クーポン提供で被災地支援「社会が子供たちを支え、それを実感できる仕組みを」

tanoshimasan

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「“愛情をかければ子供は育つ”という考えの人もいると思いますが、僕はそうは思いません」

100人近い聴衆を前にこう言ったのは、東日本大震災で被災した家庭に支援活動を行う一般社団法人チャンス・フォー・チルドレンの代表理事・今井悠介さん(26)。

今井悠介さん

今井悠介さん

同団体は、国内の子供たちに対して塾や習い事に利用できる教育クーポン(バウチャー)を提供する活動を行っており、東日本においては被災した子供たちへの活動が中心だ。被災地の子供たちはこれを利用し、自分の通いたい塾、音楽教室、スポーツクラブなど、学校の外での学びの場に参加できる。


冒頭から言葉に力のこもる、今井さんの語り口が印象的だった。

---------------------------------------------------------------------------------------2013年6月29日、東京・日本財団ビルにおいて一般社団法人チャンス・フォー・チルドレンの設立2周年記念フォーラムが行われました。同法人の代表理事を務める今井悠介さんの言葉をお伝えします。
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中学生、高校生らは、家庭の経済状況に凄くセンシティブなんです

僕自身、東北に関わっていくことでとても感じているのは、特に中学生、高校生らは、家庭の経済状況に凄くセンシティブということなんです。家庭のお金についてとても敏感と言いますか。彼らは大学に行きたいとか、叶えたい夢があるのに、それを親には言えないんです。そして諦めてしまう様子を見てきました。

一方で、保護者はどうなのか。保護者もよく気付いているんです。「この子はこんなことがしたい」とか、よく知っているんだけど、経済状況が芳しくないために叶えてあげられず、悔しい思いをしている。そんな家庭が本当に多いんです。

チャンス・フォー・チルドレンの事務局にもそういった相談はたくさん来ていますね。電話、メール、手紙など様々ですが。震災から2年が経過していますが、今でもそういった方々からの連絡が絶えないんです。

「愛情をかければ子供は育つよ」なんて気楽な意見を仰る人もいるのですが、本当にそうなんでしょうか。僕が現場を見ていると、全くそうは思えないんです。

お父さん、お母さんたちは、子供のやりたいことを知っているのに、現実問題としてお金がないから叶えてあげられない。子供たちも親の愛情を感じているのに、経済状況が苦しいことも分かっているから親に頼れないんです。

そういう現状…、つまり「子供たちの貧困問題」ですね。これを解決するためにも、子供と子供の教育費のあり方を考えることが大事なんじゃないかなと思うんです。

所得が低いほど低学歴の傾向がある

例えば、日本という国がどれくらい子供の教育費を出しているのかご存知でしょうか。対GDPで言うと3.6%。国際比較をしてみるとわかりやすいのですが、実はこれは、世界的にも最低ランクなんです。例えば1番のデンマークと比べると半分以下の状況なんですね。

これは裏を返せば、『日本は各家庭が自分で学費を負担する、いわゆる私費負担が多い国』ということ。どう思いますか。

僕は単純に『もっと教育費を出してくれる国があるんだ!』と思いました。日本なら、教育費は親が負担してくれているという認識がありますもんね。

日本も、例えば高校授業料の無償化のように、徐々に制度を充実させてくれている感じはするのですが、奨学金はいずれ返済をしなくてはならない貸付がほとんどですし、すべて公立に通っても高校卒業までに1人当たり500万円ぐらいかかると言われています。公立で、ですよ。

それに加えて、ほとんどの子供たちが学校以外の場で教育サービスを受けているんです。例えば塾とか、ピアノ教室、そろばん教室、スポーツクラブなどでしょうか。これが全体で8割ですね。

が、逆に言えば2割は学校外教育サービスを受けていないということ。アンケートによれば、貧困層に分類される家庭ほど「経済的な余裕がないから」という理由が大きいことがわっています(下図・左)。もちろん、「必要がない」という方もいらっしゃいますが。

やはり、経済的な事情によって学校外教育を受ける機会が阻害されがちなのかな、と。

当然なんですけども、学校外教育支出と学力には明らかな相関関係にあるんです。例えば、これはあくまで参考程度の資料なんですが、テストの成績。点数だけで言えば、塾などの学校外教育への支出額が高い家庭ほど、テストの点数が良いというデータが出ています。あくまでデータですが、点数として倍以上の差が付くんです。(下図・右)

日本では自分で学費を負担しなければ額が多いんです。そして、結果的に教育格差が生じているんです。ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、低学歴、低学力な人ほど不安定な就労に陥りやすく、さらなる貧困を招きかねないんです。

