【シリーズ・この人に聞く!第85回】ベストセラー「14歳からの社会学」著者 気鋭の社会学者 宮台真司さん

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思春期どまん中が14歳だとしたらその年頃の子にどんあ言葉で社会という仕組みを伝えられるのだろう?そんな疑問を払拭してくれる一冊が「14歳からの社会学」だ。4年前に刊行されてからずっとロングセラーで、ティーンズのみならず社会人になっても読みたくなる内容。著者の宮台真司さんは子どもだけでなく就職活動の学生や社会現象についても鋭く切り込む社会学者。これからの日本で、どのように生きていくべきか。ご自身の幼少期をひも解きながらお話し頂きました。

宮台 真司(みやだい しんじ)

1959年仙台市生まれ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。首都大学東京教授。社会システム理論専攻。著書に『権力の予期理論』『終わりなき日常を生きろ』『世紀末の作法』『まぼろしの郊外』『援交から天皇へ』など。

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人は、その時代の中で生きていかなければならない。

――宮台さんが子どもの頃は、ちょうど日本の高度経済成長期だったと思いますが、どのような環境で過ごされていましたか?

宮台教授の就活原論(太田出版)

宮台教授の就活原論(太田出版)

僕は転校ばかりで6つの小学校を経て、引っ越しに適応した子でした。京都が比較的長く住んだ土地でしたが、そこはいろんな人が住むコンパクトシティで多様な文化や振る舞いに触れることができました。60年代はオリンピック、70年代は大阪万博…と輝かしき未来を信じられた時代です。年14~5%のインフレ率で経済成長目覚ましく、家に車やら冷蔵庫、クーラーなどが続々やってきた。そういう時代にしていた習い事や遊びは、明らかに今の時代とは違います。その点を踏まえないと勘違いしてしまいますね。

――確かにそうですよね。この本の巻頭にも東中野の街の風景が載っていますが、昭和34年と平成12年と同じ場所の空気感がまるで違います。生きている人の意識も、動いている物も違いが明らかです。宮台さんが14歳の頃はどんな中学生でしたか?

親父のようなブルジョア階級を打倒する革命家になると息まいていました。僕は早生まれで小学3年生頃まで小柄でスポーツなんて得意じゃないと思っていました。関西に6歳で来てボケとツッコミ文化に入って、よくわからないまま小4。そこから目覚めて小4、小5、小6とリレーの選手になったり学級委員をしたり。よわっちい自分と、周りがスゴイと思う自分がいて、ベースは弱い自分なのだとわかっていたんですが、本当に自分の内面を見つめられるようになったのは30代半ば頃からで、それまではわけのわからない人生を歩んでいました(笑)。

――そう振り返られる正直でユニークなところが宮台さんの書くものにすべて反映されているのだと思います。特に『社会が完全じゃないから、人間は生きていけるし、社会も回っていく。常に前に進んでいける』という言葉は本当にその通りだと感じています。子どもたちが社会にどんな思いを描けるのかも幼少期がベースになるのでしょうね。

僕は家庭教師を長年していた経験から言えるのは、ノビシロがある子は親に管理されていない子。成績が良い子で塾や家庭教師でギシギシに詰めた生活を送って希望校にたとえ合格しても、そこで他人に追い越される経験をする。特に幼少期は、いろんな社会階層の人とふれあう必要がある。お受験まっしぐらで均質系の学校には、僕は我が子を行かせたくないです。

――親のいいなりになれる子は、結局自分で考える力なく大人になってしまいますよね。だから今、就職してから仕事を続けられない人がとても多いと聞きますが、こういう現象についてはどう思われますか?

僕が書いている別の本『就活原論』の中でも言っていますが、『親の喜ぶような会社に入ったら人生終わってる』んです。それ自体、落ち目の人生を歩むことだと思う。企業寿命から考えると斜陽になっている自動車、ゼネコンなど特にそうです。親が予想もしないような無名の会社やNPOに入って、自分の加齢や成長と共に大発見していく。これからはそういう道を選ぶべきです。

反抗期のない子は親を越えられない。

――うちは中3の息子が中学入学後ずっと反抗期で一時期は相当なバトルをしました。今、後半になってややマイルドになってきましたが…宮台さんは反抗期ありましたか?

『14歳からの社会学』これからの社会を生きる君に(世界文化社)

『14歳からの社会学』これからの社会を生きる君に(世界文化社)

ありましたよ。母のことを蹴っていた反抗的な子でした。学校からの通信簿も親にみせずゴミ箱に捨ててドロドロになったのを学校に返却したことがありました。でも高校へあがるとそんなに反抗することがないんです。反抗期はあってほしい。何かのデータによると3割は反抗して7割は反抗しないらしいのですが、反抗期が無い子は親を越えられないので後遺症が襲ってくる。反抗するだけするとバーンアウトして落ち着くはず。

――ちょっと意外です!反抗期の渦中にいると「何でこんなこと言うんだろう?するんだろう?酷過ぎる!」とイライラする親が多いと思うんですが。本の中で「自由とは自分で自分を支えること」というのがあって、まさに反抗期はその試行錯誤の中にいるように思います。

学校という場所は単なる通過点で、「いい学校」を出れば立派な大人になれるわけではない。学校がメチャクチャであればこそ、生徒が自分の足で立って考え、行動することだってあり得る。そういう環境のほうが人を育てることもある。これは社会も同じです。問題があるのが当たり前だと思った方がいい。社会も人も不完全なものです。だからこそ前へ進もうとするんです。

――反抗期の時は、学校や家庭や自分の居場所に向かうものなんでしょうか?

