陸前高田、大船渡、住田の気仙三市町を中心に活動するミュージシャン「斉藤選手」に偶然会った。斉藤選手はスピッツが慰問ライブに来た時に前座としてステージに上がり、メインを半分くらい喰っちゃったんじゃないかとまで言わしめたミュージシャン。陸前高田愛を歌わせたら右に出る人はいない。
そんな斉藤選手(その時はちょっとばかりほろ酔い状態)の話にほろりと来てしまった。
斉藤選手の話というのは、先週の日曜日の花見の時のこと。花見の場所は陸前高田の本丸公園。町を見下ろす高台で、震災前の高田の町並みの記憶、津波に呑まれていく町を眺めた辛い思い、そして少しずつ町が再建されていく様子を見つめてきた場所。高田の人たちの様々な思いが凝縮されているところ。いまは新しい中心市街地アバッセが眼下に広がる。アバッセからも本丸公園の東屋はよく見える。
そんな場所での花見の余興で、どれだけ大きな声が出せるか競い合ったんだそうだ。なぜかその場にサウンドメーター(騒音計)まであったので、1人ずつ声のでかさを計ってみたところ、1人を除いて参加者のほぼ全員が3桁を叩き出した。トップはもちろん斉藤選手。その音量は騒音レベルをはるかに超え、ジェット機の離陸音に迫る驚異的な数値だったという。
「これだけの声が出るんだから、本丸公園の上でライブをやればアバッセのお客さんたちも気づいてくれるんじゃないかな」
「いやいや、そんなこと言わずに、アバッセでライブよりましょうよ」
「ゲリラライブみたいにできたら、いいね」
なんて他愛の無いおしゃべりのやり取りの中、ひょんな拍子に本丸で叫んだ言葉が何だったのかを聞いてしまったのだ。グッと来て、ほろりとした。
サウンドメーターに向かってみんなが叫んだ言葉とは、
「アバッセにあばっせ!」
かさ上げ工事でまるで砂漠のように見える高田の町の一角に現れた、新しい中心市街地アバッセたかた。その合い言葉こそ「アバッセにあばっせ」。「あばっせ」とは「一緒に行こうよ」という意味。
震災前に市街地があった場所とは言え震災後に造られている住宅地からは離れているので、本当にお客さんが来てくれるのかと心配する声がちらほら聞かれるアバッセたかた。だからこそ、「アバッセにあばっせ!」
アバッセのオープン直前、本丸公園からアバッセに向かって斉藤選手たちが叫んだ「アバッセにあばっせ!」には、いろんなことはあるけれど、何はともあれ、アバッセがうまく行ってほしいという思いが込められている。町の復興の目に見える第一歩を、何とか後押ししたいという切実な叫びだったに違いない。
アバッセにあばっせ!
斉藤選手のゲリラライブ、なんとか成功させたい。斉藤選手はもちろんだけど、いろいろな人がそれぞれの得意技を持ち寄って、アバッセにたくさんの人が集まって、そこに行けば誰かに出会える場所になってほしい。そんな思いを込めて、
アバッセにあばっせ!
あとは実行あるのみだ。
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