教えてください。

(C)Seiko.Kusu

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メンタリティというより、政策の違いでしょうね。マタニティに関してはフランスは国が手厚い援助をしています。日本の方はタブーをたくさん持っているように感じます。欠点は表裏一体で長所でもあります。どちらかというと中庸的なことも理解しているということですから。自分が感じていることを誰かとシェアするのは素晴らしいと私は思います。日本人はコントロールして自分を律してしまう。それは規律正しさにもつながっていますし、フランス人には欠けている点です。私はこの作品で、真実をシンプルに描いています。それを観て皆さんいろいろな受けとめ方をされていて、それぞれの感じ方に私のほうが感動しています。これがもっと続くといいなと思っています。

編集後記

――ありがとうございました!子どもたちの表情、ユーモア混じる哲学的な言葉の数々にドラマでは得られない衝撃と感動を味わいました。監督自身の心がそのまま映し出されているような透明感溢れた美しい映像。まるで自分自身の目で見つめている錯覚すら覚えるカメラアングル。涙だけでなく、明日への活力が湧いてくる作品に出会えたこと感謝です。7月14日(土)シネスイッチ銀座から全国順次ロードショー。ぜひ足を運んでご覧ください!

2018年6月取材・文/マザール あべみちこ

生きるとは、人生を愛するということ。

(C)Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels
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 映画『子どもが教えてくれたこと』公式サイト
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この作品は、お二人の娘さんを病気で亡くされた監督自身の経験が大きく影響しています。「病気の子どもを持つ家族は、子どもたちの生き方に勇気づけられ、支えられているということを作品で描きたい」と言われていた監督の想い。そして、大人からの視線ではなく、あくまでも子どもたちの目線に立って撮ることにこだわったカメラワーク。個性豊かな5人の姿を追った構成。主人公の5人の子どもたちは一人ひとり性格も違うし、育っている環境、病状も異なります。小さな彼らが発する心に沁みる言葉と表情から「今、この瞬間」を感じてください。

(C)Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels
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フランスで23万人が観た感動作!

 『子どもが教えてくれたこと』
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■監督・脚本: アンヌ=ドフィーヌ・ジュリアン
■出演: アンブル、カミーユ、イマド、シャルル、テュデュアル
2016年/フランス/フランス語/カラー/80分/ヴィスタサイズ/DCP
日本語字幕:横井和子/字幕監修:内藤俊夫
原題: 「Et Les Mistrals Gagnants」
後援: 在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
配給: ドマ
厚生労働省社会保障審議会特別推薦児童福祉文化財
文部科学省特別選定(青年、成人、家庭向き)文部科学省選定(少年向き)
東京都推奨映画
7月14日(土)より、シネスイッチ銀座 ほか全国順次公開
©Incognita Films-TF1 Droits Audiovisuels

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このページは株式会社ジェーピーツーワンが運営する「子供の習い事.net 『シリーズこの人に聞く!第151回』」から転載しています。

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