引用:『親と子の生活意識に関する調査』(内閣府)
引用:『親と子の生活意識に関する調査』(内閣府)
引用:『学校外教育費支出と学力』(学研教育総合研究所)
引用:『学校外教育費支出と学力』(学研教育総合研究所)

www.gakken.co.jp

大切なのは教育投資と機会の提供

こんな日本の現状ですけど、「日本の子供は可哀想だ」と思いますか。別に「日本の子供は可哀想だ」と思ってほしいわけじゃないんです。何が言いたいかって言うと、日本の子供たちがヤバイというのは、僕たちの将来がヤバイということなんです。

今、少子高齢化が進んでいますよね。10年ごとに人口がどう推移していくかという推計が出ています。

2010年時点では、生産年齢人口(15歳から64歳までの若い世代)2.77人で1人の高齢者を支えているというデータがあります。ただこれが、2050年、若者で働ける層はさらに減り、1.33人で1人の高齢者を支えなくてはならなくなるそうです。この1.33人は、私たちであり今の子供たちなんです。

よくね、「子供たちがこれからの社会を担う」なんて、安易に言ってしまいますけど。でも、本当にその通りだなと思うんです。これは子供たちに安易な優しい言葉を掛けたいのではなくて。子供たちを支えるっていうことは、地域を支えることであり、ひいては国を支えること。それと同義ではないでしょうか。

そして、この現状と未来を変えるためには、教育への支出を増やすしかないとも思うんですね。だから、子供たちのために教育支出をすることは、自分たちの将来に返ってくる。教育支出であり、教育“投資”。そして学ぶ機会を提供すること。これが必要だと思うんです。

僕は出身が神戸でして、小学生の時に阪神大震災を経験しています。家自体は特に何も無かったのですが、転校生が数十人来たり、友達の家に親戚のおじさんがずっといたり。そのほかだと、近所の遊び場や公園がみんな仮設住宅になってしまった。

だから、東日本大震災ではショックも大きかったのですが、一方で、支援活動に動き出した人を見て感激もしたんです。阪神大震災でも、いかに自分が、いかに自分たちの地域が、色んな人に支えられていたのかと、改めて感じたんです。そのことを忘れていた自分が恥ずかしくなるくらいに。

この法人の立ち上げに関わったのも、そういった経緯があったからなんです。

そういう意味では答えは明確なのかなと思っています。社会が子供たちを支えて、子供たちがそれを実感できる仕組みを作る。それが重要になってくる気がします。

---------------------------------------------------------------------------------------■今井悠介(いまい ゆうすけ) 1986年8月10日生まれ

兵庫県神戸市出身。自身も阪神大震災での被災経験を持つ。
関西学院大学社会学部を卒業後、2009年より大手学習塾経営会社に入社し、教室コンサルタント業務を務めた。2年間勤務するも、東日本大震災が契機となり、一般社団法人チャンス・フォー・チルドレンの設立を決意し退社。2011年6月、経済的な理由によって塾や習い事など、学校外教育を受けることができない子ども達にその機会を保障することを目的とした同法人を設立し、代表理事を務める。
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 Chance for Children(チャンス フォー チルドレン) 学校外教育バウチャー ・ 被災児童支援
www.cfc.or.jp  

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編集後記

今回紹介させて頂いた今井悠介さんは、僕の大学時代のゼミの同級生。今井さんと呼ぶよりも、当時からのあだ名で「すけちゃん」と呼ぶ方がしっくりくる間柄だ(と、思っている)。

独身の僕は、あまり教育費について考えたことが無かったのが正直なところ。当たり前のように習い事に通わせてもらい、当たり前のように大学を出た。子供のころは、頭でこそ「感謝をしなきゃ」と思っていたが、具体的な重みなんて想像したこともない。社会人となって奨学金を返済するようになり、その重みを痛感しているレベルである。

それが、被災地であれば尚更のことだろうと想像もつく。教育クーポンの提供を受ける子供たちの中には、両親を亡くした子だっているだろう。被災地と言うと、ガレキの姿などの物質的な崩壊ばかり目立つ印象があるが、被害の向こう側で起きていることにも目を向けなくてはいけない。そう改めて感じた。

このフォーラムにおいて、手渡された資料の中に、新聞記事にて紹介されるすけちゃんの姿もあった。被災地の子供たちに25万円分のバウチャーを手渡し、記事のなかで被災地の子供たちが抱負を語っている。

「大学で医療を学び、被災した人たちの力になりたい」

「原発の記事に共感。新聞記者になるために大学進学を目指す」

「文章で人々を勇気づける小説家になりたい」


かつて、同じように学生生活を過ごしたすけちゃんから、こんなふうに考えさせられるなんて思いもよらなかった。しかしその一方で、今の彼の姿から並々ならぬ熱意を感じたのも事実。「旧友だから」というのもあるが、一個人として応援せずにはいられない。

●取材協力:一般社団法人チャンス・フォー・チルドレン
● T E X T :奥野真人(株式会社ジェーピーツーワン)

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