そうですね。特に息子は父親との葛藤があります。小さな頃は憧れの存在だけど、だんだん大したことのない大人に感じますし、反抗期だと「こんなことくらい俺だってできる」と見下して「俺ならもっとすごいことできる!」なんて思ったりします。でも反抗期が過ぎて、やがて自分も同じような小さな大人になるのだとわかるものです。

――そういうものなんですね。だからこそ反抗期は通ったほうがいいと?自分のことも周りのことも理解できるようになる大人へのステップなんですね。

社会がもっと傾けば地頭のいい人間が出てくると思います。そういう意味でいい時代が来るはずです。沈みかけた社会は、よらば大樹の社会。どうせ沈むなら早く沈んだ方がいい。その時、沈まない人間を作るべきなんです。役割とか組織の力というゲタをはいて過ごすような人ではなく、そういうものを一切頼りにしないけれど人間力に溢れている人。大人が敷いたレールに乗れるような子どもは生き残れない時代になるはずです。

できる!の連続体験が伸びる力に変わる。

――宮台さんは今6歳と3歳のお二人お子さんがいらっしゃいますが、どんなことがお得意なんですか?

小学校を6つ転校経験した早生まれ で小柄な宮台少年(中央)。

小学校を6つ転校経験した早生まれ で小柄な宮台少年(中央)。

二人とも絵が好きですし、水泳に通っていて、上の子はピアノも習っています。チャレンジして達成することが好きです。6歳の長女は慎重派ですが縄跳び100回、ばってん飛び60回、逆上がりできるようになったし、水泳25メートル泳げるようになった。3歳の下の子は大胆で要領良く空気を読みます。最初できないと思っていても、きっかけがあればできるようになる。できる!できた!という連続体験によって自信もつくし、状況がほんのちょっと変わればできることもあります。

――小さな頃は特に環境や言葉掛けひとつで伸びますよね。今、学校にいろんな要望をする親もいます。宮台さんはもうすぐ上のお子さんが小学校へ入学されますが、こういう世相をどのように感じられますか?

学校は問題を抱えているもので不完全なものなんです。今の親は学歴や住居で区別化したがります。たとえばニュータウンの学校は教員にコントロールする力が無くなってしまう。学校は今や子どものコントロールではなく、モンスターやクレイジーな親にコントロールをする必要があって、お手上げに近い状態だと思います。

――社会も学校も不完全なものだという前提が必要ですね。ご家庭の中で大切にされている信念はありますか?

子ども同士のトラブルはあったほうがいい。もちろんやり過ぎはダメです。叩いてもウソついても意地悪してもいい。何がやり過ぎで、何がそぐわないことかを見極めることが大事だと思います。たとえば宮崎駿の世界観で登場する怪獣や化け物は、人間が作りだしたものだということを教えてくれます。うちは2歳半から4歳くらいまで13~4本宮崎駿の作品をみせました。そのおかげか「プリキュアは付き合い。いいモノと悪いモノがはっきりわかれているお話は好きじゃない」と自分の言葉で言っています。善悪の背景まで物語を理解しているのでしょうね。
僕は「世界を感情的に深く体験する力」が子どもには必要だと思う。たとえば森を体験することは良いことで、夕暮れになると薄暗くなって怖い場所になりますよね。得体のしれないものが住むと同時に小動物や虫も生きている。そういう昔の人たちが教えてきた世界観をわかってもらうことが大事なんじゃないかと思います。僕はピースボートのプログラムを作っているので、今後は家族で貧しい国に行ってみる予定です。文化や環境の違いにショックを受けるでしょうね。子どもたちは自分たちの住んでいる日本が特殊であると早い時期からわかったほうがいい。

――身をもって学ぶことができるのはすごく幸せです。では最後に、小さなお子さんのいる親世代へ一言お願いします。

終わりよければすべてよし、というように、よき終わりに向かうこと。そのためには成長が必要なんです。成長は乗り越えたトラブルの数で決まる。順風満帆でノイズレスな場所に子どもを置いた時点で失敗の始まり。それをよくわきまえる必要があります。社会が暗くなっていくと、より一層人を見るようになります。人は非常時に試されます。平時にいい顔しているのは当たり前だけど、トラブルでその人となりを試されるのだと思います。子どもに何を学ばせて成長してほしいか?というのは、見かけはどうでもいいこと。バレエもピアノも水泳も、うまくなるためには練習すれば取り返しがつきます。そこで習得できることは何か?です。この世界に自分が置かれている意味というのを知ることこそ、最大の目標になるべきです。

編集後記

――ありがとうございました!とても穏やかにお話しされる宮台さんから発せられる言葉の一つひとつは熱がこもっていて、共感することばかり。そしてなんだかお腹の底から力が湧いてくるような不思議な気持ちになりました。宮台さんが執筆された本を読むと同じような感覚をあじわえます。子どもたちへ伝えている言葉、そのまま大人の私たちが受け取っても学びの深い一冊です。これからこの国を担うのは今生きる子どもたち。彼らに何を手渡し、何を伝えていくべきか。インタビューを通してすごく考えさせられました。これからの活動も注目しています!

取材・文/マザール あべみちこ

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