大船渡や陸前高田の桜はほとんど散ってしまったが、20kmほど内陸の住田ではまだ満開の桜を楽しめる。さらに内陸の遠野では満開はまだこれから。東北は少し移動するだけで何度も桜を愛でることができる。
住田町の仮設住宅の通路でMさんにばったり出会った。閉校になった小学校のグラウンドに建てられたその仮設団地には、立派な桜の木が何本もあって、まさに満開。見上げると山にも見事な桜。
「桜、満開ですね」と声をかける。陸前高田の知人には桜を楽しみにしている人がたくさんいたから、きっと嬉しそうな顔で花咲く木を見上げて、いつものようなおしゃべりが始まるのだろうと思ったら、
「そうだね、住田は桜が多いから」
彼女は桜を見ることもなくそう言うのだった。
桜が咲くのを楽しみにしていた知り合いが、お花見の話になると昔の話ばかりしていたことを思い出した。酔仙酒造の桜がそれはそれは見事だったと聞いて、「かさ上げ工事が終わったら、同じ場所にまた桜を植えてもらえないですかね」と話した時、長い沈黙の数秒間の後に、「でも、もう戻らないのよ」と言った人のことを思い出した。
桜。待ち望む時間と、失われた時間が交錯する桜。
千々に乱れる。
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