自然災害により自宅が全壊または流失した場合に住宅ローンだけが残り、新たに自宅を再建するには二重のローンを負担しなければなりません(二重ローン問題)。被災者からすれば、あまりにも負担が大きいこの問題。
何か救いはないものか調べてみたところ、『被災ローン減免制度』(自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン)というものがあることが分かりました。今回はこの制度のことをはじめて聞いた、または聞いたことはあるけど内容は知らない方を対象に、なるべく簡単に要点だけをまとめてみようと思います。
被災ローン減免制度とは
自宅を失った被災者に残された住宅ローン等を免除・減額できる制度で、2016年4月から新しい制度として運用が始まったばかりのものです。東日本大震災の被災者を対象に2011年8月に作られた「個人版私的整理ガイドライン」を東日本大震災以外の自然災害にも適用できるようにまとめられた制度です。
※勤務先が被災し、収入が減ったことにより住宅ローン等が返済できなくなったというような人も対象となるようです。
対象となるローン
対象となるローンは住宅ローンだけではありません。被災者の生活再建の壁となる下記のローンが対象となります。
1. 住宅ローン
2. リフォームローン
3. 自動車ローン
4. 事業性ローン(個人事業主のみ)
適用条件
この制度を利用できるのは住宅ローン等を返済できなくなったか、いずれ返済できなくなる見通しになった人です。金融機関が家族構成・世帯主の年齢・ローン残高などを勘案して総合的に判断するそうですが、判断の目安は下記となるようです。
1. 災害後の世帯年収が730万円未満
2. ローン返済額と新たに借りる家賃等の負担が年収の40%を超える
3. 災害前にローン返済をきちんと行っていたこと(原則、期限の利益を喪失していないこと)
4. 浪費していないこと
---------------------------------------------------------------------------(例)
(1)世帯年収 : 500万円
(2)ローン返済: 10万円/月
(3)新たな家賃: 7万円/月
((2) + (3)) × 12ヶ月 = 204万円(月のローン、家賃負担額)
204万円 / (1) = 40.8%(年収に対する負担割合)
条件1.2.を満たすため制度が利用できる可能性があります。
メリット
自己破産と比べて被災ローン減免制度には下記の大きなメリットがあります。
1. 生活再建に必要な一定の財産(※1)を残せる
2. 自己破産と異なり金融機関のブラックリストに載らない(※2)
3. 原則、保証人に対して債務の請求がされない
4. 国の補助により無料で弁護士などの支援を受けることができる
(※1)一定の財産
・最大500万円の現預金
・最大250万円の家財地震保険金
・被災者生活再建支援金
・災害弔慰金
・災害障害見舞金
・義援金
(※2)金融機関のブラックリストに載らない
・新たなローンを組むことができる
・クレジットカードを作成することができる
---------------------------------------------------------------------------(例)
ローン残高:3500万円
土地売却 : 800万円
預金 : 500万円
地震保険 :1000万円(建物)
地震保険 : 250万円(家財)
公的支援金: 300万円
■制度を利用した場合
・土地売却金800万円と建物の地震保険1000万円でローン3500万円の一部を支払います。
・ローンが1700万円残りますが、制度により支払が免除されます。
・残せる財産は預金500万円と家財の地震保険250万円と公的支援金300万円の合計1050万円となります。
・新たなローンを組めるため自宅を建て直すことができます。生活再建可能な資金も手元に残すことができました。
■制度を知らない場合
・土地売却金800万円と預金500万円と建物の地震保険1000万円と家財の地震保険250万円と公的支援金300万円でローン3500万円の一部を支払います。
・650万円のローンが残り、生活資金も0円となり、自己破産に追い込まれます。
・新たなローンが組めず、クレジットカードも作れず生活再建が困難となります。
手続内容
被災者は弁護士の支援のもと、下記の手続きを行います。
1. メインバンクに申し込み
2. メインバンクが要件をチェックし手続きに同意(申し込みから10営業日以内)
3. 弁護士会に支援弁護士の選任依頼
4. 債権者に債務整理の申出・財産目録の提出(3. から3ヶ月以内)(※1)
5. 債権者に調停条項案を提出・説明(1. から3ヶ月以内)
6. 債権者が同意するか回答
7. 簡易裁判所に特定調停の申し立て
8. 調停条項の確定
9. 調停条項に従って債務を債権者に支払う
(※1)債務整理の申出の時点でローン返済がストップになります。
利用にあたっての注意点
当制度を知らないだけで、本来ローンが減免されて救われるべき人が救われない事態が発生してしまいます。自宅が自然災害により被災し住宅ローン等が残った場合、金融機関よりも先に弁護士会などに制度が利用できるか相談してみましょう。
こちらの制度は、新たに住宅ローン・補修のためのリフォームローンなどを借り入れてしまった場合には原則利用できなくなってしまうようなので注意が必要です。
東日本大震災の時にはあえてローンを減免できることを周知しない金融機関もあったそうです。ローン減免によって負担を被る金融機関側は制度の利用に消極的な場合があります。申し出を断られたり制度を利用できないと言われた場合も、弁護士会や支援弁護士に相談しましょう。
震災から約3年が経過した2015年2月付の被災3県の仮設入居者への調査では、制度を認知している人はたった2割だったそうです。被災者が制度を知らず公的な支援金をローンの繰上返済に充てて残りのローンを払い続けている人や、家を建て直したり補修するために、無理に新たなローンを組んだ人も多くいたそうです。
おそらく今でも制度を知らない人がたくさんいるかと思います。被災者が生活を再建するために被災ローンの減免制度があることを、できるだけ多くの人に知らせて欲しいと思います。
最終更新: