【宮沢賢治と歩く】種山ヶ原からのイーハトーブ遠望

yumenoshippo01

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イーハトーブにはステキな空があります。

イーハトーブ(岩手)にはすばらしい山があります。

山頂近くのシンボリックな残丘(モナドノックス)は、宮沢賢治がこの山を歩きまわった際に、雨露をしのいだビバーク地だったという話も伝わっています。この大きな岩のそばにいると、銀河鉄道の夜に出てくる銀河ステーションは、ここから思い起されたものなのではないかと、そんな想像が湧いてくるのです。

ここは種山ヶ原。宮沢賢治はこの山を愛し、「風の又三郎」や「銀河鉄道の夜」、そして数々の詩に、この山の印象やこの山から得たと思われるインスピレーションが描かれています。

種山ヶ原は奥州市、遠野市、住田町にまたがる準平原(高原)です。もっとも高い物見山の標高は869.9m。一般的な登山口「道の駅種山ヶ原ぽらん」は標高約600mなので標高差はわずか270mしかありません。しかし、種山ヶ原の魅力はたくさんの遊歩道や登山道をめぐって、いろとりどりの自然の姿を楽しむことができること。(登山=ピークハントなんて考えの方にはちっとも面白くない山かもしれません)

静かなしずかな山の旅

山腹には水辺の径、ドングリの径、カタクリの径などたくさんの小道が縦横に延びています。ブリューベルの径、イリスの径、タネリの径など宮沢賢治の作品からとられた名前の道もたくさんあります。そのそれぞれの道がが、それぞれの表情を持っています。だから、とても低山とは思えない山歩きを楽しめるんです。

頂上付近は気持ちのいい草原の高原ですが、ふもとにはこんな沢も流れています。

水量次第では靴を脱いで渡渉しなければならない場所もある、楽しい沢沿いの道。

急斜面を上っていく道は、まさによく整備された登山道。東北ならではの植生で、数々の広葉樹(名前も知らない樹もいっぱいです)やアカマツ(ナンブアカマツというそうです)、カラマツなどの中に道が続きます。

ヤマボウシの赤い実を摘んで食べたり、きのこを取ったりしながらのんびり歩く、山歩き、あるいは山旅を楽しめるのが種山ヶ原。

雑木林の中にちらっと紅葉が見えたりするのが、またいいんです。山一面のもみじも圧巻ですが、緑が残る山で出会った特別な紅葉というのがたまらない。

宮沢賢治の作品によく登場するリンドウやツリガネニンジンなどの青い花がたくさん咲くというブリューベルの広場までのぼって、いったん下り、それからまた物見山を目指してのぼってと、ぐるぐる歩きまわってきました。

ブリューベルの広場には残念ながらブリューベルは咲いていませんでしたが、山桜がほんのりと紅葉して、秋の日差しに輝いていました。山桜の紅葉って、風に吹かれると葉っぱがキラキラして綺麗です。(ブルーベルには種山ヶ原の別の場所でであることができたので、また別の機会にご紹介します。綺麗でしたよ〜)

イーハトーブの風景にとけこんで

種山ヶ原は「イーハトーブの風景地」として指定された7カ所のうちのひとつ。かつては牛や馬の夏の牧場だったそうです。山頂近くまで登ってくると、ひろびろとした草原が眼下に広がります。

眼下ばかりか、そのうち道そのものが草原になって……

やがてモナドノックスが間近に見えてくるのです。

 そしてジョバンニはすぐうしろの天気輪の柱がいつかぼんやりした三角標の形になって、しばらく蛍のように、ぺかぺか消えたりともったりしているのを見ました。それはだんだんはっきりして、とうとうりんとうごかないようになり、濃い鋼青のそらの野原にたちました。いま新らしく灼いたばかりの青い鋼の板のような、そらの野原に、まっすぐにすきっと立ったのです。
 するとどこかで、ふしぎな声が、銀河ステーション、銀河ステーションと云う声がしたと思うといきなり眼の前が、ぱっと明るくなって……

宮沢賢治 銀河鉄道の夜 | 青空文庫

宮沢賢治みたいに、この岩の下でビバークしてみたくなりました(しませんでしたけどね)。きっと山頂を示す柱が「天気輪の柱」のように光り出して、青い鋼の板のような夜空にモナドノックスがつながって、いつしか汽車は空へ。黄色い光にみちた車窓には賢治の顔がぼんやり見えて……。

銀河ステーションのモデルとなったという証拠はないみたいですけど、少なくともこの岩がイーハトーブを見晴らす場所として賢治に愛されたことは間違いないでしょう。

モナドノックスの上からのイーハトーブの遠景です。いろんなかたちの雲を自由に浮かべた空の下、草原が海のように広がっています。

大の宮沢賢治読者である松原正剛さんは、宮沢賢治の作品はひとつひとつとしてではなく、作品全体として読めるというようなことを書いていますが、残された丘と呼ばれるこの岩の上に立ってイーハトーブの広がりを眺めていると、賢治のいろいろな物語が景色のいろいろなところに息づいているように、ふしぎなリアリティをもって感じられるのです。ほら、あそこには又三郎。あっちにはグスコーブドリ。風にのって聞こえてくるのは、おれはひとりの修羅なのだ……

この美しい風景に賢治の心象が映される。それは猛き自然であり、時間の化石、夜の野原に光る竜胆の花、そしてかなしみとよろびが完全に一体化した感情、石に灯る火、死の空を飛びゆく列車。

賢治が愛した美しい山、種山ヶ原。陸前高田や大船渡、遠野などに行くことがあれば、予定を1日のばしてでも必ず歩きたく山です。機会があれば是非どうぞ。

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